見出し画像

読書・石けん #毎週ショートショートnote


彼女が現れる時はいつも、
ほのかに石けんの香りがする。
シャンプーでもなく、香水でもなく、
柔らかい、石けんの香り。
手に持つ、単行本ほどの大きさのそれは
数回見て気付いたのだけれど、
写真集のようなものだった。
彼女が写したものなのか、
書籍として販売しているものなのか。
ブックカバーを施しているため、
詳細は分からない。

今日も、穏やかな日ですね。
なんの変哲もない、一言。
それを彼女に向けるのは、
そうですね。の返答と、
その柔らかな微笑みの為だ。

今日もいつもの席へ座ると、
手に持つ本を丁寧に開く。
彼女がいつも頼む、カモミールティー。
気分で、ミルクやハニーをプラスする。
それをトレイに乗せて運ぶ、
いつもの光景。

わたしは多分、ここが好きなんですね。
悲し気に微笑む彼女に、
そうですね。と頷きながらカップを置く。
ゆっくりゆっくり小さくなっていく石けんの様に
彼女は、その中にある記憶を少しずつ忘れる。
あの彼と、向かい合って本を読んで。
それだけで幸せだっただろう記憶を。



今回も、たらはかに様の企画に
参加させていただきました。
お題、ありがとうございます◎


今回は、410字に近づけました・・・!
プロローグ的なのも書きたくて、
でもそれは文字数気にせず書いたから、
長くなってしまったけど、、
よければそちらもお読み下さい。







この記事が参加している募集

#スキしてみて

523,364件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?