つばめ理念

無料塾が人をつくる|第3章-4|皐月秀起

「日経新聞読む会」をスタート

大家業も2年目に入り、アザレア43内の管理人室兼個人事務所で普段は仕事をすることになったので、新入生歓迎会でお迎えした1回生13人だけでなく、他の学年の子どもたちともほぼ顔見知りになりました。

新入生歓迎会の次の日が入学式。その日の夕方に帰宅しようとしたら、エントランスに昨日の1回生の男子がいました。「どうしたの?」と声をかけると、「昨日、仲良くなった子とメシに行くんです」と。心の中でガッツポーズしていました(笑)。

新入生歓迎会が成功したあと、次に「何か学生のためにできないか?」と考えました。いろいろ思案した結果、まずはマンションの1階の空きスペースに「読書室」を設置しました。私が読み終わったビジネス書、イスやテーブルも置いて、自由に読んでもらうことにしました。さらには、「大学生なら日本経済新聞(以下、日経)くらいは読めるようになってほしいな」と思い、日経も読書室に置くことにしました。

しばらく経って、「日経を読めるようにはなってほしいけど、なかなか大学生が読みこなすにはハードルが高いかも。一緒に読んであげたらどうだろう?」と思いました。1人では続けられないけど、一緒にならできないかと。これが今も続いている「日経新聞を読む会」です。

私自身も大学時代に新聞は読んでいましたが、1人で読んでいました。先生や専門家みたいな偉い人ではない大人が一緒に新聞を読んでくれる勉強会が、もし自分が大学時代にあったら絶対的に行ってたよなという思いもあったからです。

参加メンバーを募るために、「日経新聞読む会に来ませんか?」というチラシをポストに入れ、興味があった5人ほどの1回生にガイダンスをし、2013年6月5日に初めて開催しました。参加者は1回生で福井出身の武田一樹(たけだかずき)君とわたし、マンツーマンでスタートしました。

進め方は、参加者が気になる記事を選んでもらい、その記事について自由にディスカッションをするというもので、現在と進め方は全く変わりません。分かりにくいところは少し解説をしたり、興味や関心が少しでも広がるよう、記事から脱線しながら話を広げていきました。

学生との距離感を測る

6月にスタートした日経読む会ですが、まずは週1回を目標に続けていました。アザレア43には関学生が40人近く住んでおり、一通り声はかけましたが、興味や関心はバラバラ。というより、ほとんどの子は無関心と言っていい状態でした。最初はガイダンスに来てくれた5人などが、1回、2回は参加しましたが、すぐに来なくなりました。「参加します」と連絡があっても、寝坊して来ず、1人でポツンと待っているというのは日常茶飯事でした。最初は、部屋をピンポンするなどして呼びに行っていましたが、そもそも彼ら彼女らにとって優先順位が高くないことなんだと悟って、部屋まで呼びに行くのはすぐにやめました。

でも、それもまた仕方ないことだとも思っていました。学生からすると、「何かためにはなりそうだけど、他に楽しいことがあるしな。朝早起き(といっても9時始まりですが)するのもなんだし...」というのが本音でしょう。みんな独り暮らしで、起こしてくれる家族もいませんから、なおさらです。

そんな中、初回に参加してくれた武田君ともう1人、同じ1回生で岐阜出身の早川碩(はやかわひろ)君が参加するようになりました。彼ら2人は、「少しでも新聞が読めるようになりたい」ととても意欲がありました。たまに読書室を覗くと、この2人はよく新聞を読んでいました。

その年の夏ごろに、武田君から「僕は商学部で政治のことが全然分からないので教えてほしい」と頼まれ、パワーポイントなどで資料も作って、2日間で4時間の勉強会を2人でしました。日経読む会も、前もって新聞を読み、あらかじめピックアップする記事を選んでおいて、ネットなどで下調べを少ししたものをノートにメモした上で、彼は参加していました。みんな参加日当日に少し早めに来て、慌てて新聞を読んで記事をピックアップするのが普通なのに、下調べまでして参加していたのは、後にも先にも彼1人です。

一方、早川君からも「皐月さん、時間ありますか?」と聞かれ、何かと思うと、「社会事象についてのレポートを書くんですが、新聞を一緒に読んでくれる大家さんのことを書きたいとゼミの先生に言ったら、『そんな大家さん、聞いたことがない』と言われ、信じてくれないので詳しくインタビューさせてもらえませんか?」とのこと。そういうことならと、2日間に分けて2時間くらい話をしました。「無事に単位が取れました」と聞いたときは、うれしかったです(笑)。

この2人以外にも、1回生を中心に話を聞くことが増えてきました。中でも、「バイトをなかなかやめさせてもらえないので相談に乗ってほしい」とか「いいバイト、近くにありませんか?」など、バイト関係の悩みが多く寄せられました。「夏休みに、何をしたらいいですか?」と聞かれたときは、「そんなの自分で決めなさい」と追い返したりもしました。

いろいろ話をするといっても、アザレア43の入居者約40人の内で、延べ10人以下です。まあ、これでいいと思っています。みんながみんな仲良く繋がっていなくてもいいし、マイペースで頑張る子はマイペースで頑張ったらいい。ただ、何か相談したいときに、実家の家族に相談すると心配するだろうしな...と思ったときに、ちょっと「近所のおっちゃん」を思い出してくれたらいいなと思っています。そんな学生との距離感は今も変わっていません。

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