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「短編小説」暗殺者達

 廃墟となった遊園地に深夜、死刑囚が集められた。いったい何のために……?

本文文字数:約7450文字 読書時間目安:12分


☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 


 ついに、最後の一人になっちまった……。

 坂口龍一は走っていた。深夜、廃墟となった遊園地を……。

 いったい何が起こっているんだ?

 月の光が、動きを止めて久しい遊具の数々を照らしていた。

 錆びついた観覧車は年老いた巨大生物のような姿で、必死に逃げまわる龍一を見下ろしている。

 夜空にひびが入っているように見えるのは、死んだジェットコースターのレールが広がっているからだ。

 風が吹き、割れた案内板が揺れてカスカスと鳴った。

 息を切らしながら、龍一は回らなくなって何年経ったのかわからないメリーゴーランドの輪の中へと入っていく。

 中心部にまで進み、馬車の後ろに隠れるようにしながら座り込んだ。

 神経を研ぎ澄ませ、気配を探る。

 今のところ、近くには誰もいないらしい。

 なんでこんな事に?

 さっきまでのことを思い出す。

 死刑囚が、龍一を含め10人、突然目隠しをされ車に乗せられた。あれは2時間くらい前だっただろうか?

 車が停まり、龍一達は降ろされた。

 連れてきた者達が「100数えたら目隠しを取れ」と言っていなくなった。

 言われたとおりにしてみると、深夜の廃遊園地だったのだ。その中央あたりにいた。

 「なんだ?」

 「どうしてこんな所に?」

 困惑する10人の死刑囚達。




 その目の前に、妙な連中が4人、姿を現した。

 タンクトップ姿、巨漢で筋骨隆々の男。

 ミリタリールックで、タンクトップの奴よりは小さいが体格の良い男。

 白衣を身に纏った、スラリとした男。

 琉装りゅうそうというのか、沖縄の民族衣装らしきものを着た、まるで人形のように華麗な女。

 「俺の名はセオという。これからゲームを始める」

 ミリタリールックの男が言った。どうやら彼がリーダーらしい。

 「1分経ったらベルが鳴り響く。同時に俺達は活動を開始し、おまえ達を殺すために動く。この廃れた遊園地から無事に抜け出せたら、おまえ達は無罪放免だ。どこへでも逃げていけばいい。いいな、1分後だ。逃げに徹するでもいいし、反撃して俺達を殺すでもいい。ルールはない。健闘を祈る」

 それだけ言い残し、その妙な4人は風のように動いて闇の中に消えた。

 最初困惑していた死刑囚達は、しかし、すぐに無罪放免という言葉に色めき立つ。

 「と、とにかく逃げようっ!」

 誰かの声とともに、一斉に走り出した。

 だが……。

 あの妙な4人の殺傷能力は恐ろしいものだった。

 開始されてから10分と経たないうちに、残るは自分1人となった。

 龍一も死刑囚だ。大量殺人を行い服役中で、いつ執行されるかわからない。

 どうせなら早いとこやってくれ、と思っていた。26年という短い人生だったが、後半はクソみたいなものだ。

 命の危険にさらされているからなのか、昔のことが走馬燈のように目に浮かんできた。



 


 人生の前半は幸せだった。仲が良く優しい両親、なかなかに綺麗で成績優秀な姉とともに、普通に暮らしていた。

 あの日までは……。

 ある夜、高校で生徒会役員の活動を終えて帰宅中の姉が襲われた。

 血まみれになって帰ってきた彼女は、両親の手の中で息をひきとった。胸部に深々とナイフが突き刺さっていた。

 犯人は近くに住む大学生で、数ヶ月にわたって姉に対しストーカー行為を繰り返していた男だ。

 つきまといや無言電話、あるいは脅迫まがいのことまでして姉に迫っていたが、ついに凶行に及んだ。

 姉は死ぬ間際、両親にその男に刺されたと告げていた。目撃者もいた。逮捕は確実だと思われた。

 しかし……。

 警察は証拠不十分として男を逮捕しなかった。目撃者も、いつの間にか証言を取り消していた。

 男の父親は、外務省の重鎮だった。政権にも警察にも影響力を持つ。

 何度もしつこく捜査のやり直しを訴えていた両親は、車で移動中暴走するトラックの無謀運転に巻き込まれて事故を起こし、死んだ……。

 そういうことなのか……。

 当時中学生だった龍一にもわかった。テレビドラマなどでよくある、権力者による一般市民への強権発動……そんなものは実際にはなく、きっと正義が勝つのだと信じていた思いは、見事に砕け散った。

