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大雪の思い出(2)

前日の記事の続編です。私の故郷は温暖なため、たった10センチの積雪でも、小中学校の全校が休校になりました。それだけ、積雪が珍しい事なのです。この時は、公共交通といってもバスだけしかありませんが、そのバスが全面的に不通になりました。私の父はバスの運転手だったので、臨時の休みになりました。

私と弟が薄汚れたかまくらを作って一段落した頃、父の友人が訪ねてきました。父の友人はタクシーの運転手だったので、やはり臨時休業になったようでした。そのおじさんは、おそらく暇を持て余して遊びに来たのでしょう。おじさんは、父としばらく話した後、一緒に出掛けようと準備をしていました。どうやら、暇なので早い時間から飲み会をしようと話し合ったようです。

宴会のメインメニューは水炊きで、そのためにニワトリを調達しようという話になりました。しかし、肉屋さんで鶏肉を買ってくるのではなく、おじさんの知り合いの養鶏業者からニワトリを仕入れてくることに決まったみたいでした。二人が出かけて少し経つと、まだ生きているニワトリ2羽を袋に入れて、二人が戻ってきました。私が、「生きたニワトリなんか買ってきてどうするの?」と聞くと、「絞めるんだよ」とおじさんがワイルドに答えました。その時、知識としては”絞める”意味を知っていましたが、実際に身近で行われるのは初めての体験でした。

実際に絞めるシーンは流石に見せませんでしたが、締めて羽毛がはぎ取られた逆さ吊りのニワトリを、偶然見てしまいました。このニワトリが、その日のメインディッシュでした。宴会時の鍋は定番で、水炊きやはも鍋をよく食べた記憶があります。水炊き自体は、珍しくありませんでしたが、”絞めた”ニワトリを使った水炊きは初めてでした。

何だか嫌だなぁと思いつつ、それしか食べるものが無いので、みんなで水炊きを囲むことになりました。水炊きの具はシンプルで、鶏肉と豆腐と白菜だけだったと思います。水炊きのタレは、醤油に柚子をしぼったポン酢醤油だったと思います。

鶏肉に十分火が入り、水炊きが出来上がったので、いよいよ実食です。偶然見たニワトリの姿が頭をかすめましたが、意を決して美味しそうな骨付き肉を選びました。その肉を食べた瞬間、その弾力に驚きました。いつもの肉屋さんの鶏肉なら、皮がヤワヤワで簡単に嚙み切れるのですが、その皮は全く噛み切れません。何度か嚙みついて、ようやくゴムのような弾力の皮を噛み切ることができました。

どうやらニワトリを買う時に、若鳥と間違って卵を産まなくなったニワトリを買ってきたようでした。地鶏などでは、噛み応えのある肉質のモノはありますが、ゴムのような弾力の鶏肉は初めてでした。皮はゴムのようでしたが、肉質もパサパサしていて、食べられたものではありませんでした。結局、最初に選んだ小さな鶏肉一個を完食する頃には、アゴが疲れてしまいました。その後は、豆腐や白菜で食事を済ませました。こんなにマズイ水炊きは、生まれて初めてでした。しかし、父やその友人のおじさんは平気な様子で、私には信じられませんでした。

私見ですが、現在の長寿社会は、このようなワイルドな人たちが牽引しているのかもしれません。

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