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その「個性的」に、一体どんな意味があるのですか

たとえばあなたが、誰かに「個性的だね」「変わってるね」と言われたとしよう。どんなことを感じるだろうか?

うれしいだろうか。しゃくに触るだろうか。落胆するだろうか。

私はといえば、いつからか「個性的」という言葉に対して、とくに何も感じなくなった。

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先日、部屋の大掃除をした。そしたら、2〜3年前くらいに書いた、就職活動時の履歴書が出てきた。「自己アピール」の欄には、こんなことが書かれていた。

私という人間を語る上で、重要なキーワードがあります。それは「個性」です。私にとっての「個性」とは、「周りと違っても自分の信じる道を生きたい」という感情を意味します。これまでの人生で強く印象に残っている記憶の多くが、「自分は人とは違う部分がある」という違和感を感じた瞬間です。

うわー、すごい。面白いくらいに個性が伝わってこないですね!と、私は苦笑いしながら、ビリビリと履歴書を破り捨てた。

かつての私は、「個性的」「変わっている」と言われることがうれしかった。死ぬほどうれしかったと思う。ハマっていたのだ、「個性的」と言われることに。

「個性的」であることは、まさに自分を保ち続けるモチベーションというか、周りと違っていないと、私は生きていても仕方ないというか、そんな感じ。周囲から浮いてたりちょっと変だったりすることは、とてもカッコいいことだと思って、私は常にそんな状態を目指していたと思う。

でも、いつからか、それをやめた。「個性的」であることを諦めた、「変わっている」状態であり続けることに疲れた、と言った方が正しいかもしれない。

自分のことを「私ってちょっと変わっているんだよね」と言う人もいるし、誰かに対して「あなたって個性的だね」と言う人もいる。それは、別に全然悪いことじゃないし、どうぞ、言いたきゃ言えばいいと思う。私も、別にそう言われたからって、突然怒り出したりなんてしないよ。

しかし、私は「個性的」「変わっている」と簡単に口にする人を目の前にするたびに、その「個性的」「変わっている」の言葉で一体何を表したいんだろう、と考えるようになった。

人には皆、「個性」がある。他人とは、まったくもって違う。この世に一人として同じ人間はおらず、それぞれ特徴は異なる。あなたも私も、たとえ血の繋がった家族でも、それぞれが「個性」を持っている。

だから私は、「個性的」や「変わっている」という言葉自体には、あまり中身はないと思うようになった。そんなの、当たり前だからだ。「個性的」は、何ら特別なことでも、奇抜なことでもない。みんなこの世に生を受けた瞬間、すでにそれぞれ違うのだ。(まあ、以前の私は「個性的」イコール「すごい」「カッコいい」と思っていて、その言葉に一喜一憂していたのだが。)

大事なのはさ、その「個性」とか「変わっている」が、一体何を表しているのかだと思うのだ。何をもって、あなたは「個性的」だと感じるのか。何が他の人よりも「変わっている」と思わせるのか。その人にしかない、キラリと光るもの。それが一体、何なのか。

そんな素晴らしい、その人にしかないもの、他よりもキラリと輝くものを、そこらじゅうにありふれた「個性的」とか「変わっている」という言葉で片付けるなんて、自分や大切な人を輝かせるための表現の探求をサボっているだけなんじゃなかろうか。そんなの、あまりにもお粗末である。

「個性的」という言葉は、単なる個性の器みたいなものだ。その器の中身は、一体どんなもので満たされているのだろう。些細なことも自分ごとのように考えられるあなたの優しさが好きだよとか、あなたの芸術的なパワーはいつも人に元気を与えているんだよとか、好きなことに夢中で取り組むあなたの好奇心に敵うものはないよとか。そういうのが本当は、個性の正体なんじゃないだろうか。

私の大好きな人たちには、素晴らしい個性や才能や、その人が気づいていないけど私は知ってるいいところとか、たくさんある。だから、大切な人の、大切な個性ほど、「個性的」とか「変わっている」とか、そんな簡単な言葉で済ませるのは何だかもったいないよなあと、私は思うのだ。大切な個性だからこそ、丁寧に扱えたらいいなと思う。

私自身は、無理に「個性的」であることを目指すのは、もうやめた。周りと違うとか変わっていること自体に、さほど大きな意味はないと気づいたからだ。個性はわざわざ作らなくても、知らず知らずのうちに皆が持っているものだから。無理に「個性的」であろうとするなんて、中身を覗いてみれば空っぽだ。

自然に、ありのままでいること。それだけで、私の個性は十分に形成される、たぶんね。まだ、その個性の正体が何なのかはわからないけど、うまく表現できる言葉が見つけられたらいいなと思う。

いまの私は、履歴書を書くあの頃の私が夢見た「個性的」な人間ではない。でも、あんたが想像してるよりも案外気分よく生きているよ。

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