 親戚に預けられた龍一の人生は、その後復讐一色に染められた。

 残された哀れな弟を演じながら体を鍛えた。中学、高校と柔道部に入り、同時に空手部の友人から打撃技も教わっていった。




 高校卒業後は自衛隊へ入り鍛錬を続けた。その甲斐があり、レンジャー資格もとった。素手で人を殺す技もいくつも身につけた。銃や爆発物の取り扱いも覚えた。優秀な隊員として何度も表彰され、いずれは幹部になるだろうとも言われた。

 そのまま別の人生を歩む事も頭をよぎったが、そのたびに目に浮かんだのは、両親と姉の笑顔だ。

 善良で何の罪もない家族が、たった一人の身勝手な衝動のために殺され、理不尽にもその事実が闇に葬られた。それは、許すことはできない。絶対に許さない――その思いだけが、龍一を支えていたのだ。

 自衛隊に所属しながら事件を調べ続けた。

 殺害した男、その事実を隠蔽させた父親、指示に従って圧力をかけた警察幹部、更にその下で事実をねじ曲げて大金をせしめた警察官達――ターゲットは6人。

 休暇をとった龍一は除隊届けを上官に送り、連中を次々殺害した。

 姉を実際に殺した男は、その父親の目の前で首を斬り裂いてやった。息子の死を嘆くより自分の命乞いを優先した父親は首をへし折った。

 正義より私腹を肥やすことや昇進を望んだ警察官達は、姉や両親に詫びの言葉――うわべだけだろうが――を言わせた後で射殺した。

 虚しかったが、やり遂げたという思いはあった。

 自首する前に、龍一は姉や両親の死を含む全てのことを記した書類をマスコミに送った。

 それで今後、そのような横暴がなくなるための、少しでも助けになればと思った。しかし、外務省や警察組織が暗部を隠すことにし、マスコミに圧力をかけた。

 大手の新聞社やテレビ局はだんまりを決め込んだ。

 一部、アングラと言われ眉唾に見られていた雑誌社や、地方ではあるがまだジャーナリズムの矜恃を持ち続けていた新聞社とテレビ局がわずかに報道したものの、それが大きく広がることはなく、いつの間にか話題にものぼらなくなった。ネットで盛り上がったとしても、それが表の社会で功を奏することもない。

 事情はどうあれ大量殺人を行った龍一には死刑判決が下された。それで良いと思った。最初から覚悟していたのだ。だが……。

 結局、クソだ、この世の中……。

 そんな思いを抱きながら、死刑囚として執行の日を待っていた。

 それが、突然――。



  


