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花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

著者の花田菜々子さんは、ヴレッジヴァンガードに12年勤め、店長も経験した後に、現在までもずっと本の販売に関わる仕事をされているとのこと。

花田さんは私の3つ上。中学時代からサブカルと本が大好きで、大学生の時、初めて下北沢のヴィレッジヴァンガードに行った時から、そこで売っているものや独特のポップさにとても惹かれ、ついには下北沢に住むようになったそう。

私も恐らくだいたい同じ時期に、下北のライブハウスに足繁く通い、ヴィレヴァンも好きだったので、あの頃同じ空気を感じていたんじゃないかなあと思って、とても親近感が湧きました。

後に店長にもなった花田さんは、時代とともに移り変わっていくヴィレッジヴァンガードに危機感を覚えるも、人生の殆どを捧げたヴィレヴァンへの愛は深く、もはや引き返し方も分からなくなっていたとありました。

そう、ヴィレヴァンはあるときから、地方にイオンができたら必ず入っているような店になっていったんですよね。

ファッションビルがリニューアルすれば、そこにも必ずマイルドになったヴィレヴァン。

無印良品やユニクロのように、どこにでもある存在になったとき、ああ、かつてのヴィレヴァンではなくなってしまったなあとは、私も思ったものです。

雑貨よりも本を押したかったけれど、会社としてもうそれが叶わなくなっていた頃、花田さんは、仕事が全然楽しくなくなっていたそうです。

そんな時、バイトの時から知り合って10年、その時関東地区のマネージャーをしていた吉田さんが自分の店を視察に来たとき、毎日雑貨をさばく仕事に追われ、自分の店の本棚まで手が回っていなかったこと、おすすめできる本もなかったことが恥ずかしく、吉田さんが次に来る時までに、吉田さんへのおすすめの本を30冊用意したそうです。

全ての本は、吉田さんにおすすめする理由付けがあり、それを、吉田さんに全部プレゼンをして、最終的に吉田さんは7冊の本を買ってくれた。

その時、相手に本を勧めるには、その人のことを知り・本のことを知り・なぜこの本を読んで欲しいかという理由があり、それを踏まえて、人に本を紹介することの面白さと興奮が頭から離れなかったとのこと。

全然別の理由で始めた出会い系サイトで、こんなやり方で初対面の人に本を勧めることができるかもしれないと思い、こんなプロフィールにしたそう。

「変わった本屋の店長をしています。1万冊を越える膨大な記憶データの中から、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」

そこからは、一人一人に会って30分話をしたあとで、その場で、もしくはメールでおすすめの本とその理由を送るということを繰り返すうちに、その出会い系サイトではすごく人気が出て有名になっていったそうです。


自分が好きなこと、得意なことを、ただ気の赴くままにやるときに生まれる熱量って、やっぱりものすごく強いんだよなあと思いました。

誰かに自分の好きな本をすすめるということは、多くの人がやったことのある行為だと思うけれど、その相手が誰であっても、その人の生活や性格を汲み取って、自分の中にある膨大なデータの中からおすすめを弾き出すということが、できる人もいるんだなあと、

そして、そういうふうに自分の経験で人に何かができるという技術は、実は、つきつめたら多くの人が持っているもかもしれないなあとも思いました。

私は「おすすめの本を聞きたい」と思って、本屋や図書館に行ったことはないけれど、スタッフの「おすすめしたくてたまらない」という愛が溢れた本屋や図書館は一瞬で分かりますよね。

ポップの言葉や本に関する展示物のクオリティが尋常じゃない、そんな場所に来ると、ああ、まだ紙の本も大丈夫だなんて思ったりします。

それだけ本が好きなら、スタッフが直接おすすめしたいと思う本ってきっとあるんですよね。本屋大賞だって、今はすごく名誉な賞ですもんね。

そういう気持ちを、更に個人に特化して、直接すすめるという実践に出会い系サイトを使うという斬新な発想の中に、私自身がやりたいと思っていることのヒントがたくさんありました。

面白いことをやって有名になった人は、当然「有名になれるような面白いことは何か」と思ってやっているわけではなくて、ただ自分が強い情熱でやりたいことをやり続けたら、結果としてそれは珍しくて面白くてたくさんの人にうけていたということなんですよね。

自分が夢中になれることを掘り下げていくこと、その中では当然、すごく嬉しいことにも、すごく不愉快なことにも出会ったりするはずだけれど、何が起きても続けていけるような情熱があれば、生きることは本当に幸せだなあと思いました。

#読書 #本 #花田菜々子  

いろいろな方にインタビューをして、それをフリーマガジンにまとめて自費で発行しています。サポートをいただけたら、次回の取材とマガジン作成の費用に使わせていただきます。