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#23 地方都市の新たな魅力に出会う ブロンプトンとローカル線の旅/冬のまほろば 晴れたり曇ったり①

2月最初の三連休初日。
早朝に目覚めると、晴れの天気予報は見事に外れ、寒々しい冬空が嵐山上空に広がっていました。

▼ これまでのローカル線とブロンプトンの旅、こちらへまとめております。


◆ つまみ食い輪行で奈良へ

今年(2024年)の2月は、三連休が2回あります。後半の連休で台湾旅行を計画しているため、前半戦は遠出を自重しましたが、それでもせっかくの三連休。特段の予定もなく、天気予報も悪くなかったので、昨夜ほろ酔い気分で、旅のサブスク"HafH"で泊まれる奈良のホテルを予約。

京都へ越してきてから、奈良へは時々出かけています。
交通手段は、往路はもっぱらロードバイク、復路はもっぱら輪行。
嵯峨野からの最短経路は、桂川と木津川のサイクリングロードを走っていくこと。平城宮跡まで追い風ならば2時間かからずに走ることができます。このほか、京都市街地を横断して山科から南下し、醍醐寺に立ち寄ったりしながら山背古道をのんびり走ったり、時には井手町から一山越えて和束を経由し、浄瑠璃寺や岩船寺をめぐってから奈良市内を目指したり。
そしてほとんどの場合、到着地で地酒で一杯やって、帰りはJR奈良線か近鉄で京都駅まで、さらにJR嵯峨野線で嵯峨嵐山まで、その晩のうちに輪行で帰ってきます。今回のように一泊するのは「三連休スペシャル」のようなもの。

しかし今日は、この寒空の下、桂川〜木津川の堤防を延々走っていくのも気が進まず、ロードバイクではなくブロンプトンでの「つまみ食い輪行」に急遽変更。
走っても面白くないところは鉄道を活用し、おいしいところだけ走ろうという、ずるい魂胆なのです。
朝6時半、ともかくも身支度と荷造りを開始。

出発直前に、前輪のスローパンクが見つかったりして時間を要し、家を出たのはもう8時でした。
桂川と鴨川が合流する手前までは、桂川サイクリングロードを走っていき、その先は桃山へ向かい、近鉄で輪行するつもりです。

気温は5℃前後。さらに、西から冷たい風が吹いています。
防寒対策は整えているので、走り出して間もなく、上半身はうっすら汗ばんできました。頬にあたる寒風もさほど気になりませんが、指先だけは、厳冬期用グローブを穿いているのにかじかんで、感覚がなくなってきて、さらにジンジン痛むほど。薄日でいいから差してほしい。
陰鬱な冬空の下、桂川の河川敷と伏見区の産業道路を走り、50分弱で伏見大手筋商店街につきました。この界隈は、古くからの酒蔵、運河、また維新史の舞台の一つである寺田屋などに加え、元気のある駅前商店街があり、さらにちょっと良さそうな飲食店も多く、通勤の便さえ気にしなければこの辺に住むのもありかな、と思えるエリアです。

▼ 以下の写真は、以前に来た時のものです。

出発前、バナナしか口にしていなかったので、アーケード街にあるカフェベローチェでモーニングを食べることにしました。なぜか客層は高齢者ばかり。

近くの桃山御陵駅から、近鉄京都線で輪行します。ブロンプトンを畳んでホームヘ上がると、ちょうど橿原神宮前行きの急行が入線してきました。
近鉄京都線は、なんの変哲もない大都市郊外路線。関東でいえば京成や北総開発鉄道あたりを思い出す風景です。京都に暮らしていてもこの沿線には本当に縁がなかったのですが、先日、仕事でけいはんな学研都市へ初めてやってきました。関東から来たわたしのような者は、まあ本当に、ここは千葉か茨城かと錯覚してしまうような所でした。

◆ 西ノ京

高の原駅の先は丘陵越え。結構な急坂を登っていきます。このへんは、これでもかというくらいに古墳が並んでいるところで、ロードバイクで走ってくる時は、いつもこの東側のヒシアゲ古墳、コアゲ古墳などをかすめて平城宮跡へ向かいます。

桃山御陵から40分ほどで、西ノ京駅に到着。駅前の細い道が大渋滞していました。
このエリアでは、わたしは唐招提寺が大好きで、奈良へ来るといつも立ち寄っています。が、あまりに頻繁に来過ぎて、南大門に立って本堂を前にした時の凛とした空気感に感動を覚えない、という由々しき体験を、数ヶ月前にしたばかり。近々、母が上洛する時に、恐らくここへ連れてくるので、今回は薬師寺へお参りすることにしました。

