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ミルフィーユ

約束の時間まで二時間もあるのに、スマホを眺めてはソワソワしてしまう。そんな自分が恥ずかしいと思う。でも、仕方がない。

――だって、今日はカフェデートの日なんだもん。

私との勝負に負けた罰ゲームとして“隣家の幼馴染に美味しいスイーツをおごってもらう日”というのが正式名称だったとしても気にしない。
問題は、自分がどう思うかなのだ。などと無限の自己肯定力を発揮して、姿見の中の自分に向かって微笑む。

――やっぱり、この服は気合い入り過ぎかな?

手に持った服を身体に当て、考え込む。
手触りの良い紺色の生地で、裾に白いレースをあしらったハイウェストのワンピース。これはきちんとした日のためにと、母が買ってくれたものだった。

――じゃあ、こっちのは?

ピンク色のブラウスに、白いデニム生地のロングスカートを合わせてみる。ベルトは細身のものを選んだ。顔色がとっても良く見えるけど、いかにもデートっぽい。

それから一時間程悩んだ末に、結論は最初に選んだハイウェストワンピースとなった。

――早く着て、お化粧しなきゃ。

床に堆積した衣類の層を脇に寄せて、ワンピースに着替える。
はずだったのだが……。

――嘘でしょ!? ファスナーが上がらないじゃん……。

ウエスト部分のファスナーが上まで上がらない。息を吐いてお腹を凹ませてみても、ギチギチと嫌な音がするだけだった。
幼馴染に“ダイエットは明日からとか言ってるから、痩せないんだ”と指摘されたときの顔が目に浮かんだ。なんて遠慮のない、憎たらしい表情なんだろう。ムカつく。ムカつくけど――

――やっぱり、好きだな。

彼のことを想うと、その感情が降り積もる。

こうして服選びはふりだしに戻り、迎えに来た幼馴染は待ちぼうけをくらうことになるのだった。

シナリオライターの花見田ひかるです。主に自作小説を綴ります。サポートしていただけると嬉しいです!