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「短編小説」Rain doll

「あめふり少女」の都市伝説には悲しい理由が……。
恐くないホラーです(^-^*)

※表紙画はエブリスタのお仲間、熊野菜名さんが描いてくれたイラストを使用しています。 

文字数(本文のみ):約7500字  読書時間目安:12分


☆  ☆  ☆  ☆  ☆




 

1 都市伝説


 「雨ふり少女の伝説?」

 城木良幸は顔を顰めながら聞き返した。

 「ああ。この場所ではたまにあるらしい。どこからともなく『あめふり』の歌が聴こえてくることが。女の子の声でね。それも、地の底から響くような、恐ろしげな声だそうだ」

 同僚の丘野達夫が応える。2人は神奈川県警港西署の刑事だ。

「あめあめ ふれふれ かあさんが……っていうあれか?」

 城木は辺りを見まわしながら更に訊いた。

 昔、横浜を横断するJRの貨物路線があった。もう何十年も前に廃止となったが、その線路が未だに一部残っており、更にこの先には貨物を降ろしていた駅――西倉庫前という飾り気のない名前だ――がある。また、貨物をいったん保管する役割だった倉庫のいくつかも、朽ちかけた状態で残っていた。

 駅にしても倉庫にしても、さびれて崩れそうな姿はもの悲しく感じられる。夜間の今、暗闇に包まれるさまは不気味でもあった。

 「そうそう……」面白がっているのか、声を潜める丘野。「歌が聴こえてくると、その後雨が降り始めるんだそうだ。なぜか、聴こえる範囲だけ。で、雨を避けようと走り出すと、倉庫の辺りから少女が現れて手招きするんだ。それに誘われて行った者はどこかに忽然と消えて、行方不明のままだってさ」

 「ふっ」と笑って肩をすくめる城木。「都市伝説としてはインパクトが弱いな」

 「おまえは相手が幽霊でも、美人なら口説くような奴だからなぁ」苦笑しながら応える丘野。「そもそもここは、半グレや本物のヤクザが取引やハンパ者の処理をするって噂されるような場所だ。たまに行方不明者が出たって不思議じゃない。幽霊のせいじゃなくてもな」

 そう、治安の悪い一帯だった。普通に生活している一般市民は滅多に近づかない。廃線後に土地の扱いに困ったJRや市が手をこまねいている間に、悪化の一途を辿ったからだ。

 西倉庫前駅跡地に向かうこの路地からは、みなとみらいの輝かしい夜景が見える。しかし、こちらはまともな人間は寄りつかない死んだ土地……対比がもの悲しさを際立たせていた。




 「そんな場所で、永山はいったい何をしているんだ?」

 意識を仕事に戻す。今は、恐喝の容疑がある永山栄二を尾行していた。

奴は表向き興信所を開設しているが、実は仕入れた裏情報を元に人や企業を強請ゆするのが生業だ。今回も、市内の芸能事務所に所属アイドルの過去の恋愛についてある事ないこと含めてまとめた「調査報告書」を送りつけ、雑誌社に売られたくなければ金を出せ、と要求してきたらしい。

 すぐに連行しても良かったのだが、被害者の証言しかない状況では惚けられた場合取り調べが長引くし、下手をすれば検挙につながらない。なので、何か別件でもいいので、きな臭いことをやらないか見張っていた。数日それを続けると、ボロを出すヤツが多いのだ。

 「さあなぁ? わからんが、こんな所に来たって事は、何か怪しいことをやるつもりじゃないか?」

 首を捻りながら丘野が応えた。

 「まあ、1人肝試しなんかじゃないことは確かだろうが……」

 溜息混じりに言う城木。正直なところ、あんなちんけなヤツの捜査に余計な労力を使うのはもどかしい。

 永山が歩いて行った奥の倉庫跡を見る。動きはない。

 もう少し近づいてみるかと一歩踏み出した時、急に車のエンジン音が響いた。

 息を呑み顔を見合わせる城木と丘野。

 「うわぁっ!」

 そんな叫び声をあげながら、男が1人走ってくる。間違いない、永山だ。

 その後ろから、一台の車が猛スピードで追う。永山を轢き殺そうとしているかのようだ。

 永山は慌てており、時折足がもつれて転んでは立ち上がり、と這々の体で逃げている。

 車は国産のセダンだが、前のバンパーは頑強に補強されている。まるで、人を轢くために強化されたかのようだ。

 体が自然と動いた。城木は走り出し、車に向かって大声を張りあげる。

 「警察だっ! やめろっ!」

 だが止まらない。今度は城木に突進してくる。





 「城木っ!」

 丘野の悲痛な声が聞こえてきた。

 くっ!

