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話せない自閉症者

4月2日の今日は、世界自閉症啓発デーです。

自閉症という障害を抱えている人の中には、コミュニケーションに苦労している人も多いです。
僕は、文字盤ポインティングという方法で、思いを言葉で表現することが出来るようになりましたが、文字盤をつかわなければ、いまだに、2歳児のような会話しか出来ません。

それは、なぜでしょう。
一般に、言葉の獲得の評価というものは、外に表出でき、自分の言葉として自由時自在につかえるものだけに対して行われているように思います。
コミュニケーションが苦手だというと、知能が低い、理解が出来ない、相手が何を考えているのかわからなくて、その場面や雰囲気に合うコミュニケーションが難しい、場面沈黙、性格の問題があげられるのではないでしょうか。

僕の場合、話そうとすると頭の中が真っ白になってしまい、自分が言いたかった言葉が消えてしまうのです。書く時も同じです。
言葉を外に出すという回路が、突然遮断されるような感じです。
教えられた言葉を、その通りに繰り返して話すことや、昔覚えたフレーズを声に出して言うことなら出来るのです。
けれど、自分の思いや考えを話そうとした瞬間に、自分が何を言おうとしていたのか、わからなくなります。

耳は聞こえているわけですから、言葉の理解が進むにつれて、年齢と共に語彙も増え、どのような時にどんな言葉を使えばいいかなど、頭の中で学習することが出来ました。
外に表出できないために、周りの人からは、話ができない重い知的障害のある子どもだと思われていたでしょう。

僕は、アスペルガーや高機能自閉症の人たちと、僕のように内言語はあるのに、すぐに表出できない人たちが、同じ障害のくくりに入れられていることに、ずっと疑問を感じて来ました。

文字盤ポインティングで自分の内面を表出できるようになっても、話したり書いたりしようとしたとたん、僕の頭の中から、言いたかった言葉が消えてしまうという感覚は、治らなかったからです。

僕が文字盤ポインティングを続けた結果得たものは、恐らく新しい神経回路ではないかという気がしています。
僕は、消えてしまう言葉を、文字盤を見ることによって思い出しているというよりは、自分の思いを表出するのに困らない人たちが使用しない神経回路をつかって、言葉を引き出せるようになったのではないかと分析しています。

僕自身は、科学者ではないので、それを科学的に証明することは出来ませんが、感覚的には、文字を選択する時、自分の意思より早く、指が動いているような感じなのです。
これは、話す時、意識するより早く言葉が出るのと同じ状態なのではないでしょうか。

自分の内面を表出する際に必要な神経回路が、途中で遮断されるために、言葉を外に出すことが出来ないのだとしたら、その代わりに、文字盤をつかうことによって視覚で確認し、脳から指へという運動神経の回路をつかい、その信号を言語に変換しているように思うのです。
今は、まだ、うまく説明できず、もどかしいですが、いつか、このことを言語化したいです。

僕の行っているコミュニケーションは、文字盤を指せるようになれば、誰もが出来る方法ではありません。
それは、頭から消えてしまう言葉を、もう一度別の神経回路に伝達して、表出しなければいけないからだと思います。

内言語があるのに表出できない自閉症者が思いを伝えられるようになる日は、きっと来ると信じています。


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