日経ビジネス2024/04/22-23の記事に『富士フイルムHD助野会長と語ったマネジメントの極意』（前編、後編）が掲載されていました。この特別対談では、阪神タイガースの岡田彰布監督と富士フイルムホールディングスの助野健児会長が、リーダーシップとマネジメントの哲学について深く掘り下げています。岡田監督は、自らのリーダーシップスタイルとして「選手と距離を置く」という方法を取り入れ、チームのダイナミクスと選手の自立性を促進しています。これに対して、助野会長は現場に足を運び、直接コミュニケーションを重視するアプローチをとっており、経営者としての役割を強調しています。あたかも真逆であるようにも見えますが、それぞれの良さも垣間見えます。

岡田監督のリーダーシップ戦略

　岡田監督は、選手の個々の役割を明確にすることに重点を置いており、これが38年ぶりの日本一という結果につながった主要因です。彼は選手のポジションと打順を固定化し、選手たちに安定感を提供しました。岡田監督の哲学では、選手が自身の役割を確実に理解し、チームの一員としての責任を自覚することが求められます。さらに、彼は「明日につながるピッチャー」の概念を提唱し、敗戦処理ではなく、将来の勝利に資するような戦略的な運用を心掛けています。これは、単なる敗戦を避けるのではなく、次の勝利に向けて布石を打つことを意味しています。

助野会長のマネジメント手法

　助野会長は、ビジネスの現場においてもリーダーが直接関与し、部下との対話を重視することの重要性を説いています。彼のアプローチは、現場の声を直接聞くことで、組織全体の課題を把握し、即座に対応策を講じることが可能になるというものです。これにより、会社の目標達成への動機付けがなされ、部門ごとの具体的な行動計画が明確になります。また、助野会長はスピード感を持って意思決定を行うことの重要性を強調しており、ビジネス環境の変化に迅速に対応するための戦略的思考が必要であるとしています。

コミュニケーションスタイルの対比

　岡田監督と助野会長のコミュニケーションスタイルは大きく異なります。岡田監督は、選手との直接的なコミュニケーションを控えることで、選手自身の自立と自己解決能力を促進する一方で、助野会長は積極的に現場と対話を行い、社員一人ひとりが会社の方向性と自身の役割を理解し、それに基づいて行動できるようにすることを目指しています。この違いは、スポーツとビジネスという異なるフィールドでのリーダーシップの適用において、各々の環境と要求に最適な方法を採用していることを示しています。

組織運営における共通点

　両者は異なるアプローチを持ちながらも、組織を効果的に運営するための基本的な原則—明確な役割分担、戦略的思考、そして適切なコミュニケーションに共通して焦点を当てています。役割が明確であれば、個々のメンバーは自己の任務に対する責任感を持ち、全体の目標達成に向けて能動的に行動することが可能です。また、リーダーが示すビジョンと指導が、チームや組織全体のパフォーマンス向上に不可欠であることも、両者の話から共通するところです。

　この対談からは、リーダーシップとマネジメントにおける多様なアプローチが見て取れます。岡田監督の「距離を置く」スタイルと助野会長の「現場主義」は、それぞれのフィールドで最大の成果を引き出すための戦略として有効であることを示しており、異なる方法が異なる状況に適していることを教えてくれます。どちらのスタイルも、リーダーとしての自己認識と環境への適応能力が成功への鍵であることが分かります。

リーダーシップとマネジメントをさらに深掘り

リーダーシップの距離感の違い

　岡田監督は選手との距離を意図的に置くことを選択し、特に選手と直接的に多くを語らず、彼らに自己解決能力を促すことに重点を置いています。彼の方法は、選手が自身の役割と責任を深く理解し、それに応じて自らを調整できるようにすることを目的としています。岡田監督は「あえて選手としゃべらない」と述べ、この距離感が選手たちを自立的に成長させる手段であると考えています。これは、選手が安定したパフォーマンスを発揮するための基盤を提供する戦略です。

　対照的に、助野会長は積極的なコミュニケーションを重視し、部下との対話を通じてビジョンと役割の理解を深める方法を採用しています。助野会長は現場の声を直接聞くことの重要性を強調し、部下たちが企業の目標に対する自分たちの役割をより良く理解できるよう努めています。このアプローチは、明確な指示と期待の伝達が中核となっており、部下が企業目標に対する自分の貢献を明確に理解することを助けます。

役割の明確化とチーム構成

　両者は役割の明確化がチームのパフォーマンスに与える影響についても言及しています。岡田監督は選手の役割を明確に定義することで、各自がチーム内での自分の位置と責任を理解しやすくなると説明しており、これが選手が安定したパフォーマンスを発揮するための基盤を提供するとしています。また、助野会長も部門ごとの役割を明確にすることで、全体の企業目標達成に向けて個々の貢献を最大化することを目指しています。

マネジメントにおける選手と部下の扱い

　岡田監督は、選手の自立を促すために敢えて指導を控え、コーチに具体的なフィードバックを行うよう指示しています。これにより、選手は自己評価と自己改善の機会を持つことができます。また、助野会長は部下に対して積極的にフィードバックを提供し、継続的な改善と成長を促進するマネジメントスタイルを持っています。このアプローチは、部下が自分の業務に対して主体的に取り組み、組織全体の目標達成へ貢献するための基盤を強化します。

組織の未来の構築と長期的な視点

　両者ともに、リーダーシップとマネジメントのアプローチにおいて未来の構築が重要であると捉えています。岡田監督は若手の育成に重点を置き、長期的な視点からチームの構築を行っています。助野会長はジョブローテーションを通じて部下の適性を見極め、組織全体の柔軟性と対応力を高めています。これらの戦略は、それぞれの組織が持続可能な成長と成功を達成するための重要な要素です。

まとめ

　この対談からは、リーダーシップとマネジメントの成功が異なるアプローチによってもたらされることが示されています。岡田監督の選手への自律性の促進と助野会長の部下との直接対話による明確な指導は、それぞれの分野での目標達成に対して効果的な方法であると言えます。これらの洞察は、スポーツとビジネスのリーダーたちが自身のチームと組織をどのように導くかについて、貴重な教訓を提供しています。それぞれのリーダーシップスタイルが異なる状況でどのように機能するかを理解することで、より効果的なチーム管理と目標達成の方法を模索することが可能でしょう。