 目の前まで来た車を、横へ飛んで避けた。そのまま路面を転がり立ち上がる。

 身構えたが、車は向きを変え再び永山に襲いかかっていく。動きの鈍い彼ではとても逃げ切れない。

 城木は辺りの路面を見まわした。手頃な大きさの石があった。素早く手にとり振りかぶる。そして、凶獣のように永山を襲おうとする車の後部ウインドウに向けて、思い切り投げつけた。

 ドンッ! ミシィッ!

 衝撃音が激しく響く。ガラスにひびが入る。運転していた奴は驚いたのだろう、車は大きく蛇行し、古い倉庫の壁面に衝突して止まった。ボンネットの部分が倉庫の壁に突き刺さったかのようだ。

 運転席と助手席から、よろよろと男が2人降りてきた。

 「こいつらっ!」

 逮捕しようと駆け出す城木。それを見て、2人は慌てて逃げ始める。

 「お、おい、城木っ!」

 呼びかけてくる丘野に「永山を確保してくれ」と言い捨て、2人を追った。

 逃げ足が速い。走るのには自信があったが、連中もこのような荒事に慣れているようだ。

 しばらく追うと、横浜港へと続く運河に行き着いた。

 もう逃げられないぞっ! 

 追い詰めた城木だが、おとなしく捕まるとは思えない。反撃に備える。

 だが、2人は驚くべき行動に出た。躊躇なく運河に飛び込んだのだ。

 なんだと?

 城木が駆けよると、男達がちょうど息継ぎのためか水面から顔を出す。だがまたすぐに潜っていった。

 夜の海。波は穏やかだが暗く、そのうねりのどこに紛れ込んだのか、ここからはわからない。

 仕方なく戻ると、パトカーの音が近づいてきた。丘野が連絡したのだろう。





 「おまえ、あくどいことをやり過ぎて、ついに命を狙われるようになったみたいだな」

 丘野に支えられて青ざめた顔をしている永山に、笑いながら声をかける城木。

 「な、何だよ、刑事さん達。俺は被害者だぜ? もっと優しくしてくれよ」

 態度はふてぶてしい。しかし瞳は泳いでおり、内心ビクついているのは見てとれた。

 「まあ、署に行っていろいろ訊こうじゃないか。ちょっと激しかったが、お話をする良いきっかけができたよ」

 そう言いながら、丘野が永山を引っ張る。パトカーの到着地点まで促していった。

 城木は連中が乗り捨てた車に歩み寄る。倉庫にめり込んでいた。古い建物で良かったと言うべきか。もし最新の造りだったら、衝突で車は大破し、あの2人は下手をしたら死んでいたかも知れない。

 ミチミチミチ……。

 何か不穏な軋み音が聞こえてきた。

 ん? 

 危険を感じて城木は後退る。

 次の瞬間、ドドウッ!! と音をたて倉庫が崩れ落ちるように倒れた。

 危ないなぁ。まあ、何十年も前から手入れもされなかったんだろうから、仕方ないか。

 夜の闇に漂う土埃を見上げ、そして、力尽きて瓦礫となった倉庫の残骸を見下ろし、城木はふうと息を吐く。

 その時……。

 あめ あめ ふれ ふれ かあさんが

 じゃのめで おむかえ うれしいな 

 ぴっち ぴっち ちゃっぷ ちゃっぷ 

 らん らん らん……

 どこからともなく、女の子の歌声が聞こえてきた。





 ……?!

 ビクッとして硬直する城木。そしてゆっくりと辺りを見まわす。

 誰もいない……。

 頬に水滴が落ちた。

 雨……。まさか、雨ふり少女?

 あめ あめ ふれ ふれ……。

 歌声がまた聴こえる。噂での恐ろしい声ではなく、どこか悲しげだ。

 視線を下にも向けてみる。すると、瓦礫に紛れ人形らしき物があった。

 これは……?

