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書評:線と面の思考術

現代は江戸時代の1年分の情報が1日でもたらされているといわれています。また、クイーンズ大学の研究によると人の脳内活動を計測した結果から、人は1日に6200回も思考しているそうです。

私たちの日常は、情報が氾濫し、さながら洪水のようです。激流の中で意識する・しないにかかわらず、次々と考えを巡らせている状態です。

私も時々思うことがあります。これは自分で考えたことなのか、それとも誰かが考えたことをトレースしているだけなのか、分からなくなってしまうことがあります。

情報洪水の現代においては、「自ら考える技術」がとても重要になってくることは異論のないところと思います。

特に、コンサルティングにおいて、クライアントから出された問題を深掘りして「本当は何なのか?」を追求して発見することは問題解決のために必須です。その基盤となるのが「自ら考える技術」というわけです。

これから定期的に自分のコンサルティングのベースとなった思考術や思考法の本を紹介したいと思います。


第1回は「線と面の思考術」です。サブタイトルに「ワンパターン発想を打破する頭のトレーニング」とあります。著者は、袖川芳之さんという方で広告会社勤務(本書発行日現在)だそうです。

袖川さんは「線の思考」と「面の思考」を誰もが持ってはいるけれど、無意識に使っている『道具』だといいます。本書では、その能力を意識的にコントロールすることで、問題解決や新しいアイデアの発想、企画をまとめる方法が記されています。

線の思考と面の思考の違いを例を挙げて説明しています。

車でよく知っている道を運転する時も、目の前に見えている道や障害物を認識するのは「線の思考」ですが、目的地までの全体の道のりを思い浮かべて、これから信号を3つ通過すると目的地だ、などと考えるのが「面の思考」です。

「線と面の思考術」袖川芳之(大和書房)

線の思考とは、時間の経過とともに順番に現れてくるものを認識する能力、論理的な思考で客観性があり、他人と容易に共有できるものといえます。

一方、面の思考は時間を必要とせず、一瞬にして把握する能力であり、感性的な思考で主観的で個別性の高い思考ということです。

コンサルティングの現場においても、起こった事実を時系列で並べることにより、何が原因なのか、今後どのようになっていくかといったことを整理しますが、まさに「線の思考」ということになります。

また、そうした事実に登場人物を結びつけることで関係性を明らかにしたり、どこにレバレッジポイントがあるのかを発見したり、といった全体を俯瞰する見方は「面の思考」といえるでしょう。

しかし、理屈に合わないことはしたくないとか、筋を通したいと考える「線の思考」と、多少の論理的な齟齬があっても小異にはこだわらず全体をうまくまとめたい「面の思考」では考え方の基盤がまったく異なります。互いに綱引きすると思考停止に陥ってしまいます。

では、どうすれば思考停止に陥らなくなるのでしょうか。

袖川さんは、両方を同時に使うのではなく、片方ずつコントロールして使う方法を提案しています。面→線→面→線の流れです。

  1. 日常の常識の範囲を超えて思考の限界まで可能性を広げる(面)

  2. 広げた考えの断片の拾いながら情報を整理し、一つのストーリーになるようにつなげる(線)

  3. 2.で作ったストーリーにリアリティがあるか検討する(面)

  4. もう一度全体を精査して、より多くの人に納得してもらえるか、反対意見を持つ人を説得できるか、他の人と共有できるかをチェックする(線)

この流れで思考を進めることで、ひらめきから始まったアイデアが他人と共有できる企画へと進化します。

さらに思考を引き出すための具体的なツールをあげています。

  • ひとりブレーン・ストーミング(面)

  • 1枚紙でアイデアのデッサン(面)

  • 概念ごとのグルーピング(線)

  • 無意識に任せる(面)

  • 触媒で思考をジャンプさせる(面)

  • リファレンス・グループ(準拠集団)に訊ねる(線)

このほかにも、他人に分かりやすい伝え方や読書レベルを上げて独学力を身につける方法も記されています。


この「線と面の思考術」というタイトルを見たとき、『記憶』という言葉が浮かびました。過去から現在までの起きた出来事を一貫性を持って流れ(論理)として把握する「線の思考」と、現在を起点としつつも時間を超えて、これから起こりうる出来事も含めて整合性を持った配置(俯瞰)として把握する「面の思考」ということなんだろうと解釈しました。

我々は時間と空間を認識することで「線と面の思考」を身につけたのかもしれません。だからこそ人に備わった基本的な能力だと思います。

皆さんも「線の思考」と「面の思考」を意識してみてはどうでしょうか。これまでと見え方が違ってくるかもしれません。

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