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#16 地方都市の新たな魅力に出会う ブロンプトンとローカル線の旅/南予のスモールタウンで出会った日本の原風景①

◾️note公式マガジン「国内旅行 記事まとめ」「#旅のフォトアルバム 記事まとめ」にピックアップして頂きました。ありがとうございました😊

移住願望が、日々高まっています。
京都暮らしも丸3年がたち、慣れてくるかと思いきや、どんどんストレスが溜まっていく毎日。
湿度の高さ、自然の希薄さ。隙間のない家並みの息苦しさ。
そして、コロナ禍の最中と違い、今では有名観光地に人が溢れています。うちの近くの嵐山など、道路に溢れる観光客とぶつかりそうで、とても自転車で走れたものではありません。

仕事はといえば、それはまあ、見知らぬ土地、未経験の業界で、いきなり管理職となれば、それは色々なことがあります。
ただ収入は、十分な余裕を持って暮らせるだけのものが得られ、休みを取りやすいのも旅好きにはありがたい。黒字リストラで早期退職した50男としては、これ以上望むべくもないでしょう。

それを捨てても移住したいのか、というせめぎ合いが続いています。

◆ イニシュフリーを求めて

そんな中、この夏2回ほど、大阪で開催された移住フェアを覗いてみました。馴染み深い北日本や甲信越の町々のブースでは、何だか旧友にめぐり合ったような心安さがありました。が、それだけではこのようなイベントに来る意味がないので、これまであまりご縁のない地域のブースを、幾つも回りました。

日本には、数々の美しい土地があり、その土地に生まれ育ち故郷を愛する人たちも、第二の故郷を求めて移り住む人も数多い。他方、多くの地域は産業の担い手不足が深刻。農林漁業、介護業界、さらには中小企業の事業承継。その抜本的な解決のためには、国内で人を循環させるだけではなく、恐らくは外国人へもっと門戸を開くしかないのは、みんなわかっています。しかし、生活者としての外国人を受け入れる体制、とりわけ日本語教育の人的資源が、地方へ行けば行くほど不足している現実があります。

いいところですよ〜、一度来てください、という表面的な話しだけでなく、そんな地域振興のリアルな話も、多くの方から伺いました。
少し前に、私は日本語教師養成講座を修了しており、また東南アジアで働いた経験も多少ながらあり、どこかの土地で何かしら役に立てることはありそう。ただ、それはどこなのか。そこは自分にとって、ジョン=フォード監督が「静かなる男」で描いたイニシュフリーのような、風来坊が最後に腰を落ち着けるべき理想郷なのか。

そのような中、フェアで出会った方々から、包み込むような温かさと、控えめながらも心からの地域愛を感じたのが、宇和島、西予、愛南など、南予の町々のブースでした。

これまで、四国にはあまりご縁がなく、何度か旅行に行ったのみ。穏やかであたたかな人が多い印象があります。昔からお遍路さんを受け入れてきたので、見知らぬ人も温かくもてなす文化があるため、と聞きました。加えて南予は、通り過ぎたことしかない地域ですが、わたしの趣味である自転車とダイビングにも適した気候で、柏島や愛南といった有名なダイビングスポットがある宇和海も魅力的です。海の幸にも恵まれているし、蛇口をひねればポンジュースが出てくるし。
そんな移住先候補を、ブロンプトンを連れてまわってみようかな。

ただ、このところ、休みのたび京都を逃げ出して旅ばかりしており、さすがに無駄遣い感に苛まれています。9月には3年ぶり、バンコクへの「帰省」と、毎年でも通いたい隠岐の海への旅もありますので、今回は、節約を旨といたします。
飛行機は、行きは株主優待を利用。帰りは虎の子のマイル利用。
宿泊は、2泊とも旅のサブスク”HafH”を使える宿を探しました。

松山のホテルは幾つか見つかりましたが、南予では”HafH”で泊まれる施設がほとんどなく、ほぼ選択の余地なく、内子のゲストハウスを予約。
内子か…
街並み保存と和紙で知られる、と言っても、全国区の知名度はない山間の小さな町。決して、南予を象徴する存在ではありません。どちらかといえば松山からの日帰り観光地か、或いは宇和海へ遊びに行く際の通過地点という存在でしょう。
移住フェアにもブースが出ていましたが、あまり繁盛している様子はありませんでした。
まあ、一夜を過ごすだけだし、いいか…

そんな認識で内子を訪れたことを、旅を終えた今となっては、たいへん申し訳なく思っています。

◆ 松山の夜

9月1日(2023年)金曜の夜。
伊丹発松山行きの最終便は20時20分発。17時の終業後に一旦自宅へ戻り、着替えてからブロンプトンで阪急嵐山駅まで飛ばして、19時過ぎには伊丹に到着。ブロンプトンを預けた後、搭乗前に晩ご飯を食べる余裕がありました。
松山までは50分のフライト。
さて、松山空港から市内までは、リムジンバスも走っていますが、松山駅までの距離はわずか5キロ。アクセスの良さは全国的にも宮崎空港と比肩するのではないでしょうか。
ここは、ブロンプトンで走っていくことにしました。自転車でアクセスできる空港がある街…いいですね。美しい城も、古くからの港町もあるし、蛇口をひねればポンジュースが出てくるし(←くどい)。
ターミナルの外へ出ると、湿度を帯びた空気が身体を包みました。ただ、京都の暴力的な蒸し暑さと異なり、肌に優しく感じられます。
ブロンプトンに装着しているBeeline で検索したルートに従い、住宅地内の生活道路や川沿いの道を走り、20分ほどで松山駅北の踏切に到着。高架化工事が進んでいます。松山駅は国鉄時代の風格を残す、わたしの好きな駅の一つなのですが、何の変哲もない高架駅になってしまうのでしょうか。もちろん、連続立体交差化の効用はわかっているのですが。