 近づき、拾い上げてみる。

 アンティーク人形ドールのようだ。ドレスを着た金髪の少女。しかし、埃にまみれ、ボロボロになっている。

 城木は人形の汚れを払い、なるべく綺麗に見えるようドレスを整えてあげた。そして、駅ホーム跡へと歩く。

 そこにはまだ屋根も残っていた。そしてホームには、古ぼけているがベンチもある。

 荒廃した一帯だけど、ここからは景色がいいんだよな。

 ホームに立って見上げると、夜空が大きく広がっていた。下には街の光、その向こうには海も見える。

 「ずっと倉庫の中に閉じ込められていたんだろう? これからは、景色を楽しみなよ」

 そう言って、人形をベンチに座らせた。姿勢を整え、一番良い方角へと顔を向けてやる。

 ふと、人形が微笑んだような気がした。

 いや、気のせいだよな……。

 肩を竦めると、城木はその場を後にした。




  

2 過去の事故

 
 「……っていうことがあったんだ」

 城木が一通り話して聞かせると、三ツ谷徹は「ふうん」と面白そうな目をしながら見返してきた。

 「城木君って、女性であれば人形相手でも優しいんだね」

 「それって褒めてる? それともディスってる?」

 「いやぁ、感心しているんだけど」

 アハハ、と笑う三ツ谷。彼は神奈川県警科学捜査研究所の所員だ。城木と同年代で若いが、優秀でその情報収集力には誰もが一目置いている。

 城木はたまに三ツ谷から情報を得て、捜査に活かしていた。今日は気になることがあり、仕事帰りによってみたのだ。

 「気になるって、その『雨ふり少女』の都市伝説のこと?」

 三ツ谷がテーブルに珈琲カップを2つ置きながら言った。

 「ああ」と応え、いれて貰った珈琲を一口飲む。「俺は実際に歌声を聞いたような気がするんだけど……」

 「あの地域は、たまに心霊スポットみたいな扱いされることもあるからね。それに、過去に大惨事もあったし……」

 「え? 大惨事?」

 「知らないのかい? まあ、60年以上も前のことだからなぁ」

 そう言いながら、三ツ谷はパソコンを操作した。そしてモニターをこちらに向ける。

 そこには「横浜の貨物駅にて化学薬品に引火。大爆発。死者15名 重軽傷者32名」というタイトルの新聞記事が映っていた。

 「こんな事があったのか……」

 思わず溜息を漏らす城木。

 「当時はものすごいニュースになった……って言っても、僕も生まれるずっと前だから、こうやってデータで見ただけなんだけどね」

 廃線となるずっと前、高度成長期のまっただ中、あの駅は横浜市内や川崎の工場地帯へ化学燃料等を運ぶ際の中間地点として、活発に人や物資が行き交っていた。

 ある日、その駅でイベントを行うことになった。日頃大型車両が頻繁に行き来したり、危険な薬品類も通過するため、近隣に住む人達にとっては迷惑なこともあっただろう。その地域感情を少しでも緩和するために企画されたようだ。

 しかし、それが裏目に出た。





 イベントで提供する軽食を調理中、火災が発生してしまう。場所が悪く、倉庫に保管されていた化学薬品にも引火し、大爆発を起こしたのだ。

 「酷い事故だな……」

 溜息をつく城木。

 「うん。犠牲者の中に、地域に住む一般市民も多く含まれていたためにJRっていうか当時の国鉄は糾弾されたし、政府も批判された。マスコミも、この事故に関する話題をたくさん採りあげたから、必要以上にいろんな情報が飛び交ったらしい。被害者達のプライバシーなんかも悲劇のように書きたてられたり……」

 いくつかの当時の新聞・雑誌の記事がモニターに映っていた。

 城木はそれらを順番に読んでいく。そして、ある家族のことが目にとまった。

 古い雑誌の記事だ。

 「……沢田さんのお宅は両親と姉妹の4人家族だった。今回の事故で、父の保さん、母の里子さん、姉の真美子さんを失った末っ子の彩子さんは天涯孤独となってしまった。1人だけ倉庫の外で綿菓子を買っていたので助かったのだが、まだ5歳だ。仲の良い姉妹で、大好きな『あめふり』の歌をそろって唄うのが最近の楽しみだったという。そして、なんでも、この日お姉さんが持ってきていたアンティーク人形を、次の誕生日に譲り受けることになっていたらしい。その人形も、お姉さんと一緒に事故に巻き込まれてしまった……」

 そんなことが書かれていた。

 アンティーク人形……?