時刻はまだ10時前。こうして迅速に動けるのが、つまみ食い輪行の良いところ。
境内には参拝客の姿も未だまばら。

薬師寺の魅力は、長年をかけて再建された創建当時の伽藍、国宝の薬師如来、日光・月光菩薩、聖観世音菩薩などが挙げられますが、個人的には、平山郁夫画伯が約20年をかけて制作した玄奘三蔵院伽藍の「大唐西域壁画」を、いつも楽しみに来ています。
この壁画、通常は非公開のようですですが、わたしはたまたま運が良かったのか、ここ数年の訪問時(概ね年1回程度)は、大体いつも鑑賞することが出来ました。

このため、実は今回の訪問まで、いつ来ても見られるものとばかり思い込んでおりまして、本日は、扉の閉ざされた伽藍の前で、呆然と立ち尽くすこととなりました。
そんなわたしの落胆とは関係なく、伽藍から西ノ京駅へ向かう道には、白梅・紅梅のトンネルができています。

▲ 満開には少し早い白梅と紅梅のトンネル
▲ 玄奘三蔵院伽藍の前より、東塔遠望

◆ 斑鳩

少し欲求不満を残し、斑鳩へ向かいます。
西ノ京から斑鳩への道は、通行量の多い主要道を走る区間が多く、自転車旅らしき雰囲気になるのは法起寺の先2〜3キロ程度。必ずしも好んで走りたいルートではありません。しかしながら、ここから法隆寺の門前まではたかだか10キロ程度であり、輪行するのも却って面倒です。

曇り空の下、背後から次々とクルマに追い抜かれながらのライドでしたが、やがて法起寺の三重塔が姿を現し、周囲は伸びやかな雰囲気になりました。法起寺は田園の中にポツリと建つ佇まいが好ましく、国内最古と言われる国宝の三重塔に加え、少し南アジア的な表情の十一面観音菩薩像などに向き合いながら、静謐なひと時を過ごすことができる古寺です。

今日は、斑鳩の先、奈良市内でも行きたいところがあるので、先を急ぎます。

まもなく法隆寺に到着。
門前にブロンプトンを停めて、拝観するかどうか、ちょっと迷いました。ここは何せ拝観料が1500円かかるのです。もちろん、少し高めの拝観料を定めることは、寺社経営や環境整備の観点だけでなく、オーバーツーリズム対策上も重要な施策と理解しています。
結局、拝観していくことにしました。法隆寺へもこの数年、何度も来ているのですが、この夏には転職して京都を離れることも考えているので、そうすると当面来られなくなるかな…という思いもありました。

ということで、南大門から步を進めます。
法隆寺の伽藍の風格は、他に例を見ないもの。比肩するのは先ほどパスした唐招提寺くらいでしょうか。
素敵な感じだね。なんとも言えない…
背後で、親子連れのお父さんが呟きます。

回廊に取り囲まれた五重塔や金堂。
大宝蔵院では、モデル体型の百済観音像。
東大門から夢殿へ続く築地塀。

さて、斑鳩へ足を運んだのは、法隆寺よりも中宮寺が目的でした。

京都に住むようになって間もない2020年の秋の日、法隆寺と共に中宮寺の如意輪観音菩薩像を拝観したくて、ロードバイクで走ってきました。しかしこの頃は新型コロナウィルスの影響で、中宮寺は拝観を停止していたのです。次に来た時は、展覧会のためご本尊は長期出張中。その次は再びコロナで拝観停止、その次も…と、都合4回ほども振られたでしょうか。事前に確認せず、その日の気分でやって来るわたしが悪いのですが。
ようやく念願が叶ったのは、京都へ来て1年半が経過した2022年4月のことでした。実はこの時も、法起寺の手前でタイヤに針金が貫通してパンク、修理しようとしたらタイヤレバーが折れ、さらにインフレータまで壊れるという散々な目に遭い、最後数キロはロードバイクを曳いて歩いてきたものです。
しかし、そのような紆余曲折の末、この春の夕暮れにようやくお目にかかれた如意輪観音菩薩は、ハスの池に囲まれた本堂の中で暖かな微笑みを浮かべており、いつまでも座って向き合っていたくなる仏像でした。長い年月の間に装飾が失われ、灯明などによって漆黒に姿を変えたその姿からは、1300年の時代の変遷の中、観音様は何を見、何を想い続けていたのだろうか、と考えさせられます。以来、奈良へ来るときは、観音様が出張中でない限り、必ず中宮寺へ立ち寄っています。

今回も、畳の上に腰を下ろして、20分ほども観音様に向き合っていたでしょうか。
境内を出ると、ようやく青空が顔を覗かせ、弱い陽射しが注いでいました。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。引き続き、奈良市の白毫寺参拝と酒場放浪記について綴っていきますので、よろしければお読み頂けると幸いです。

私は、2020年に勤務先を早期退職した後、関東から京都へ地方移住(?)しました。noteでは主に旅の記録を綴っており、ロードバイクで北海道一周した記録や、もう一つの趣味であるスキューバダイビング旅行の記録、また海外旅行のことなども書いていきます。宜しければ↓こちらもご笑覧下さい。

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