数ヶ月前、家の断捨離をしていたらiPodが出てきた。
10年以上前に自分の店でBGMを流すのに使っていたiPod shuffleだ。

ピンバッジみたいに小さくて可愛らしい。
懐かしくなって充電してみると当時入れていたプレイリストがそのまま残っていて問題なく聴くことができた。
Apple Musicなどのサブスク音源と同じ圧縮音源を聴いているはずなのに、なぜかスマホアプリで聴く音楽とはまるで違って聴こえた。
なんだろう、このワクワクする感じは？
久しぶりにiPod shuffleを持ち出して音楽を楽しんでみたくなった。

最近はもっぱらApple Musicを利用して音楽を聴いていた。
月々1,000円ほどで数千万曲の音楽聴き放題は本当に便利だ。
学生時代のお金も無いのに月に10枚以上もCDやアナログ盤を買っていた頃にこんな便利なものがあったらどんなに音楽の見識が広がっただろうか。
でも昔みたいに音楽を聴くのにワクワクしなくなっている最近の自分もいる。
今年で46歳、歳のせいで若い頃みたいな感受性が無くなっているのかも知れない。
でも一番の理由は音楽を聴くということの価値がサブスクによって薄まっていたことだと気付く。

大好きなアーティストの新譜の発売日を心待ちにしてタワレコにアルバムを迎えに行き、急いで帰宅してコンポの前でブックレットを眺めながら正座して聴いていたあの頃と、サブスクでなんの苦労もすることなく聴くことのできる現代で同じ思い入れを持つのは難しいだろう。
サブスク以前のiPod時代だって音楽を聴くにはツタヤでレンタルしてきたCDをPCに取り込んだり、iTunesで曲を購入して遅いネット回線でダウンロード完了を待ったりとお金も手間も必要だった。

最近完全にスマホを手放したこともあり、あの頃のワクワク感を少しでも取り戻したく実験的にApple Musicを解約してみることにした。
サブスクを解約すると同時にストリーミングはもちろん自分のライブラリにダウンロードしている曲も全て聴けなくなった。
”ライブラリ”とは名ばかりで音楽データは自分の所有物では無かったということだ。
Apple Musicスタート前にiTunesで購入した配信曲はかろうじて聴くことができたけれど、僕のMac内には以前アカウント引き継ぎに失敗したこともあってアルバム数枚分の音源しか残っていなかった。
あんなにたくさん持っていたCDもサブスク時代になって全て処分してしまった。

そこでブックオフやハードオフを巡って再び中古CDを買い集めている。
世は空前のアナログレコードブーム、中古CDは数年前と比べてコーナーも縮小され割安になっているような気がする。
ハードオフのジャンクコーナーでは名盤が110円均一で手に入る。

買ってきたCDをしばらく使っていなかったMac外付けのCDドライブに入れて取り込みをする。
iTunes（今はミュージックアプリに統合されている）でプレイリストを作成してiPodに転送していく。

iPod shuffle 4世代のストレージ容量は2GBなので中に入れられる曲はアルバム20枚300曲程度だろうか。
自分の好きなCDをディグってきてライブラリに取り込み、厳選してiPodに転送していくのはとても愉しい。

iPod shuffleの音質はそれほど期待していなかったけれど、それなりの良い有線イヤホンを繋げると期待以上の音が出ている。
こんなに小さい筐体、しかも10年以上前の製品なのに液晶画面もネット接続もないからバッテリーも10時間以上持つ。
この4世代は音声読み上げでプレイリストや曲を選ぶことができるのでストレスがない。
僕はアルバムを1曲目から最後までアーティストの考えた流れを重視して聴きたいタイプなので、アルバム1枚をそのまま1つのプレイリストとして作成して聴いている。
だから”shuffle”なのにシャッフル機能を使うことはほぼ無い。（笑）

サブスクで手軽に聴けるのにも関わらず、一手間、二手間とお金と時間を掛けて音楽を聴くという行為はコスパ、タイパ重視の現代では馬鹿げていることかも知れない。
でもそうして聴く音楽はなぜか輝いて聴こえる。
またスマホで音楽を聴くのと違って着信や通知が来ないから邪魔されることなく音楽鑑賞できる。
アナログレコードやカセットテープがリバイバルしているのもきっとそういうことなんだろう。
最近は家族が寝静まった後、真っ暗したリビングでアルバムを3枚聴くのが密かな愉しみになった。
あの頃のように音楽と向き合いながら。