 「どうしたの?」

 城木の顔が深刻な色を帯びたので、三ツ谷が訊く。    

「これ……」と城木が記事を示す。

 「この人形が、君が拾ったという物だと? そして、雨ふり少女の……」

 「い、いや、まさか、そんなことが……。でも、なんかひっかかるな」

「気になるなら、調べてみようか? この彩子さん、当時5歳ならもうすぐ70歳だけど、存命の可能性は十分ある」

 あめ あめ ふれ ふれ……。

 そんな歌声が、どこかから聴こえてきたような気がした。




3 不正

 科学捜査研究所を後にし帰路に就く城木。途中、スマホが鳴ったので出ると、今日当直となっている丘野からだった。

 「妙な案配になってきたよ」

 声に怒りと困惑が混じっていた。

 「永山のことか?」

 「ああ。あいつ、証言をくつがえしやがった……」

 永山は、あの後署で多くのことを話した。芸能事務所のことも認めたのだが、それ以上に大きな事をやろうとしていたのだ。

 ある製薬会社の不正だ。新薬認可のために一部政治家や官僚へ多額の資金が流れたという。その証拠を掴んだ彼は、脅迫にかかった。相手方がいったん了承したらしく、証拠となるデータと金の取引を、あの西倉庫前駅近辺の倉庫跡ですることになっていた。

 だがそれは罠だった。相手方は、永山を始末しにかかった。城木達はその場に居合わせたわけだ。

 取り調べの際、データはメモリーカードに入れたが、逃げる時に落としたと言っていた。後日港西署員でそれを探すことになっていたのだが……。

 「製薬会社の不正は全部嘘だ、って言い始めたのか?」

 「そうなんだ。弁護士が現れてな」舌打ちしながら話す丘野。「しかもその弁護士、どうやら永山が強請ゆすろうとしていた製薬会社の顧問らしい。おそらく、接見の時に何らかの取引が行われたんだ」

 弁護士は、芸能事務所恐喝については永山を無料で弁護するとでも申し出たのだろう。そして、製薬会社の不正に関するデータを渡せば今回のことは不問にし、命を狙うことはないとそそのかし、黙らせた……そんなところか?

 「車で襲われたことも、たぶん暴走族かなんかだろう、とかぬかし始めた。製薬会社関連については、白紙に戻すことになったよ」

 永山が落としたという証拠データが見つかったら、県警の捜査2課へと引き継ぐ予定だった。そうなれば、政界や財界も巻き込んだ大事件となっていただろう。それが今、振り出しに戻ったわけだ。

 くそっ!

 舌打ちをすると、城木は電話を切る。

 帰宅するつもりだったが、足はあの廃線駅跡地へと向かっていた。





  

4 雨

 もはや死んだ駅となった場所を、城木はまた訪れた。線路側からホームへ飛び乗る。

 あの人形が、まだ座っていた。

 「やあ」と軽く手を上げる。「君は沢田真美子さんの人形……いや、もしかして分身? たとしたら、もし妹さんが存命で居場所がわかったら、会いたいかい?」

 月明かりを反射したのか、人形の目が輝いたような気がした。

 その時――。

 この間崩れた物の向こう側、まだなんとか建っている2棟の倉庫の方から、何かが動く気配が感じられた。

 もしかして……?

