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【73】北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周 25日目 函館〜江差② 2019年4月27日

2019年の初春、函館から桜祭りの松前へ向けて走っています。朝から氷雨が降り続く一日。75キロを2時間半のペースで走り、トンネルと横綱の町・福島で小休止をとって、北海道最南端を目指します。

▼ ここまでの記録はこちらです。


福島道の駅を出発してすぐ港があり、振り返ると矢越岬の方を望むことができました。矢越山が断崖絶壁になって津軽海峡に落ち込んでいます。山頂付近はまた雪が降りはじめている気配が窺われました。

◆ 吉岡〜白神岬

風が少し収まってきました。
本日の行程では、木古内から先は人家も疎らな道をひたすら走るものと思い込んでいました。しかし福島の先も、人々の生活の気配は濃厚で、小さな漁港やそれを取りまく集落を巡って、平坦な海岸線を走っていきます。むしろ内地の海辺に近いものを感じる風景でした。

空が明るくなり、一瞬だが、路面に朧げな自分の影が映りました。このまま早目に前線が抜けてくれれば良いのですが。

吉岡という集落に差し掛かりました。青函トンネルが陸上から海中に突入する地点で、かつて「吉岡海底駅」というのがあったので、地名には馴染みがあります。

その先は、トンネルとシェルターの連続する険路が、白神岬まで続いていました。

白神岬への道。竜飛岬遠望

このまま回復するかと思われた天候は、期待どおりにはなってくれません。湿った空気が断崖にぶつかり、間断なく大粒の雨が落ちてきます。しかも、風向は東から南東に変わり、斜め前から吹き付けてきます。
相変わらず自動車の通行量も多くて、気が抜けない道程でした。

それでも、我慢のライドを続けるうち、北海道最南端・白神岬の灯台が姿を現しました。
津軽海峡の向こうには、津軽半島の山々がモヤに霞んでいます。

断崖を削って駐車帯が設けられていますが、特段の観光施設もありません。北海道最南端、というポジショニングに旅情を感じるわけでもないので、何枚かシャッターを押しただけで、走り抜けました。

白神岬

岬を回ると、景色はぐっと穏やかになりました。湿った空気のぶつかる断がい絶壁がなくなったため、雨は止み、再び景色が明るくなりました。
もはや行く手に険路はなく、松前の市街地までの海岸線が、一望のもとに見わたせます。
東南からの風は、ここからは背中を押してくれます。頑張って、もう一度ペースを上げました。

◆ 春朧の松前

正午前に到着した松前は、桜祭りの初日でした。

右手に、儚げな桜花に包まれた小さな天守閣が見えています。この小さな町にとって、恐らくは年間最大の観光イベントの初日が、このような降ったり止んだりの天気では、関係者にはお気の毒様としか言いようがありません。

▲ 道の駅付近からの松前城遠望

それでも、昼食を取ろうと立ち寄った道の駅は大盛況で、レストランには順番待ちの列ができていました。
名物のマグロ定食、というのを食べているうち、再び雨脚が激しくなりました。

▲ マグロ定食


昼食後、雨の松前城址を一時間ほどかけて散策しました。
いにしえの街道筋を模して再開発された商店街を通り、町役場の脇にロードバイクを止めて、城址への坂を登ります。関東ではもう一月も前に盛りを迎え、2週間前に出張した福島市の花見山ではちょうど見頃を迎えていた桜花は、ここではまだ五分咲きのまま、雨に濡れていました。

しかし、小さな復元天守閣を取り囲む寺社群と、約8千本という桜の園は、思っていた以上に風情がありました。グループ客を引率しているガイドの話を傍で聞かせて頂いたところによると、戊辰戦争時、榎本武揚率いる旧幕府軍に攻撃された松前藩は、退却に際し大切な寺社仏閣に手を掛けさせまいと、「御用火事」といって、自ら火を放って領地から退いたそう。故に、現存する寺社は明治以降に再建されたものとのことです。

観光客は少なくないものの、この雨模様とあって花見客は皆無、露店も閑古鳥が鳴いていましたが、雨に烟るその風情は、ここへ来て本当に良かったと感じさせてくれました。今日の雨と明日の晴天で、一気に開花が進み、小さな城址は数日のうちに、春の彩りと賑わいに包まれることでしょう。

城址からの下りは、雨に濡れた石段でサイクルシューズが滑りそうで、手すりにつかまってよたよたと下りました。

◆ 寒さと疲労と闘いながら

松前で思いの外長居してしまいました。今日の目的地・江差までは、あと65キロあまり走らねばなりません。

松前の先、交通量は大幅に減りました。
ここからは、日本海に沿ってひたすら北上していきます。このルートは、天候さえ良ければ、日本海の夕景が素晴らしいとツーリングマップに記されています。

しかし、残念ながら雨脚がまた強くなってきました。しかも日本海岸へ抜けてからというもの、風向も西から北寄りに変わり、まともに正面から吹きつけてきます。

沖合いには二つの島影が見えています。手前にあるのが松前小島、遠くで靄に半ば隠されているのが松前大島です。何れも断崖絶壁に囲まれた無人島。小島の方には、昨年、北朝鮮の漁船が漂着し、地元漁民が備えていた電化製品などを盗んだことが報じられていました。空中写真を見ると、平面は吠えるライオンの頭部のように見えるが、この角度から断面を見ると、沖にあるずんぐりとした岩が陸続きに見え、太ったラッコが寝そべっているようです。

▲ 松前小島遠望

遠くに見える大島は火山島で、1741年には噴火による山体崩壊で津波を起こし、この辺りの海岸線では1467人の死者が出たといいます。火山の山頂付近は雲に隠れていました。

道は、牧草地の中を、起伏を繰り返しながら伸びています。札幌の北の、石狩から厚田あたりを思い出させるような海岸線です。大規模な風力発電所もあります。室蘭からこっち、風力発電の風車を目にしていませんでした。

▲ 風車の林立する海岸線

天気が良ければ、風景を楽しみながらのんびりとペダルを回していけそうな風光明媚な道なのですが、この雨と寒さがボディーブローのように心身に効いてきました。
体力を奪われるだけでなく、この天候ではメンタル的にも高揚感がありません。食料も水分もしっかり摂って来たのに、脚が回らなくなってしまいました。

▲ こんな陰鬱な風景では、気合いの入れようもない。

海岸線の僅かな平地に漁村が身を寄せ合い、高台をバイパスが走っています。そのバイパスの上り下りがはてしなく、何ともしんどい。しかもこういう時は、上りは長く、下りは束の間に感じられてならないもの。
海沿いに旧道が通じていないか、と淡い期待を持って、原口という漁港ではバイパスを外れ、集落の中に下ってみました。しかし、旧道は漁港の先で途切れ、結局は急坂を登り返す羽目になり、徒労感が疲れを増幅させただけでした。

断続的に降り続く雨、10度に届かない気温、それらに増幅される疲労感を別にすれば、この道は西に遮る物のない大海原を見下ろし、東に迫る岩山は険しい山腹に点描の如く桜や辛夷の花が遅い春の到来を告げ、車も多くありません。北辺の海辺らしい風景の中を走ることができる道です。
できることなら、恵まれた気象条件で、もう少し体力に余裕を持って走りたいところでした。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。引き続き、冷たい雨と向かい風の中、江差へ向けて我慢のライドが続きます。よろしければ続きもお読みくださいませ。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、そのほかの自転車旅や海外旅行の記録などを綴っています。宜しければこちらもご覧頂ければ幸いです。

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