 
 現実に意識を引き戻す。

 メリーゴーランドの中央部にしゃがみ込みながら、さっきまでの出来事を思い出した。

 ゲーム開始のベルが鳴り響いた後……。

 全員で走り、とにかく出口を探した。

 思ったより遊園地は広く、なかなか見つからない。焦りは募る。

 しかし、こちらは10人いる。相手は4人。武器を持っているのかも知れないが、戦って活路を開くことも方法の1つだ。

 様々な思惑が、それぞれの胸にわき始めた時――。

 先頭を走る死刑囚に、何者かが体当たりをした。その死刑囚が大きく吹き飛ばされ、トイレらしい建物の壁に激突する。

 全員の足が止まった。

 タンクトップの巨漢が現れたのだ。体当たりをしたのは彼だった。

 「よう、俺はフェルムだ。鉄の元素記号Feのフェネル。鉄の男っていうことで、よろしく」

 ニヤリと笑いながらフェルムが言った。





 「くそっ! この野郎っ!」

 体当たりされた死刑囚がフェネルに殴りかかる。彼も体格は良かった。腕にある程度自信もあるのだろう。しかし……。

 フェルムは男のパンチを頬に受けても微動だにしなかった。

 「効かねえなぁ」

 そう言いながら、フェルムは男の首を右手で掴んだ。そして一気に力を込め握りしめるだけで、その首をへし折った。

 「てめえっ!」

 1人が叫びながら、フェルムに向かっていく。手にはいつの間にか棒状のものを持っていた。

 広場に看板があったのだが、それを引っこ抜いて杭の部分だけにしたのだろう。

 バキッ! と音がして、杭がフェルムに打ちつけられる。

 だがやはり、彼は平然としていた。木の杭が砕け、欠片が宙を舞う。

 フェルムはさっきと同じように男の首を無造作に掴んだ。

 「鉄の爪アイアン・クローって知ってるか? プロレスの技。俺のはそのリアル版だぜ」

 そう言って嗤うと、フェルムはまたしても男の首をあっという間にへし折ってしまった。

 「うわぁっ!」

 死刑囚達は逆方向に逃げ出した。

 龍一は迷う。戦うという選択肢もあったが、一瞬フェルムと視線をぶつけると、後に続いて走った。




 死刑囚達は「花の館」という建物に駆け込んだ。

 エントランスは広く大きな花壇があったが、誰も手入れをしなくなって何年も経っている。荒れた畑のようだ。

 壁を彩る花々の絵がどこか寂しく感じられる。

 奥へ行くか、それとも別の出入り口を探すか、死刑囚達はキョロキョロとした。

 すると……。

 「あら、ここに来ちゃったんだ?」

 どこか幼げな女性の声が響いた。

 全員の視線が声の主の方を向く。

 鮮やかな色の琉装を身につけた、小柄な女性が立っていた。よく見ると、まだ若い。おそらく龍一よりも年下だろう。

 「私はティナ。よろしくね。……って言っても、みんな殺しちゃうんだけどね」

 「くそっ!」と一人が憎々しげな声を漏らす。「この小娘を捕まえて、人質にしちまおうじゃねえか。拷問して何やってるのか説明させるのもいい」

 男が言うと、横のヤツも「よし」と頷く。凶悪犯らしい発想だ。

 「え~? いやぁっ!」

 はしゃぐような声をあげると、ティナは走って逃げ始めた。




 頷き合った男2人が後を追う。ティナに追いつきそうになり、その華奢な体をとり抑えようとするが……。

 不意に立ち止まった彼女が、スッと宙に舞い上がる。そして回転しながら、追ってきた男達の横っ面を蹴った。

 うがっ、と叫びながら倒れる男達だが、すぐに立ち上がり、身構える。

 「ざけんなよ、小娘。そんなちっちゃな体じゃあ、たいして効かねえよ」

 男達がまた襲いかかろうとする。

 「きゃあっ!」と叫ぶものの、ティナは笑いながら身を翻す。アクロバットのように回転して離れると、何かを懐から取り出した。それを放つ。

 小さなブーメランのような物だった。2人の男達の首を一回りすると、再びティナの手に戻る。

 ……?

