「共通言語」を持つこと

私は時々、DJをやる。DJといっても大きなクラブのパーティーなんかで回すわけではなく(大きなクラブは苦手だし、人混みも好きじゃない)小さめのバーで好きな音楽をゆったりと流す程度だが、それでもありがたいことに時々イベントで音楽を流させてもらえることがある。なんせ飽き性なのでいつ飽きが来るだろうかと思っていたが、案外にもDJは趣味として細々と続いている。

先日、あるイベントでDJをさせてもらえる機会があった。HIP-HOPやR&B音楽を中心としたイベントだった。早々に自分の出番が終わった私は、カウンター席に腰掛けてビールを飲みながら、近くにいた人と流れている音楽について話していた。

カニエ・ウェストの"Stronger"が流れ始めた。聴くところオリジナル・ヴァージョンではなく、誰かがリミックスしたものだった。カウンターに置いていたスマホですぐさまShazam(音楽検索のアプリ)を開いたが、かかっているリミックス・ヴァージョンは見つからなかった。横を見ると、近くにいた人も私と同じ顔をしていた。

「これ、オリジナルじゃないですね」
「そうですね、誰のリミックスだろうね」
「"Stronger"ですよね、このリミックスもいいですね」

同じジャンルの音楽好きが集まるイベントだとわかっていたからか、それだけで会話が通じた。後から改めて考えてみると、なんだか不思議な感覚だ。

もしも、違うジャンルの音楽が好きな人や、音楽にあまり興味がない人だったら、そもそも「カニエ・ウェストの"Stronger"という曲があってね...」と情報を共有しなくては、話が進まないかもしれない。そもそも相手がカニエ・ウェストを知らないことだってある。(私もそんなに詳しくないけど、"Stronger"が収録されているアルバムを持っていたからかろうじて知っていた。)

私とそこにいた人は、たまたま同じ世界を共有して話すことができる「共通言語」を持っていたから、あの短い会話でも話が通じたのだろう。

会話する時には、必ず言語が必要である。日本語、英語、中国語、地域の方言など、言葉を伝えるツールとしての言語は無論必要だが、そのほかにも「共通言語」というものがあると思う。「共通言語」は、同じ世界を共有しながら会話を進めるために必要となる背景知識や文化のようなものだ。(例えば、私のばあちゃんにカニエ・ウェストの話をしても会話が通じないだろう。ばあちゃんはそもそも音楽を好んで聴かない。私たちは音楽に関する「共通言語」を持ち合わせていないのだ。)

音楽に限らず、ほかのテーマの会話でも同様のことが起こりうる。ビジネスの場面でも、何らかのコミュニティの中でも、趣味のオフ会でも。「共通言語」を持ってないが故に、相手の話していることがよく理解できなかったり、理解しているふりをして墓穴を掘ったり、いつしか会話の置いてけぼりになったりすることもある。周りが「共通言語」を使って会話が盛り上がる中で何もできず、その場にいるのがしんどくなってしまったことは、私も経験済みだ。

大事なのは、自分が何らかの「共通言語」を果たしてどこまでモノにしたいか、だと思う。仕事や趣味で極めたいものがあり、その世界に足を踏み込んでいく必要がある場合、どこまで「共通言語」をモノにするかがその人の行動範囲を左右することは大いにある。反対に、そこまで極める必要がなければ、無理して「共通言語」を吸収しなくてもいいと思う。そもそも世の中の物事に関してあらゆる知識を一気に持つことは難しいし、正直言って興味のない分野の知識を無理矢理に吸収することほど辛いことはない。

ただ、世の中で頭がいいと言われる人や評価されている人は、たくさんの人々と共有できる「言語」を広く持っていたり、ある世界の中でトップクラスの「言語使い」だったりする。何かがんばりたいことや好きなことがあって、その世界をより深く知ったりプロフェッショナルの道を目指したり、その世界の人々とある程度のコミュニケーションをとるためには、やはりその世界の「共通言語」をどこまで追求できるかが肝となるのだろう。

自分が足を踏み入れたい世界は何か、その世界を歩むために必要な「共通言語」は何か、それをどこまで極めるのが自分にとっての幸せなのか。それを探すためには、やはりいろいろな「言語」に触れてみなければわからない。しかし、仮にそんな極めたい世界が見つけられなくても、別に問題ではないとも思う。その間に出会う人々や、拙い言語で交わした彼らとの会話は、その後の人生においてまったくの無駄になることはきっとないはずだ。そんな、少しお気楽に構えている私もいる。

"Stronger"はカッコいいのでよかったら聴いてみるといいですよ。


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るみ氏

にっきみたいなかんじ。日々の中で考えたこと・感じたことを書きます。#エッセイ #日記 が多めです。
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