二、瀬を早み 岩にせかるる 滝川の

「おお!清盛ではないか!・・・それに重盛殿も。此度の戦での武者ぶりお見事でしたぞ!」
先の保元の乱の功績により、昇段を許される事になった義朝が正装をし御所へ赴き、父為義の助命を願い出るところだった。
そこで一足先に参内していた平清盛と重盛の親子に出くわしたのだった。
「・・・・。」
清盛は無言で片手を挙げ、義朝に薄ら笑顔を浮かべて会釈をした。
「・・・どうした?いつもの饒舌なお前らしくないのう?・・・具合でも悪いのか?」
不思議そうにそうたずねると、傍らにいた神妙な面持ちで重盛が
「実は父は先の戦で為朝殿の猛攻に遭い、精神的なショックで声が枯れてしまったのです。」
「何と!そうだったったのか。・・・我が弟の蛮行、大変申し訳無い。」
清盛が重盛に耳打ちをし
「気にするな、お主が来てくれて一命を取り留めた。と申しております。」
「・・・そうか、正直すまんかった。」
「では、我らはこれにて。」
重盛がそう挨拶をし、親子は去って行った。
義朝は二人の背中を見送ると、後白河天皇と藤原忠通と謁見すべく御所の奥へと歩を進める。

「・・・源右馬権頭、・・・面を上げよ。」
「はっ!」
謁見の間の下座で平伏していた義朝は頭を上げ、初めて帝の玉座を見上げた。
「ウヲッ!すっげえ豪華な部屋だなあ。襖に綺麗な絵とか描いてあるし。こりゃSNSに上げれば「いいね!」がいっぱいもらえそうだなあ。・・・帝は御簾越しで写メ撮れないけど。」
と、思ったとか思わなかったとか。
「何やら、陳情があるとか?・・・申してみよ。」
忠通の問いかけに、軽く舞い上がっていた義朝はハッと我に返り
「・・・はっ!」
とかしこまって返答をし
「・・・我が父、源為義におきましては、恐れ多くも一度は敵側として兵を挙げましたが、今では改心し帝への忠誠を誓っておりまする。・・・もしお命をお許しいただけるのであれば、生涯帝のために働きたいと所望しております。」
それを聞いて忠通は勺を口に当て
「言い分はわかった。・・・しかしのう、先ほど平播磨守が参って、敵に情けを掛けるなと進言してきてのう。・・・それで、叔父の忠正の処刑を命じたところじゃ。」
「な、なんと。」
まさか、清盛がそんな腹づもりだったとは知らず、義朝は驚く。
「・・・困ったのう。そなたの功には報いてやりたいとは思うが、そなたの一族だけ死罪を許したとなると、依怙贔屓だとかずっこいとか言われてしまうからのう。」
「そこを何とか、お願い申し上げます!」
義朝が必死に食い下がると、忠通はちょっと面倒くさそうに
「・・・それに敵方にいた、そなたの凶暴な弟は未だ行方がわからず、逃亡中だと言う事ではないか?・・・まずはそちらをどうにかするのが筋では無いか?」
痛いところを突かれて、義朝は内心中指を立て
「・・・為朝を捕まえられる奴がこの世にいるかよ?・・・簡単に言うなっつうの!」
と、突っ込んでいたが、かしこまり平伏し
「・・・はっ!我が愚弟の件は、追っ手を放って目下捜索中でございます。近日中には捕らえられるかと。」
と、嘯いた。
それを聞いて忠通は
「ふむ、期待しておるぞ。・・・そなたの父の助命の件は、我らの一存では何とも言えんのう。平播磨守と調整して参れ。」