 戸惑っていた男2人が目を合わせた途端、その首から血しぶきが舞いあがった。そしてその場に崩れ落ち、動かなくなる。頸動脈を斬り裂かれていた。

 ティナは「うふふ……」と笑みを浮かべ、ブーメランをもう一つ取り出した。両手で構え、こちらを見据える。

 龍一は身構えた。危険な武器だが、急所を外して避け、たたき落とす事も可能なはずだ。

 バタバタと足音が聞こえた。別の死刑囚達が逃げ出したのだ。

 入ってきたのとは別の場所に、小さなドアがあった。そちらに向かっている。龍一は、ティナから視線を外さないまま死刑囚達の後を追った。

ティナは動かない。なぜか最後に、龍一に向けてウインクしてきた。




 ドアの先は細い通路だった。おそらく遊園地が稼働していた頃、従業員の通路だったのだろう。

 しばらく進むと、別のドアがあった。外へ行けるのかも知れない。

 先を走っていた死刑囚達が飛び出していく。

 「あ、待て、気をつけろっ!」

 龍一は危険を感じて声をかけたが、遅かった。

 「うわぁぁっ!」と叫び声が響く。

 注意しながら龍一も外に出ると、一番先頭を走っていた男が、何か透明な糸のようなもので雁字搦《がんじがら》めにされている。

 その横に、白衣の男が現れた。

 「やあ、私はメディコ。イタリア語で医者の意味さ。その糸は手術用なんだ。で、知っていると思うが、医療用のメスは強力で切れ味は他の刃物以上なんだよ」

 説明しながら、メディコはメスを取り出した。そして屈んだかと思うと素早く腕を動かす。

 倒れている男の頸動脈がスパッと切り裂かれ、血飛沫が舞った。

 「さて、次は誰を治療してあげようかな?」

 メディコは左手を白衣のポケットに突っ込み、何かを取り出した。よく見えないが手術用縫合糸らしい。手首をくるくる回すと、透明な糸が広がり円を描く。

 得体の知れない恐ろしさに息をのむ龍一。




 な、なんなんだ、こいつらは? なんのために死刑囚を殺し続けているんだ?

 メディコが左手をサッと翻した。縫合糸が月や微かな照明に照らされて輝く。そして、死刑囚の1人の体に巻きついた。

 「ぎゃあぁっ!」

 恐怖の表情で叫ぶ男。

 クイッとメディコが左手を動かすと、まるで独楽が回るように男が引きつけられていく。糸によって操られているかのようだ。

 メディコがサッと右手を翻した。メスがきらめく。次の瞬間、糸によって引きつけられた男の首筋から噴水のように血が噴き出した。

 「ひいぃっ!」

 龍一以外に残った3人の死刑囚が、慌てて走り出した。

 だが……。

 彼らの前にセオが現れた。手にはサバイバルナイフ。

 立ち止まる3人。戦うか逃げるか迷う暇を与えずセオが動いた。2人の首を次々切り裂き、残りの男の胸に深々とサバイバルナイフを突き刺す。おそらく心臓を貫いただろう。

 あっという間に3人とも崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。

 ただ1人残った龍一とセオの視線がぶつかる。

 右手側にはメディコが立ちメスを輝かせていた。左手側にはいつの間にかティナがいて小型ブーメランをこちらに向けている。そして、セオの背後にフェルムが歩み寄り、仁王立ちした。

 この状態で戦っても負ける。そう思った龍一は走り出した。



  


 ……そして今、メリーゴーランドの中央に座り込み、龍一は考え込んでいる。

 この廃遊園地に連れてこられた死刑囚のうち、最後に生き残ったのは自分1人――。

 どうすればいい?

 そもそも、あの恐るべき4人は何者なんだ?

 なぜこんなことをする?

 いったい何が起こっているんだ……?

 考えてもわからない。ならば、もう、確かめるしかない。そのために戦い、殺されたなら仕方ない。元々死刑囚だ。いずれ執行されるのを待つのみだったのだ。

 決意を込め立ち上がる龍一。

 ふと思い立ち、メリーゴーランドの馬車の窓枠の一部を空手の技でたたき折った。短い棒状の木片を手にする。そしてゆっくりと歩き、遊園地の通路に立つ。

 「やっと出てきたか、坂口龍一」

 声がかかった。セオだ。正面に立っている。そしていつの間にか、自分を囲むようにフェルム、ティナ、メディコ……。

 覚悟を決めた龍一は、視線を巡らせて4人を順番に睨みつけた。

 「なぜこんなことをするのか、教えてもらうぞ」

 セオの目つきが鋭くなる。フェルムとメディコが不敵な笑みを浮かべた。ティナはヒューと微かに口笛を吹く。

 「いくぞ」とセオが一歩踏み出す。

 その瞬間、ティナが小型ブーメランを放ってきた。

 龍一は手にした木片を素早く動かす。ブーメランは木片に突き刺さった。

 ……!? 