 城木は人形に向き直ると「ちょっと待っててね」と言ってホームを飛び降りる。

 見覚えのある2人組……あの時運河に飛び込んで逃げた男達が、何かを探しまわっている。

 なるほど、永山が証拠データの入ったカードを落としたって言うのは、本当らしいな。

 城木の目が鋭くなる。

 製薬会社の不正も事実で、そのカードがあれば捜査も始められる。巨悪を叩くための道は、まだ残っているというわけだ。

 奴らにそれを渡してはいけない――。

 城木はいったん離れ、丘野にメールを送る。今の状況を説明し、応援を要請したのだ。

 「あった、これだ」

 男の声が聞こえた。

 「よし、戻るぞ」ともう1人が応える。

 「ちょっと待った」

 城木が立ちふさがった。警察の身分証を提示する。

 「おまえら、あの時の泳ぎの得意な2人だな? 俺のこと覚えてるだろう。そいつはおまえ達に渡すわけにはいかない」





 舌打ちして目配せし合う2人。いったん肩を落としたが、それは芝居だった。素早く懐からナイフを取り出し、襲いかかってくる。

 城木はその切っ先を避けると、フットワークも軽く男達の後ろにまわり込んだ。

 振り向いた最初の男の鼻先に左ジャブを2発たたき込む。

 もう1人が再度ナイフを繰り出してきたが、それをダッキングして躱し、直後に右ストレートを放つ。男はその場に倒れた。

 最初にジャブで怯ませた男が体勢を立て直す前に、右フックを見舞う。その男も倒れ、2人そろって見上げてくる。

 城木はこれ見よがしにその場でシャドーボクシングを披露した。そして2人を見下ろし……。

 「まだやる?」

 男達は呆然として動けなくなった。

 だが……。

 「動くなっ!」

 後ろから野太い声がかかった。ちらりと振り向くと、銃を持った男が1人立っている。銃口は城木に向けられていた。

 「チッ、もう1人いたのかよ……」

 「遅いから様子を見に来たんだが、良かった。刑事さん、悪いが死んで貰うよ」

 「俺が死んだら泣いちゃう女の子が、たくさんいるんだけどな」

 肩を竦める城木。

 倒した2人組が、よろよろと立ち上がる。そして銃の男の後ろに逃げる。

 銃口は城木を向いたままで、いつ火を噴くかわからない。

 どうするか? 

 考えを巡らせる城木。とはいえ、絶体絶命なのは間違いない。





 その時……。

 あめ あめ ふれ ふれ かあさんが

 じゃのめで おむかえ うれしいな

 ぴっち ぴっち ちゃっぷ ちゃっぷ 

 らん らん らん……

 夜空に響くように、少女の歌声が聴こえてきた。

 え? 

 突然のことに、男達の視線があちこちに向かう。歌い手を探している。

 まさか……!

 城木は目を見張った。雨ふり少女?

 次の瞬間、そこだけなぜか、ザーッと雨が降り始めた。

 「うわっ!」

 銃の男が怯んだ。

 その隙を逃さない城木。素早く動き、銃を左のショートフックでたたき落とす。更に男の顎をアッパーでかち上げた。

 男は壊れた人形のように崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。

 残りの2人は、抵抗するのを諦め項垂れる。

 いつの間にか、雨はやんでいた。
 
 パトカーの音が近づいてくる。丘野がすぐに対応してくれたのだ。

 その後、3人が警官達に連行されていくのを見送ると、城木はまたホームへと向かう。

 スマホが鳴る。三ツ谷からだった。

 「やあ、沢田彩子さんの居場所がわかったよ」

 「三ツ谷君、やっぱり君は最高だよ。タイミング良すぎ」

 そう言いながら、城木は人形を抱き上げた。





 

5 再会

 その家は、閑静な住宅街の中にあった。

 「先日連絡させていただいた、城木です」

 呼び鈴を押し、インターフォンに向かって名乗る。

 「おばあちゃん、お客さんだよー」

 たぶん5歳くらい――事故当時の沢田彩子と同じくらいの女の子の声が聞こえた。

 玄関が開くと、上品そうな女性が出てきた。高齢ではあるが、元気そうだ。

 「こちらの人形ですが……」

 あのアンティーク人形を差し出す。できるだけ綺麗にしてきた。

 おばあちゃんと呼ばれた女性――沢田彩子は人形を見るなり目を大きく見開いた。涙が零れ落ちていく。そして……。

 「おねえちゃん……」

 震える声でそう言った。

 必要最低限のことだけ告げると、城木はその家を後にする。

 せっかくの、六十数年ぶりの再会を、邪魔してはいけない。

 よかったな……。

 フッと笑い、空を見上げる城木。

 あめ あめ ふれ ふれ……。

 穏やかな風にのり、歌声が聴こえてきた。

                                    Fin


※最後までお読みいただき、ありがとうございます(o_ _)o

冒頭で説明したとおり、表紙画はエブリスタのクリエーター仲間、熊野菜名さんに描いていただいたイラストから作成しています。
元のイラストをこちらで紹介しますので、ご覧ください。


作画:熊野菜名様

作品イメージぴったりの素晴らしいイラストをいただきまして、感謝しています。
熊野さんは、エブリスタで小説やイラストを発表されています。
素敵な作品がたくさんありますよo(^-^)o ↓↓↓


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