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石けんのある、カフェのお話。 /ショートショート


このカフェには、先代のマスターから引き継いだ
ちょっと変わった石けんがある。
カフェに石けんとは、なんとも不釣り合いではあるけれど。
門外不出というか、本当に必要な人の為に作られた、
必要としている人だけが気付ける代物だそうだ。

ーあの、その石けん、売り物ですか?
声をかけてきたのは、よく男性と来てくれていた
柔らかな雰囲気の女性だった。
ーあ、お久しぶりです、
この数週間姿を見ていなかった為か、
彼女だということに、入店時には気が付かなかった。
ーどうぞ、気になるものがあれば、手に取って下さい。
カウンターで注文を受けながら、
ガラスケースに入った石けんを、彼女へ差し出した。
マスターから聞いた、これを必要とする人というのは
深く傷を負っていたり、
悲しみから抜け出せなかったり。
記憶によって、命の危機が危ぶまれる人ーー
なのだという。

近くで見れば、それまでと変わらぬ彼女だけれど。
確かに、すぐに気づかないほどには、
彼女を纏うオーラというか、雰囲気は、不安定だ。
その石けんを使えば、その人に合ったペースで
必要な範囲の記憶を、少しずつ消してくれる。
石けんの泡が流れるように、柔らかく、穏やかに
少しずつ消えていくのだそうだ。
ただ、それを使用する本人には、承諾を得ないといけない。
苦しめているとしても、それはその人にとって
大切な記憶であることには違いない。
記憶と共に終えるのか。それは本人に決めてもらうのだそうだ。


選ばれた石けんをそっと手に取り、
小さなクラフト紙で包むと
彼女お気に入りのカモミールティーと共に、
トレイに並べて席へ運んだ。
ごゆっくりどうぞ、そして、こちらをお読みください。
手渡した小さな冊子には、石けんの用途が書いてある。
読み終えた彼女は、どういった表情をするだろう。
安堵するのか、戸惑うのか。
余計なお世話だと、思うだろうか。
必要がなければ、インテリアとして飾ってもいい。
手元に置いてしばらくすると、その人の好きな香りを、
アロマの様に発するのだそうだ。


冊子を読み終わった彼女は、少しの間、
何かを考えるように、暖をとるかのように、
両手でカップを包んだままでいた。
今日は、お客が少ない。
彼女の邪魔しないよう、不思議な力がそうさせているのだろうか。

静寂を破るように、入店を告げるベルが鳴る。
と同時、彼女を纏う雰囲気が変わった。



このお話の、プロローグとして書きました。
プロローグになってるか、、、?
って感じですけどね。

はい、わたしの書き方のクセが
いくつか読んでいただいてる方には
分かってきたかと思いますが。
こんな感じでよければ、
少しでも心に何か触れたなら、
また読みにきてもらえたら嬉しいです、、

お読みいただき、ありがとうございます。




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