見出し画像

音楽を“よむ”ということ −− 和訳できない洋楽の、余白に耳をかたむける

母は、私と同じように昔から洋楽が好きだ。彼女が私くらいの歳の頃にハマっていたという80'sの楽曲、たとえば "I wanna dance with somebody"や"カーマは気まぐれ"なんかを耳にすると、あっ、と声を上げてすこし頬を緩ませる。

そんな母を見て、私もひと世代前の音楽を少しずつ聴くようになった。以前は「昔の歌なんて古くさい」としか思っていなかったが、私にもようやくマイケル・ジャクソンの偉大さ、キング・オブ・ポップと呼ばれる所以がわかってきた。

現代音楽の電子音を少し浴びすぎてしまった私は、そんなひと世代前のvibesを上手く取り入れた楽曲が、逆に新鮮で、気持ちよく感じるようになった。その中で最近とくに気に入っているのが、ブルーノ・マーズである。

彼のアルバム"24K Magic"は、まるで2010年代に投げ込まれた「80-90's vibesの爆弾」みたいなアルバムだ。今回はこのアルバムに収録された一曲、"Versace On The Floor(ヴェルサーチ オン ザ フロア)"について、私が感動したことを書いていくとする。

✳︎✳︎✳︎

実のところ、"Versace On The Floor"はアルバムの中で大好きというほどでもなかったので、最初はタイトルの意味をあまり理解していなかった(理解しようとも思っていなかったレベルだ)。ただ、"Versace(ヴェルサーチ)"がどこか海外の高級ブランドだということは、何となく知っていた。だから、「ヴェルサーチが床の上」って、一体どういう意味だろう。高級絨毯(じゅうたん)か何かのことかなー、くらいにしか考えていなかった。あほすぎる。

しかし、何度か聴くうちにだんだんとハマって、徐々に曲全体にじっくりと耳を傾けるようになった。曲の端々に現れる単語たちが、頭の中でだんだんと集まってイメージを作り始めた。気になって歌詞を読んでみて、ハッとした。

「これって、絨毯の歌なんかじゃない...... どエロい歌じゃないか......!!!

✳︎✳︎✳︎

ここで一旦、"Versace On The Floor"をBGMにしながら、下の和訳を目でたどっていって欲しい(下のSpotifyリンクから聴けるはずだ)。YouTubeで聴く人でまだミュージックビデオを観たことがないなら、映像はまだ観ずに、曲だけ聴いて欲しい(ミュージックビデオは後ほど一緒に観よう)。

【歌詞和訳:translated by るみ氏】

Let's take our time tonight, girl
今夜はふたりきりの時間を過ごそう
Above us all the stars are watchin'
見上げれば無数の星たちが見守っている
There's no place I'd rather be in this world
ほかに行きたい場所なんて 世界中のどこにもない
Your eyes are where I'm lost in
君の瞳の中へと 僕は迷い込んでしまう

Underneath the chandelier
シャンデリアの下で
We're dancin' all alone
ふたりきりでダンスする
There's no reason to hide
お互いの心の内に感じてること
What we're feelin' inside
隠す理由なんてないさ
Right now
いまこの瞬間

So baby let's just turn down the lights
だからベイビー 灯りを落として
And close the door
扉を閉めて
Ooh I love that dress
ああ、とても素敵なドレスだけれど
But you won't need it anymore
でも、もう必要ないよ
No you won't need it no more
もう要らないさ
Let's just kiss 'til we're naked, baby
さあ、裸になるまでキスしていようよ、ベイビー

Versace on the floor
ヴェルサーチを床に落として
Ooh take it off for me, for me, for me, for me now, girl
さあ、今すぐ脱ぎ落として、ガール
Versace on the floor
ヴェルサーチを床に落として
Ooh take it off for me, for me, for me, for me now, girl, mmm
僕のために 今すぐ脱ぎ落としてよ、ガール

I unzip the back to watch it fall
背中のファスナーを下ろして
While I kiss your neck and shoulders
君の首や肩にくちづけしながら するりと落ちていくのを見てる
No don't be afraid to show it all
すべて見せることを どうか恐れないで
I'll be right here ready to hold you
僕はそばにいる すぐ君を抱きしめられるように