 ティナが目を丸くして驚く。こんなに愛らしい顔をする女の子が殺人者だなんて、信じられなかった。




 メディコが縫合糸を飛ばしてくる。

 ブーメランの刺さった木片を翻し、龍一はその糸を絡め取った。そして力を込めて引くと、メディコがよろめく。

 フェルムがすごい勢いで駆け寄ってきた。その大きな手の平を龍一に向ける。

 咄嗟に前に転がってよけた。そして手にしていた木片をメディコに向かって放つことで牽制し、後ろ回し蹴りをフェルムの腹部にたたきつける。

 その名の通り鉄のように堅い腹筋だった。おそらくダメージはほとんどない。しかし、勢いでよろめかせることはできた。

 この隙に体制を整えようとして、龍一は後ろへ飛び退って構える。

 しかし……。

 いつの間にか背後にきていたセオが、龍一の首筋にサバイバルナイフをあてた。

 これまでか……。

 観念する龍一。やはり、1人でこの4人を相手にするのは厳しかった。

 「殺す前に、せめてなぜこんなことをしたのか教えてくれないか?」

 ため息混じりにそう問いかける。

 4人が目配せし合い、そして再び龍一を見た。



  


 「どう思う?」とセオが他の3人に訊いた。

 「いいんじゃない」と即座に応えたのはティナだった。龍一がちらりと視線を向けると、ふふっと笑ってウインクする。

 「俺もいいと思うぜ。こういうヤツ、嫌いじゃない」

 フェルムが続いて言う。そしてメディコを横目で見た。

 「まあねぇ」と肩をすくめるメディコ。「もともと、悪くないとは思ってたよ」

 「なら、合格だな」

 セオがそう言って再び龍一に視線を向けた。サバイバルナイフは首から離れる。

 何のことだ?

 疑問を顔に浮かべながら見つめ返す龍一。

 「今日おまえと一緒に集めた死刑囚達は、快楽や私利私欲で複数の人の命を奪ったクズどもだ。おまえだけが別だった」

 セオが説明を始める。

 「なぜこんなことを?」

 「おまえが俺達の仲間としてふさわしいか、試したのさ」

 「なんだって?」

 目を見開いて驚く龍一。

 フェネル、メディコ、ティナが笑っている。

 「俺達4人も死刑囚だ。複数の人間を殺してきた。だが、それぞれ事情がある。おまえと同じようなものだ」

 俺と同じようなもの? つまり、大切な人を理不尽に殺害され、復讐をした、ということか?




 「おまえも思っているだろうが、今の社会はクソだ。権力ある者が普通の市民の生活を踏みにじっても、罪に問うことは難しい。だが、腐りかけた警察庁の中にも、物好きでそういうのを良しとしない人間がいる。そいつが、俺達に目をつけ誘ってきた。事情があって死刑判決を受けるほどの罪を犯した俺達に、それを免除する代わりに力を貸せ、と。俺達はその誘いを受けた。今、おまえを試し、メンバーの最後の一人としてもいいと判断した」

とてつもない話に、龍一は目を見開いて驚く。

 「今の世の中で、権力にあぐらをかくなど特別な状況にいて、重大な罪を犯しても平然としている奴らがいる。そいつらを闇に葬るために動く、影の暗殺者とならないか? 刑務所を出て別の人間としての生活は保障される。ただ、そこから逃げるような裏切りは許されない。さらに、暗殺に失敗して逆に殺されても誰も骨は拾ってくれない。それでよければ、だが……」

 「格好良く言えば、現代版必殺仕事人、さ」とメディコが笑う。

 「面倒くさいご託はいい。とにかく、悪くて偉そうなヤツをぶっ殺すのさ」とフェネルがうそぶく。

 「一緒にやろうよ」と再度ウインクするティナ。

 「もしやるなら、ついてこい。断るならそこにいろ。迎えが来て死刑囚として刑務所に戻す。どちらでもいい」

 そう言い残し、セオは去って行く。他の3人も続いた。

 息を呑み、首を振る龍一。だが、迷ったのは一瞬だった。

 自分と同じように、理不尽に家族や大切な人、あるいは自らの命を奪われる者達がいる。そんな人々を、少しでも減らしていけるなら……。

 いったん夜空を仰ぎ見ると、龍一は4人の後を追った。

 
                                    Fin

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