つばめ理念

無料塾が人をつくる|第3章-8|皐月秀起

4/19発売予定の出版費用を捻出すべく、クラウドファンディングを今週からスタートさせました。応援のみなら1000円、書籍1冊付きで2000円からとなっています。応援いただければ、幸いです!

公か?私か?

私たちが無料塾をやる「必然性」も自分自身で確認できたところで、実現に向けて前に進めていくことにしました。きっかけとなった新聞記事には、「公設無料塾」とありました。「公設」ですから、文部科学省や地方公共団体など行政からの支援を受けて、地域のNPO法人(非営利活動法人)が運営するというスタイルが基本です。市区町村自体が運営するところもあります。講師の人件費や会場費など運営にかかる費用の一部を行政から補助してもらえるケースもあるなど、大きなメリットがありますが、私たちは公にはあまり頼らず、自主運営路線を歩むことにしました。

なぜなら、公に頼ると、私たちの活動にいろいろと制限が出てくるかもしれないと思ったからです。市区町村などの公的機関は、何より「公平性」や「平等」が求められます。例えば、遠方から通う子どもに交通費を補助したい、あるいは模擬試験の費用を補助したいとなった場合、市区町村からいただいた補助金を原資にすると、それは「公金の横流し」なってしまいます。目の前に、勉強する意欲がある子どもが困っているのに、力になれないのはとても辛いことです。ユニバーサルなサービスは行政でないとできないことですが、困っている事情が多様な今の時代は、オーダーメイド的な対応も求められます。その部分は、私たちが臨機応変に対応した方がうまくいきそうだと思いました。

つばめと出会う

まずは、講師集めに取りかかりました。10月の終わり頃に、アザレア43の学生に、「来年から仁川のリーダーズカフェで小中学生向けの無料学習塾を始めようと思っています。そこで、講師ボランティアを募集します。報酬も交通費も出ませんが、活動に興味を持たれましたら、ご連絡ください」とLINEを送ったところ、その日に2人の2回生(当時)の男子学生から「やります!」と連絡がありました。1人は森田悠斗(もりたはると)君。現在、NPO法人リーダーズカフェの理事でもあります。もう1人は伊藤環(いとうたまき)君。彼は、逆瀬川教室で数学を中心にほぼ毎週教えてくれています。

さらには、私が所属している吹奏楽団ウィンドバーズの団員の1人から「現役の教師で毎週は無理だけど、ぜひ関わりたいです!」と言ってくれました。吹奏楽団の日曜練習のときに、友だちがおらずぽつんと1人休憩していた私に、「さっちゃーん、こっちおいで!」と、当時まだ話したこともないおじさんにきさくに声をかけてくれたのも彼女でした。

これで講師3人が固まりました。この3人が記念すべき、宝塚つばめ学習会の“オリジナルつばメンバー”です。

次に、無料塾のモデルになるようなところはないかなと探しました。私たちのような、行政とは少し距離を置いた、自主運営路線のところはないかなと探したところ、ちょうどぴったりのところが見つかりました。それが「NPO法人八王子つばめ学習塾」です。2012年9月に小宮位之(こみやたかゆき)さんが立ち上げた無料塾で、東京都八王子市を拠点に現在は7教室、約100人の生徒さんを抱える、文字通り「つばめの総本山」です。

小宮さんの薫陶を受けたメンバーが、関東ではなくここ関西に無料塾を広げており、その代表格が「NPO法人阪神つばめ学習会」さんです。阪神つばめ学習会さんは、宝塚市のお隣の西宮市で活動されている無料塾で、2015年8月に庄司知泰(しょうじともひろ)さんが立ち上げました。

それぞれに連絡を取り、宝塚での無料塾立ち上げの主旨を説明しました。まずは、10月25日に阪神つばめ学習会さんを見学させていただき、学習会後に庄司さんにいろいろとお話を聞かせていただき、運営のイメージを膨らませました。次に、11月26日には八王子つばめ学習塾の小宮さんにお目にかかって、立ち上げの経緯や心構えなどをじっくりお伺いしました。お2人とも、とてもきさくに包み隠さず教えていただき、快くつばめファミリーに加えていただきました。

私たちの無料塾の名前を「宝塚つばめ学習会」と決め、目標もはっきりし、あとは粛々と進めていくだけとなりました。

学校に立ちはだかる高い壁

場所(リーダーズカフェ)と講師(3人)に目途が立ち、運営方法も少しずつイメージができてきました。あとは、生徒集めです。前にも書きましたが、無料で学生が教えるなら、ある程度は集まるとタカをくくっていましたが、これが難航しました。まずは、リーダーズカフェ近くの集合住宅などに、無料塾スタートのチラシを200枚ほどポスティングしました。

さらに、近隣の小中学校に連絡を取り、実際に学校にお邪魔し、無料塾開校の主旨などをご説明しました。これには、以前やっていたPTAの繋がりが役に立ちました。面識のあったPTA会長さんに連絡を取り、学級(クラス)委員さんが集まる会合の冒頭3分ほど時間を頂き、説明したりもしました。繋がりのない学校には直接お電話をし、お伺いもしました。都合、4か所の小中学校にアプローチしましたが、反応はなかなか難しいものでした。

みなさん、「主旨はよく分かりますし、需要もあると思います」とは口を揃えて言ってくださいます。ですが、「生徒さんにプリントとしてチラシを配っていただけませんか?」とお願いすると、「それはちょっと...」「教育委員会に相談が必要になります」と。校内へのポスター掲示も難しいとのことでした。

あとから気づいたのですが、問題は「経済的に困難なご家庭の子どもたち」という文言が難しいようでした。生徒全員にプリントを配り、そういう無料塾があるということが周知徹底されると、ある子が宝塚つばめ学習会に通っているということが知れると、「あの子のご家庭は経済的に困難」という、ある意味レッテルが貼られる、そういうことのようです。実際、ある学校にご説明にあがりたいと電話をすると、「うちには経済的に困難なご家庭はありません」と言われたこともあります。別の学校からは、「そんなプリントを配ったら、保護者さんからクレームが来る」とも言われました。

ということなので、それ以降は小中学校に直接アプローチするという方法は一切取らないようにしています。どうも、「無料塾=貧乏な子が行く何だか暗い塾」というイメージがあるようです。世の中に無料塾があまりない、そういう文化が根付いていないので、これもまた致し方ないことです。こういったイメージの類は主観に左右されるので言及は難しいですが、学習会の様子を見ればイメージは随分変わるとは思います。現在ある校外学習の中で、有料塾と同じくらいの存在感を無料塾が放つようになるような社会にしたいと、新たなモチベーションが生まれました。

これにて第3章は終了です。ここまでお付き合いいただき、ほんとうにありがとうございます!次回からは第4章「立ち上げ~つばめのフライト~」となります。お楽しみに!

#小説 #読書 #教育 #子ども #ボランティア #リーダーズカフェ #全文公開

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?