見出し画像

試合中に役立つ「ミスの儀式」とは?

昨年12月の投稿(私たちは「励まし方」を教えられていない)で、
「人を励ます言葉選び」についてお話しいたしましたが、このテーマでもう少し書かせて頂きます。


ときに、無責任を感じさせてしまう激励の言葉

先週、「頑張れ」は、評価言語として使うと効果的だが、激励の声がけとしては逆効果になるケースもある、というお話をしましたが、同じような言葉に、

大丈夫!
ドンマイ!

などがあります。
ドンマイは Don’t mind(気にするな)の和製英語に由来する、昭和の時代から使われている言葉ですね。
普段、この言葉で人を励ましている方々にとっては、「何がいけないの?」と思われるでしょう。
決して「いけない」とか「禁句」という訳ではないのです。
「頑張れ」と同様、人によっては激励の効果がない、ということです。

大丈夫!や、ドンマイ!は、
あるアンケートによると、
「軽い」、「無責任」、という印象を与えるようです。

「頑張れ」に対して、「これ以上何を頑張るんだよ~」と感じるのと同様、「大丈夫!」に対して、「何が大丈夫だよ、外野が無責任なこと言いやがって」が内なる声として上がってくることがあるそうです。

こうしたネガティブ反応になる原因は、声がけされる方に、言葉を受入れるだけの心のゆとりが無いからです。
そのくらい、切羽詰まっている、落ち込んでいる、ということですね。

「何がドンマイだよ!」も同じ原因です。

ですから、「大丈夫、大丈夫」の連呼ではなく、相手の心を奮い立たせるなら、「今までやってきたことに自信をもって!君なら大丈夫だよ。」
とか、「皆が応援してるから、大丈夫だ。」と、丁寧な表現を用いて、相手の心に少しスペースを作ってあげることが必要です。

軽い声がけは「ミスの儀式」に使える

上述の様に、相手が悩みを打ち明けている時、相談を受けたとき、
残念な話を聞かされた時、「大丈夫、大丈夫」「ドンマイ、気にすることはない」という軽い声がけは、気持ちのゆとりの無い相手から反感を買うこともあるのですが、逆に活用の場もあるのです。

それはスポーツにおける、
「ミスの儀式(ミステイク リチュアル - Mistake Rituals)」
と呼ばれているもので、予め決めておいた簡単な言葉やジェスチャー(儀式)によって気持ちを切り替える方法です。

ミスやエラーはチームにとって貴重な学びの機会となりますが、試合中に起きると、ましてや試合の重要な局面で起きると、チームのムードを悪くしたり、意思疎通を悪くさせてさらにミスを誘発する、いわゆるミスの連鎖の原因にもなります。そして、ミスをした当事者の心に、焦り、負い目、自己嫌悪などが生まれます。

この様な状況で、ミスは避けられないものとして受入れ、選手、監督、コーチは一番大切なことに集中する。すなわち気持ちをリセットして次のプレイに臨むことが大切です。
なにしろ試合は続いているのですから。

このリセットに使われるのが「ミスの儀式」です。
予め練習の時からミスに対してお互いに掛け合う言葉やジャスチャーをチームで決めておき、試合中にミスやエラーが起きた時には、当事者とチームの全員が、即座にその儀式を行うことで「気持ちを切り替えて、チーム一丸で前に進む」ということを約束事にしておくのです。
儀式として、約束事として取り決めているかどうか、定かではありませんが、よく見かけませんか?

「ミスの儀式」の事例

野球で野手がエラーする。
その直後、野手全員がアウトカウント数だけ指を立てて、(例えば2アウトだったら、人差し指と小指)、「ツーアウト、ツーアウト」と声をかけ合う。
これは、「あと一つでチェンジだよ。そのくらいのエラー大丈夫」
「気を引き締めて、あとひとつ確実にアウトとろうぜ!
という意思の共有なのだと思います。

バレーボールでサーブをミスする。
ラリーポイント制ですから相手に簡単に点をやってしまう。
サーバーがコートに入ると、周りの選手が皆手を出してハンドタッチを交わす。肩から下の高さですね。ハイタッチは良い時の儀式ですから。
あれも、お互いの身体に触れることで、「ミスを誰も責めちゃいないよ。
僕らは仲間だろ」という、一種の動物的なリアクションにも思えます。

そして野球のケースでも、バレーボールのケースでも、エラーした当人が自分で頭を叩いてみたり、詫びのポーズをとったりしないのも印象的です。
試合中は自分にネガティブな影響を与えない、という約束事に見えます。

言葉だけでなく、ジェスチャーや身体の接触をもってリセット効果を狙う「ミスの儀式」。
この中では、短くて軽い言葉でも効果があるでしょうし、その言葉でチームの気持ちをリセットするという約束事が決められていれば、「ドンマイ!」にも異論は無いはずです。

声がけのバリエーションとしては、「ナイスチャレンジ!」
「スマイル、スマイル!」など。

ジェスチャーも肩を軽く叩きあう、自分の胸叩く、など、「さぁ、次行こう!」という儀式は色々考えらえます。

私のフィジカルのパーソナルトレーナーMさんは、野球のご経験が豊富な方なのですが、この話をしたところ、内野手の「ミスの儀式」として、試合中にゴロを取りそこなった後は、守備位置について大声でボールを呼び込むこと、つまり、「もう一本こっちに打ってこい!」と叫ぶことだそうです。
なるほど。

ビジネスの場ではどうでしょう?
ミスしてしまった時、スポーツの試合中の様に瞬時に気持ちの切り替えが必要な場面は少ないかもしれません。
しかし、交渉の場や、プレゼンテーションで気持ちをリセットする方法、例えば静かに深呼吸する。メガネを外して拭く。
など、は自分なりに儀式として決めておくことは大切ですね。「これをやれば気持ちをリセットできる。」という自分への約束事です。

実は、この「ミスの儀式(ミステイク リチュアル - Mistake Rituals)」は、
Double Goal Coaching(2つのゴールを持つスポーツ指導)を標榜する、米国のPositive Coaching Allianceが掲げている
ポリシーの一つです。

2つのゴールとは、スポーツの競技としてのゴールと、人としての成長、人生のゴールのことです。
スポーツ指導者への様々な提言や、選手や父兄とのコミュニケーションのあり方など、自習教材の公開などを通じてしています。

スポーツ指導の分野での様々な課題への取組み、特にアマチュアスポーツ、青少年スポーツの領域では、欧米の方が先を行っている感があります。

安藤秀樹
株式会社ドリームパイプライン代表

公式ホームページ: https://dreampipeline.com
お問い合わせ先: hideki.ando@dreampl.com

拙著 『ニッポンIT株式会社』
https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/
Amazon Kindle本 3部門で売上一位獲得
「実践経営・リーダーシップ」部門
「ビジネスコミュニケーション」部門
「職場文化」部門


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?