見出し画像

「小世界大戦」の【記録】Season1-20

職員室をざわつかせる「事件」は唐突に訪れた。

吾郎がかねてから気にしていた、
あの片山結香が突然失踪したというのだ。
表面は絵に描いたような優等生であったが、
生徒指導主事の永山が「黒幕」とよんでいた女生徒である。

 結香は、3年生の二学期に入ってからしばらく欠席が続いていた。
さすがに担任が家庭訪問すると、
保護者は渋々結香の「家出」の事実を告げたという。

 結香の両親は地域の実力者であったゆえ、
世間体を気にして捜索願は出していないとの事だった。

 訊けば、すでに夏休み中である8月末から行方不明の状態になっており、
書き置きなども何もないとのことだった。まさに「蒸発」だった。

緊急職員会議で報告を聞いた職員たちはざわめいた。

「これはもう事件じゃないか」・・・吾郎はそう思った。
世間体などより、結香の安全の方が
何よりも優先すべきじゃないのか?という素朴な気持ちだった。

「保護者に捜索願を出してもらうよう、教育長を通じて説得します。」
校長が例のだみ声でそう言い放った。


  こういうときは、本当に決断の早い上司であると吾郎は思っていた。
かなり強権的ではあったが、不安定な学校現場では、
適材なのかとも思えた。

しかも、しっかりとそのスキームに教育長を取り込む点は、
なかなかにしたたかだ。
 敵にはしたくない人物だとそう思っていると、
財前先生がニヤリとこっちを向いていた。
 吾郎は、この男も敵にはしない方がいいと密かに思った。

すると、何人かの職員が立ち上がった
「校長、それは如何いかがかと思いますが・・。」

声の主は、いわゆる「反主流」という言い方をされている教職員団体くみあい員だった。

 この県の教職員団体くみあいの組織率は、
ほぼ100%に近い組織率であったが、
彼らの言い分から言うと「当局御用組合」だという。
どうしても「対立」しようという一派は存在していた。

 確かに加入していなければ、教員住宅も当たらないし、
極端な例、管理職推薦もされないという実態だった。
福利厚生組織である「教職員互助会」と
鵺のような一体化をしていたのだった。
そこに加え「支持政党」をめぐって、二つの派閥が生じていたのだ。

 県内においても、この二つの派閥の「勢力地図」は微妙に違っていた。

~やれやれ、ここでも具だくさんか。~

吾郎は苦笑した。

CONTINUE

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?