義朝は御所を後にし、早馬を飛ばし平家の屋敷を訪れた。
義朝が急いで門を入ると、庭先で馬の世話をしていた重盛が義朝に気づいた。
「あっ義朝様、血相を変えていかがしましたか?」
「おお、重盛殿!ハアハア、・・・清盛は、父上はおるか?」
その勢いに重盛はちょっと引き気味に
「・・・はい、・・・今一緒に戻ったところですので、おりますよ。・・・こちらへどうぞ。」
立派な屋敷の奥の間に案内されると、清盛はリラックスしこちらに背を向け寝転がり、エロい春画の絵巻を鑑賞していた。
重盛が清盛の背後に近寄って、肩をトントンすると、清盛は慌てて絵巻を放り出して飛び起きる。
顔を赤らめながら清盛は重盛に耳打ちをし
「ど、ど、ど、どうした?そんなに慌てて。と申しております。」
「お主の方が慌ててるように見えるが?・・・いやそんな事より、お主、叔父上の忠正殿の処刑を進言したとは誠か?」
清盛は重盛に耳打ちをし
「そうだ。と申しております。」
「何故じゃ?身内であろう!助けたくは無いのか?」
清盛は重盛に耳打ちをし
「罪人が処罰されるのは当然であろう、それにこれはチャンスだ。と申しております。」
「何?・・・チャンスだと?」
清盛は重盛に耳打ちをし
「我ら自らの手で身内を処すれば、我らの忠心を疑う者は無く、我らはまた一段と高みに上れるだろう。と申しております。」
清盛はニヤリとしながら、唖然としている義朝の肩に掌をポンとおいて、重盛に耳打ちをし
「高い所からの眺めは景色が一変するぞ。と申しております。」
義朝を残し別室へと立ち去った。

義朝は清盛を説得出来ず、失意のまま清盛の屋敷を後にした。
それから間も無く、清盛が叔父忠正を自らの手で処刑したとの知らせが入り、義朝にも父為義を処刑するようにとの厳命が朝廷より下った。
義朝はもうどうする事も出来ず、泣いて詫びながら父為義の首を斬った。
また為義も斬られる直前まで恨み節を並べながら泣いていた。

「・・・クソッ!認めたくは無いが、為朝の言った通りだった。」
悔やんでも悔やみきれない。
真っ直ぐすぎる義朝の心は、父を斬った事によって何かキレてしまった。
「清盛は己の立身のために、身内までをも踏み台にしやがった。・・・いや、それは俺も同類だ。・・・己の保身のために父上を斬ってしまったのだ。しかし、清盛、・・・恐ろしい奴。身内をこうもいとも簡単に踏みにじる事が出来るんだ、他人の俺なんかもっと簡単に踏みにじられてもおかしくない。・・・油断は出来んな。」
そして人づてに、清盛が叔父を率先して処刑するに至ったのは、先の戦での摂関家同士のつぶしあいに乗じてのしあがった、信西と言う頭脳明晰だが出世欲の権化とも言うべき出家した元貴族と結託しての事だと言う事を耳にした。
そもそも保元の乱も、この信西が政敵である藤原頼長と崇徳上皇を陥れて挙兵させたフィクサー的存在でもあった。
清盛は信西の頭脳を、信西は清盛の武力と財力を、お互い利用しつつ二人三脚で朝廷内に権力を伸ばし始めていた。
「・・・おのれえ、清盛いいいいい!!・・・おのれえ、信西いいいいい!!」
義朝のキレた気持ちの中に、かつての盟友、清盛に対する憎悪がうずまき始めたのだった。

