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おめでとう、復職決定即ヘルペス発熱の師走

 同フロアの同期に子供が産まれ、育休を取ると話してくれた。子供が産まれるのに際して実母との同居を決めたそうだが、さて産まれてくるのが双子であったために急に同居家族が三人増える計算になるという。一人の子供を一人で担うの子育てをワンオペ、一人の子供を二人で担うのがツーオペとカウントするなら、双子の場合は奥様と母の二人で見てもワンオペの計算にしかならない。彼が育休をとって一.五オペにするのが最小限できることらしい。大変な話だ。

 他にも十二月は、友人の結婚式に目白某所にお呼ばれした。目白の銀杏並木を初めて知り、しかも十二月中旬でこんなに見れるとは思わず、ドレスルックで歩き回ってしまった。

会場でハイヒールに履き替える計算で、ローファーで歩いてきてよかった。

 今回は単なる友人の結婚式ではない。元同期の新婦と、元一つ上の先輩の新郎の結婚だ。コロナ禍以前によく遊んで大変お世話になっていた二人である。新郎も新婦も会社には愛想をつかして転職したのだが、元同僚の我々のことは好いてくれおり、それぞれの代の同期を十人以上ずつ呼んでくれた。円卓のうち2つが同期のみ、他2つは先輩の卓、といった形になり、ほとんど同窓会となった。そりゃあ、楽しいよね。新郎が新婦を介さないで関係を構築した友達、という式にお呼ばれするのは初めてだった。それまでは友人が誰かよくわからん男と一生をともにする宣言を祝うといった立場だったが、今回は新郎の心情にも想像ができて面白かった。スピーチやエスコートと、かなり主体的で格好をつけなければいけないシーンが続く。見知った相手が汗をかきながらそれを遂行しているのはかなり感動する。今回、どちらかというと花婿側に多く感情移入してしまった。こんなきっちりと式の主催をやり切れるだろうか。そんなことを考えていた。私は男性自認の女ではない。儀式をきっちりとやり切れる相手に愛されてリードされるより、きっちりやり切る自分になって相手をリードする方が早そう。そんな計算の上である。

 新郎新婦共に見切りをつけた弊社だが、私はひとまず復職することとなった。前回面談では「明日からあなたが所属する部署は決まってないし復職させるかも決まっていないけど、もう時間なんで帰ってください」と保健室を追い出された。時間になった、のは私のせいではなく、上長たちが時間内に方針を決めきれず、十分のミーティングを四十分にしたためだ。三十分寒い廊下で待たされた挙句、所属先を決定してもらえず帰らされる。流石に堪えたようで、この日から私は一ヶ月近く子宮不正出血と疼痛に悩むことになる。その後にこぎつけた復職試用期間の四週間は九時五時で働くことが義務付けられたために婦人科の予約が取れず、なんとか休日にとれた鍼灸院では「婦人科系のツボがもう……。」と絶句された。曰く、婦人科系疾患というのはストレスの影響が遅れて現れたり長く残ることがままあるらしい。納得だ。
 面談後に途方に暮れていると、外部からポストについた外国人部長が「ウチで働けばいいじゃない」と声をかけてくれて、なんとか復職試用期間を再スタート。人事が判断を先延ばしにしただけで前述の通り肉体は改善されていないので、もちろん多く欠勤した結果、結局産業医からの復職可能判断は今回も降りなかった。そこで私が休職したい、自主退社したいと言い出さなかったために、人事が「もうめんどくさいから復職でいいよ」と折れた形で復職となった。

 この過程で、今の会社で生き続けるのはないな、と判断したとともに、もう自分が正規のサラリーマンとして生きるのは無理があるんじゃあないか?という問いが浮上した。子供を産んでいるわけでも家族の介護があるわけでもないのに毎日九時五時で働けない人間って必要とされていないんだな。それが、今回の件で人事や産業医や関連部署の上長に詰められて、身に染みた。
 一方で、サラリーマンの両親のもとに生まれて、企業就職を前提に大学を出してもらって、いつでも「甘えるな」「言い訳せずに真面目にやりなさい」と言われて育ち、それを真に受けていた人間にとってのフリーランス、フリーターへのハードルはものすごく高い。精神がサラリーマンなのに、肉体がサラリーマンを拒絶する。実はADHD傾向が高く、(診断では障害者手帳は出ず、グレーゾーンと判断されている)やる気にムラがあるのをなんとかここまで社会に適合するように自分を律してきた。そこまで努力してきた精神性を肉体が簡単に裏切る。
 こう書くと板挟みにされた魂が引きちぎれそうだ。かわいそうにね。「体調不良とか甘え(笑)」と育てられ、勿論自分にも言いきかせていた純血の元レイシストが言うから間違いがないが、精神は肉体に勝てない。立ち上がれない程に壊れた肉体を、精神性で解決することはできない。

 何にせよ、今年中に復職問題に片がついたのはめでたい。おまけに、秋口から参加していた宣伝会議の編集ライター講座の卒業制作も提出した。M-1グランプリでは面白いと思っていたコンビの勇姿も見届けた。そして今、口唇ヘルペスと微熱でダウンしている。子供の頃から疲れるとたまに口唇ヘルペスを発していたが、今年はもう三度ほど「熱の華」と呼ばれる不気味な水ぶくれに出会っている。体は正直だな、はエロ漫画の女の子ではなく、こういう虚弱アラサーに使う。

 俺はどう生きるか、経済的に、という問題は来年に持ち越しだ。会社辞めてフリーライターになります!と言えたらこんなに気持ちのいいことはないが、正直言って無理だ。私に頼れるパートナーがいるか、家族とごく親しい仲で頼れる状況であれば違ったと思うが、残念ながら私は経済的に一人だ。貯金はあるが、こんな税金の高い国では頼りない。また、編集ライター講座の感想についてはまた書こうと思うが、卒論で得たライターの経験は、全然、全く、楽なことではなかった。文字を打つ以外の全てが新鮮に苦痛であったし、文字を打つこと自体も今までの同人誌制作や卒論とは違った重みを持っていた。提出ギリギリの時間まで後世に悩み、表現をこだわった。いい出来だと自信を持って提出はしたものの、提出完了メールが届いた頃には、そんな自己満足は消え失せていた。いい経験はできたが、別に私の人生が素晴らしいものになったとか、そんなことはない。知ったことで夢が現実味を帯びただけだ。来年も、どんな現実を生きるか、考え続けなくてはいけない。だが今だけは手放したい。何しろ熱が上がってきて、関節が痛い。精細を欠き続けた今年、最後もしっかり体調が悪いのは潔くてちょっと面白い。皆様はお気をつけてお過ごしください。

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