Girl you know you're perfect from
わかってるはずさ
Your head down to your heels
君は頭からつま先まで完璧だよ
Don't be confused by my smile
僕のほほ笑みに戸惑わないで
'Cause I ain't ever been more for real, for real
僕はこんなにも こんなにも本気になったことはないから

So baby let's just turn down the lights
だからベイビー 灯りを落として
And close the door
扉を閉めて
Ooh I love that dress
ああ、とても素敵なドレスだけれど
But you won't need it anymore
でも、もう必要ないよ
No you won't need it no more
もう要らないさ
Let's just kiss 'til we're naked, baby
だから裸になるまでキスしていようよ、ベイビー

Versace on the floor
ヴェルサーチを床に落として
Ooh take it off for me, for me, for me, for me now, girl
さあ、今すぐ脱ぎ落として、ガール
Versace on the floor
ヴェルサーチを床に落として
Ooh take it off for me, for me, for me, for me now, girl, mmm
僕のために 今すぐ脱ぎ落としてよ、ガール
Dance
踊ろう

(It's warmin' up) can you feel it?
(熱くなってきた)感じる?
(It's warmin' up) can you feel it?
(熱くなってきた)ねえ、感じる?
(It's warmin' up) can you feel it, baby?
(熱くなってきた)ベイビー、感じてる?
Oh, seems like you're ready for more, more, more
ああ、心の準備はできたみたいだね、もっと、もっと、もっと先へ
Let's just kiss 'til we're naked
さあ、裸になるまでキスしていよう

Versace on the floor
ヴェルサーチを床に落として
Ooh take it off for me, for me, for me, for me now, girl
さあ、今すぐ脱ぎ落として、ガール
Versace on the floor
ヴェルサーチを床に落として
Ooh take it off for me, for me, for me, for me now, girl, mmm
僕のために 今すぐ脱ぎ落としてよ、ガール

Versace on the floor
ヴェルサーチは床に
Floor
床に
Floor
床に...

✳︎✳︎✳︎

...ね?どエロいね。

ところで、英語の歌詞には、完璧に和訳するのが難しいケースがある。和訳できない独特な言葉や表現だったり、和訳すると不自然な日本語になってしまったりする場合だ。とくに詩的な楽曲ともなると、和訳はさらに難しくなる。

このヴェルサーチのケースも、少なからずそれに似た点がある。タイトルは"Versace On The Floor"としか言っておらず、直訳すると単純に「床の上のヴェルサーチ」となる。しかし、歌全体の文脈を読み取ることで「女性が脱ぎ捨てて、するりと床に落ちたヴェルサーチのドレス」というところまでわかる。

この何とも言えないおもしろさに、なぜか私はとても感動してしまった。

このどエロいショートストーリーを日本語に翻訳しようとするには、"Versace On The Floor"という4つの単語だけでは、ネイティブではない日本人にとっては情報が少ない。しかし、歌詞を文字ではなく“情景”としてとらえてみたらどうだろうか。夜、うす暗い部屋、男と女、背中のファスナーを下ろす、そして「床の上のヴェルサーチ」と来れば、床の上に脱ぎ捨てられてドーナツ状になったままの煌びやかなドレスを連想するのは、そう難くないはずだ。

✳︎✳︎✳︎

洋楽を聴く際、無理に全てを完璧な日本語にして理解しようとすることはない、と私はこのごろ思う。文字だけではなく、“情景”や“感情”で歌をとらえられたなら、十分に、いやもしかしたらそれ以上に、音楽に込められたストーリーを“よむ”ことができる。和訳できないその余白に耳をかたむけ、想像力をはたらかせることで、洋楽のおもしろさはどこまでも再開発できると、私はこの"Versace On The Floor"を聴いて確信した。

最後に、おあずけにしてしまったミュージックビデオを観て、今日のテーマはこれにて終了だ。"Versace On The Floor"の瞬間を、どうぞ堪能してほしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?