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常連さんの言葉に映画「卒業/THE GRADUATE」を思い出した日 / カフェを経営していた頃のエピソード2

ランチが終わり常連さんが珈琲を飲みに来る時間がやって来る。私はこの時間が大好きだった。オーダーに追われるランチの2時間が過ぎ、やっと常連さん達と話ができる時間だからだ。常連さん達はそれぞれ個性溢れ魅力的な人ばかりだ。そんな人達だから話も面白い。

今回は私が人生を折り返しに差し掛かる50代の頃のお話です。

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「いらっしゃい!」
「ブレンドね!」
「はい!」
週に2〜3回寄ってくれるリタイアしたMさんが現れる。
ジムの帰りだと言ってカウンターに座る。
運動の後のさっぱり顔で一言「なんか毎日がつまらない...」。
そんな話を聞きながら、僕は何故か映画「卒業/THE GRADUATE」を思い出した。

さて、この「卒業」と言う映画を初めて観たのはいつだったろう?きっと高校生くらいの時だ。
主人公は当時の僕より多分7〜8歳年上の設定だったと思う。優秀な大学を卒業し久々に故郷に帰り、ゆっくりした時間を過ごしているのだが、漠然と将来に不安を持っているという設定だ。
予告編はこちら⇒卒業/THE GRADUATEは皆さんも知っていると思うので割愛する。この映画は青春のバイブル的映画だからもし見てない人がいたら是非観て欲しい。キャサリン・ロスが最高に可愛い!「明日に向かって撃て」良かったな〜と、暫し珈琲を淹れる手が止まる。

さて、青春という時代を振り返ると、何故あんなに悩んでいたんだろう?
「やりたいことをやればいいじゃないか!」
「失うもんなんて何もない!」と大人達に言われた。
だけど、悩み、先へ進めず悶々としていた。

その後、就職。社会に出てみるとコマ送りのように忙しく、次々とドラマが続いて行った。ある時は悩み苦しみ、そしてある時は周りが見えない程の恋をし、そして結婚もして二人で人生を走り出した。まるで卒業のラストシーンのベンとエレンが手を取り合ってバスの最後部席に座って居たように不安と希望が入り混じっていた。

あれから気がつくと長い歳月が過ぎ人生を折り返している。「卒業/THE GRADUATE」の主人公ベンジャミンも老後を迎え、再び悶々とする時期がやって来ているのだろうか?それともエレンとリタイア後の人生を謳歌しているのか。

私は好き勝手に生きてきたから、これからその延長戦に入るんだろうと注文の珈琲を淹れながら唇を噛み締め頷いた。

その頃、母が存命だったので、週に一度電話していた。母の健康状態の話をひとしきり聞いた所で、「もう昔のように踏ん張りが効かなくなってきた」と私は言った。すると母は「あなたの年の頃は、外を忙しくかけずり回って楽しく過ごしていたわ」「人生最高潮の頃だったわ」
「まだまだ、私の歳まで30年もあるのよ!楽しいことはいっぱい出来るじゃない。」そう言ってから電話の向こうでたのしかった頃を思い出しているようだった。

いくつになっても、いつの時代も悩みは尽きない。それでも諸先輩の言葉は確かに言い当てているとつくづく思う。

男の厄年は近年だいぶずれているようだ、私はこの頃からジワジワと身体に異変を感じ始め、60ちょっと前で胃がんになった。

50の頃はまだまだ元気で楽天的な性格も相まって言葉では調子悪いと言っていたが、それ以下でもなく以上でもなかった。

「ハイ、ブレンド!」

リタイアしたMさんは、カウンターの向こうで珈琲を啜りながら雑誌をめくり面白いことはないかと探しているようだった。

私は映画「卒業」のサウンドトラックからイントロが素敵なMrs Robinson/Simon & Garfunkel出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)をかけ、映画「卒業」の話をMさんに話し始める…。Mさんは雑誌から目をこちらにふっと向け微笑んだ。

Photographer higehiro
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