そんな頃、先の戦から姿をくらませていた、あの!・・・あの!!・・・・・あの!!!
崇徳元上皇が・・・為朝だと思った?違うんだなあ、残念。
・・・ああ、すいません。・・・話の続きを。
そうです、先の保元の乱勃発の最重要人物で、敗軍の旗頭であった崇徳元上皇が仁和寺に自ら出頭してきたのです。
自らの権力闘争が発端で戦を起こしてしまい、結果数多の人々の命を奪い、そしてその逃亡生活に疲れ、世を儚んだ崇徳元上皇は出家を願い出たが捕らえられ、現在のうどん県である讃岐国へ流刑にされた。
崇徳元上皇はそれに素直に従い、流刑先で三食ほぼ味の無い汁でうどんをすすりながら、五部大乗経の写経をし、先の戦での戦死者の冥福を祈る日々を送った。
それは、これまで波瀾万丈な人生を歩んできた崇徳元上皇が、罪人としてながら生まれて初めて味わう安寧の時であった。
「これは!帝として多忙な日々を送っておられる後白河はんに是非とも味わってもらいたい!」
すっかり流刑スローライフに魅了された崇徳元上皇は、一度は敵となってしまったが弟である後白河天皇に少しでもその安らぎをお裾分けしたいと、写経とうどん一年分を京に送った。
その頃、帝の位を息子の二条天皇に譲り上皇となりつつも政を取り仕切っていた後白河上皇はその兄からの贈り物を目の前にし
「・・・キモくね?」
と、側近に問うように答える。
「・・・は?」
側近がその意図を計りかねている。
「つうかさあ、何なの?お経を書き写して反省してますって言いたいの?イミフじゃね?」
側近が返答に窮していると、後白河上皇は続け様に
「しかもさあ、うどん一年分て何なの?よくクイズ番組とかの景品であるけど、一年分て一年中それ喰ってろって事?飽きるじゃん?そんでさあ、一年365日×3食分で1095食送ってくるってどんだけ几帳面なの?送られてくる方からすればただの罰ゲームじゃん。」
「・・・まあ、そうとも言えなくもありませんが。」
そう、側近が言葉を濁しながら答えると、後白河上皇は即座に
「送り返せ。」
「はっ?」
「だーかーらー、送り返せって言ってんの。うどんにさ、毒入ってるかも知れないじゃん?全部じゃ無くても1/1095の確率でさ。それに麻呂は今グルテンフリーしてるし。そんで、このお経にもさ、もしかしたら呪いの言葉が隠されてるかも知れないじゃん?◯◯を探せみたいにさ。」
かくして、崇徳元上皇の元に彼が京に送った写経と、うどん1095食分がそっくりそのまま宅急便で送り返されてきた。
「・・・・・・・・・・。」
崇徳元上皇は弟の身を気づかっての好意に対してのこの仕打ちに絶句した。
いらないんだったらそのまま捨ててくれた方が良かったのに、わざわざ送り返すとは。
・・・宅急便代がもったいない。国民の血税ですよ?
「・・・クックックッ、ワァーッハッハッハァーッ!!!!!」
元々サイコパス気味だった崇徳元上皇は突然笑いだした。
そしてうどんを打つために使っていた麺棒を突然ブンブン振り回し
「ワァーッハッハッハァーッ!!!!!ウギャッペロ$&&ふじこlp;@!!!!!!」
怒りと絶望のあまり我を忘れ暴れ出した。
監視役のお付きの者は、普段物静かな元上皇のその変わりように恐れおののき逃げ出した。
「ガンカヂウェモゥボヲ#ふじこl−p;@ッッッッッ!!!!!」
訳のわからない言葉を口走っていた元上皇は、誤って舌をかみ切ってしまった。
崇徳元上皇の口からブハッ!!!と鮮血が噴き出し、元上皇はもんどり打って倒れる。
不本意ながら自らの死を察した元上皇は、その半分ちぎれた舌で、舌から滴り落ちる血を使い畳を舐めるように
「日本国の大魔縁になる(笑)」
と畳に書き残し苦痛と絶望と共に絶命した。
そしてその亡骸はあろう事か、禍々しい黒い霞のような物に包まれ消え失せてしまった。

そしてそんな頃、伊豆の豪族、北条時政の娘、政子は野山を駆け巡りかなりのお転婆、・・・いやいや元気な娘へと育っていました。
そしてある日いつものように駆け回っている山中で、うずくまる大きな生き物に出会いました。
「・・・く、熊?」
二話にして主人公がやっと一言って、こんな扱いで良いのだろうか?。
・・・まあ、良いか。

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