▲ 松山驛

駅に近いビジネスホテルにチェックイン。近くの温泉に600円で入れるというチラシに心動かされます。市内に温泉が多く、しかも夜遅くまで営業しており、安い。これは松山暮らしの良さの一つだと、先日の移住フェアで聞きました。ちょっと迷いましたが、温泉へ行ったら長居してしまい、明日に差し支えそうなのであきらめ、代わりに夜の街を1時間ほど歩くことに。
人気の少ない通りを、コンビニで買ったポンジュースを飲みながら伊予鉄の松山市駅へ。ここから銀天街、大街道と続くアーケード街は、松山城や道後温泉と共に、松山の魅力を形成する存在。今日は既に夜10時を回っており、多くの店はシャッターを降ろしていますが、こういう日常的に歩きたくなる通りがある街で暮らせるのは幸せだと思います。

▲ 夜の大街道

大街道の松山城側の入口にある松山三越は、一階に地場の食材を集めたフードコートを作るという大胆な売場改革で話題を集めました。一昨年の冬にわたしも行ったことがあります。日曜日の昼時ということもあったのでしょうが、老若男女で賑わい、一階に化粧品を置く伝統的な百貨店の売場構成よりも、確実に生活者の支持を得ていると感じられました。
もちろん、こんな時刻ですから、今日は閉店しています。

ライトアップされた松山城の堀端を歩いてホテルへ。京都からは気軽に来られる街なので、次は週末暮らすように来てみたいものです。

◆ 下灘駅

明けて9月2日(2023年)土曜日の朝。松山の空は高曇り。

▲ 朝の松山驛

松山駅の3番ホームから、6時55分発のディーゼル単行に乗り込みます。今朝はこのディーゼル車にしばし揺られ、まずは、フォトジェニックっぷりが有名な下灘駅を目指します。

乗客は15人ほど。向かいに気合いの入った化粧の、大学生か高校生くらいの女性が2人。でかい一眼レフを首から下げています。わたしと同じく下灘駅に行くのかと思いきや、次の市坪で下車。ここは坊ちゃんスタジアムほか運動公園があります。なにか競技会があるのでしょうか。
伊予市に着くと、伊予電のオレンジの電車が停まっていました。オレンジというのは明るく暖かで、心を浮き立たせてくれる色だな。
水田では、早稲が色づき、首を垂れつつあります。
稲穂の連なりの向こうには伊予灘。高曇りで、朝日が差してないのが残念。

この先、予讃本線は伊予大洲まで、二手に分岐して走ります。海岸線をゆく昔からの路線と、1986年に開通した内陸をゆく短縮線。分岐駅の向井原は何もない無人駅ですが、高台にあって、伊予灘の展望はなかなかのものでした。
向かいのロングシートに座っているのは、日焼けしたサッカー青年っぽい高校生。冷房が強く、車内が少し寒いので、黄色いソックスを穿いたり、吹き出し口を調整したりと、落ち着かない様子。
前方には、デーパックを抱えた壮年男性2人連れ。どこかのトレイルを歩きにいくのでしょうか。
高野川をすぎると、ディーゼル車は海岸線へ出ました。いぶし銀の菊間瓦と焼杉の板壁の家並み。断続的に小さな漁港が現れます。
晴れた日の夕暮れ時は、さぞ美しいことでしょう。

▲ 車窓からの伊予灘

7時22分、下灘に到着。
降りるのはわたしだけかと思いきや、サッカー少年風の若者も、ハイカー風の壮年たちも、気づけば乗客の三分の一ほどがここで下車。
ホーム後背の空き地では、地元の方々が総出で、イベントの準備をしており、小さな無人駅は朝から賑やかです。
ただ、この駅が本当に人で溢れるのは、伊予灘がトワイライトに染まる夕暮れ時。朝の海は曇り空を映し、ミルキーな薄い蒼。ドラマチックな美しさではないものの、しばらくぼっとベンチに腰掛けていると、このままここで夕暮れ時まで、本でも読みながら過ごしたくなります。

▲ 実際は、駅と海との間に国道が走っています

下のような張り紙がありました。

列車に乗車する方もいらっしゃいますので…ですか。
駅というのは、列車に乗車、または下車するための施設だと思うんだが、なんだか、それは副次的な存在意義であるかのような書きぶりで、ちょっと苦笑してしまいました。


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ここまでお読み頂き、ありがとうございました。長い前置きになってしまいましたが、ここからようやくブロンプトンで走り出します。初日は八幡浜を経て、古い街並みが残る旧宇和町へ。よろしければ続きもお読みください。
これまでのローカル線とブロンプトンの旅、こちらへまとめております。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは主に旅の記録を綴っており、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、また海外旅行のことなども書いていきます。宜しければ↓こちらもご笑覧下さい。


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