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怒りの感情と上手につきあう(その3)

さて、アンガーマネジメントのお話も今回で3回目となりました。
前回3つのコントロールがあることをご紹介し、一つ目の
「衝動のコントロール」いたしましたので、記憶の新しいうちに2つ目の説明を進めていきましょう。
2つ目は「思考のコントロール」です。


3重丸をイメージする思考のコントロール

前回お話した「衝動のコントロール」では、「反射をしない。つまり考えることなく発言したり、行動したりすることを、回避する」ということが目的でした。

そのために6秒待つ。
この6秒の間に理性が介入してくるというお話でした。

では、次の段階である、「思考のコントロール」では何をするかと言えば、
介入してきた理性の下で、自らの「思考=考え」に向き合うことになります。

アンガーマネジメントは怒らないようになることではなく、「怒る必要があること」と「怒る必要がないこと」の線引きが出来るようになりましょう、ということでしたね。
その線引きを、「3重丸」のイメージで整理していくのが「思考のコントロール」になります。

さてここで、弓道で使われる標的の様な形の、中心点を同じにした
3重丸をイメージしてみてください。
そして、的の中心にあたる部分を「1.許せるゾーン」
その外側を囲む2番目の丸を、「2.まあ、許せるゾーン」
一番外側にある丸を「3.許せないゾーン」とします。

イメージ出来ましたか?
3重丸があって、その内側から
「1.許せる」 ⇒ 「2.まあ許せる」 ⇒ 「3.許せない」となります。

「1.許せる」のゾーンは、自分の理想の姿=自分の「べき」が守られている状況ですので、物事がこのゾーンに収まっている限り、怒りは起きません。
「2.まあ、許せる」は、自分にとって100%満足ではないけど、「まあいいかなぁ」と思えるゾーン。
そして「3.許せない」は、
自分の「べき」とかけ離れている=許容できない、というゾーンになります。

イラっとした後、6秒待って衝動をやり過ごしたら、自分の「べき」を振り返りながら、眼の前で怒っていること、体験していることが、この3重丸の1なのか、2なのか、3なのか?と考えてみます。
そして、怒る必要があることと、怒る必要がないこと、の線引きはどこにするか?と言えば、2と3の境界線がそれにあたります。

そしてこの境界線の上ある言葉が「後悔」ということになります。
1と2のゾーンに入る出来事なら怒らなくてよいはずなのに、怒ってしまった。後から「怒らなきゃよかった」と後悔が生じます。

同じ様に、3のゾーンに入る出来事に対して怒らなければ、「怒るべきだった」と、後悔が起こります。
この様に、3重丸をイメージして、その2と3の間にある境界線で、
「怒る必要があること」と「怒る必要がないこと」ことの線引きをしていくわけです。

自分にとっての「べき」の境界線を描き、眺めてみる

ここまで読まれた方は、少し違和感を覚えるかもしれませんね。
「イラっとしたら衝動押さえるまではわかるよ。
で、なに?3重丸イメージして・・・そのどこに入るか考えて、
それから怒るか怒らないか決めろって!?」
「そんな悠長なことやってられるかい!」と・・・

ご説明した手順で、思考のコントロールのプロセスをなぞると、「悠長なこと」と感じるかもしれません。しかし、ここで大切なことは、
自らの「べき」に照らして、この3重丸を意識することなのです。

人は普段の生活の中で、自分が許せること、許せないことの境界線など意識していないのが普通です。
まして「まあ許せる」などという曖昧な感情との境目など考えたこともないでしょう。

「思考のコントロール」は、3重丸のイメージでそれを意識する習慣をつけることによって、自分の感情と向き合い、怒る必要の有る無しを線引きしていく心理トレーニングです。

最初のうちは、「これ2か? いや3だろう?」と迷うかもしれませんが、思考のコントロールが習慣化すると、境界線のどちらにある出来事かの判断が瞬時を行えるようになります。
時に間違うこともあるかもしれません。しかし、怒ったこと、怒らなかったことを後で後悔することは格段に減ってきます。

誰でも最初から上手くできるわけではありません。しかし、アンガーマネジメントの3つのコントロールは誰にでも必ず修得することが可能です。

これが、アンガーマネジメントが「心理トレーニング」である所以です。
まず、やってみる。という姿勢がとても大切です。

思考のコントロールで行う3つのこと

「思考のコントロール」、3重丸の意味がお分かり頂いたところで、
このトレーニングで、やるべきことが3つあります。それは、

  • 2の「まあ許せるゾーン」を広げる。

  • 広げた「まあ許せるゾーン」を安定させる。

  • 「まあ許せるゾーン」の境界線を人に伝える。

の3つです。

人との関係や事象は「許せる」「許せない」の2つだけで決められるものではなく、この「まあ許せるゾーン」があることで、社会は円滑に回っている面もありますので、このゾーンに向き合うことはアンガーマネジメントでとても大切な事となります。

「まあ許せるゾーン」を広げるということは、結果的に怒りにくい状態を作ることになりますが、どこまでも広げていいわけではありません。
それでは、「怒れない人」になってしまいます。

自分にとって100%満足ではないのだが、この程度は許容できる、という
「自分と折り合いがつけられる」ゾーンを広げていくのです。

「せめて・・・」「少なくとも・・・」「最低限・・・」というキーワードで、自分の「べき」を見直してみることが有効です。

2つ目は、広げた「まあ許せるゾーン」を安定させるということです。
いつでも、誰にでも一定にするということですね。

自分が疲れている時は許容範囲が狭く、調子が良い時は狭い。同じエラーがあっても、部下のAさんには「まあ許せる」でも、Bさんには許せない。という対応はダメだということです。
そもそも、自分の「べき」の境界線など考えたこともないわけで、さらに「まあ許せる」というグレーゾーンがあるわけですから、最初はブレて当たり前です。
故に、境界線を意識し、それを安定させる努力をしていくことは怒りで後悔しない自分をつくる上での大切なトレーニングになります。

そして、3つ目はこの2と3の境界線を人に説明することです。
人は同じ「べき」を持っていても、3重丸を構成する境界線の大きさがそれぞれ異なるので、怒りへの許容範囲もそれぞれです。

例えば、サービス業の現場で、お客さんが不愉快を被った様なケース。一般的な顧客対応はマニュアル化されているはずですが、お客さんの許容度の境界線は判断できません。まして、ひとつの怒りは複数の「べき」で構成されていることが多いので、対応を誤るとクレームが必要以上に大きくなる原因となります。
ですから、身近な人たち、家族、友人、仕事仲間などには、良い人間関係を
維持していくためにも、「自分の境界線はここですよ」と説明しておくことが大切です。

3重丸 私の例

以上、「思考のコントロール」について簡単にご説明いたしましたが、私の事例をご紹介してみたいと思います。

【最近イラっとしたこと】
医者の予約時間が守られなかった。
私の「べき」 
⇒ 予約制で診療しているのだから、時間通りに診察すべき。
患者の時間を無駄にすべきでない。

【思考のコントロール】
3重丸1の「許せるゾーン」 
⇒ 時間通りに診察が受けられる。
3の「許せない」ゾーン」 
⇒ 約束の時間に医者に行ったのに、待たされている。
2の「まあ許せるゾーン」 ⇒ 前の患者さんに時間がかかったのかも
しれないし、10分程度の遅れがあってもしかたないか・・・

2の「まあ許せるゾーン」を広げる 
⇒ (1) 後の予定も特にないし、読みかけの本も持ってきている。
30分くらいなら待合室で時間を潰しても大丈夫。
(2) 「せめて」受付のスタッフの方から「前の患者さんに予想以上に時間を要しました。お待たせして申し訳ありません。」との声掛けがある。

実際は、
残念ながら (2) のスタッフからの声掛けはありませんでした。
しかし待つこと20分、ようやく診察室に入ると先生から「いやぁ、大変お待たせして申し訳ありませんでした。」のお詫びが・・・

なにはともあれ、必要のない怒りを生じることなく、診察を終えました。

以上、ご参考になりましたでしょうか?

3重丸の中心「許せる」は、自分の理想ですから、ゾーンとしてはとても小さいものです。故に、2の「まあ許せる」いかに上手く広げていくかがポイントですね。

アンガーマネジメントに3つのコントロールがあると申しましたが、思考のコントロールによって、その事象が1か2に入れば、つまり許せる、まあ許せる、のゾーンに入るならば、それ以上のコントロールは不要です。 この第2ステップで終了です。
なぜなら、「許せる」のですから。

しかし、それが3重丸の一番外側のゾーン「許せない」に
入るようであれば、第3のコントロールが必要になります。

それが「行動のコントロール」ということになります。

この説明は次回にしてまいりましょう。

安藤秀樹
株式会社ドリームパイプライン代表

公式ホームページ: https://dreampipeline.com
お問い合わせ先: hideki.ando@dreampl.com

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