高齢者の交通事故は増えているのか?
今日の記事は、東海新報2024年4月21日付の「高齢者係る事故倍増」です。高齢者の交通事故がテレビや新聞で取り上げられることが多いように感じていますが、本当に増えているのでしょうか。
(東海新報 https://tohkaishimpo.com/)
記事は、岩手県警察本部が発表した「令和6年春の全国交通安全運動」期間中の県内におけ人身交通事故発生状況を伝えています。
さらに記事では、死亡事故の詳細を伝えたのち、次のように続けた。
続けて、大船渡署管内での今年に入ってからの交通事故発生状況として13件でうち死者2人と伝えています。
記事は、交通事故発生件数を数字で丁寧に示しています。提示された数字上で、事故に関与した人のうち高齢者が昨年同期の7人増の19人、高齢ドライバーが昨年同期の7人増の15人なので約2倍に増えています。記事は事実を伝えており、一層の注意が求められるの確かなことです。
しかし、本当に高齢者が関わる事故は増えているのでしょうか。ちょこっと深掘りしてみます。
岩手県警察本部では、交通事故の状況を統計データとしてまとめて公表しています。そのデータの中に「令和5年交通事故のあらまし」と1年間の状況をまとめた資料があり、それによると2014年から2023年までの第1当事者の年齢別交通事故件数が次のようにまとめられていました。
(岩手県警察:https://www.pref.iwate.jp/kenkei/)
交通事故件数
(前:全体件数 中:高齢者件数 後:高齢者の占める割合)
2014 2,712件 549件 20.24%
2015 2,560件 584件 22.81%
2016 2,373件 565件 23.81%
2017 2,231件 548件 24.56%
2018 1,982件 516件 26.03%
2019 1,968件 499件 25.36%
2020 1,658件 485件 29.25%
2021 1,566件 480件 30.65%
2022 1,511件 490件 32.43%
2023 1,503件 497件 33.07%
続いて死亡事故件数は次のようになっています。
死亡事故件数
(前:全体件数 中:高齢者件数 後:高齢者の占める割合)
2014 62件 16件 25.81%
2015 76件 23件 30.26%
2016 70件 22件 31.43%
2017 55件 16件 29.09%
2018 58件 23件 39.66%
2019 44件 18件 40.91%
2020 46件 20件 43.48%
2021 35件 14件 40.00%
2022 35件 19件 54.29%
2023 35件 17件 48.57%
全体件数をみますと、交通事故件数・死亡事故件数ともに減少傾向にあり、2023年は2014年に比較して4割以上減っています。
一方、高齢者件数をみますと交通事故件数は減少傾向ですが、2014年に比較して2023年は1割程度の減少に留まっています。死亡事故件数に至ってはほぼ横ばいが続いています。
「令和5年交通事故のあらまし」をもう少し読み解いてみましょう。
あらましの中では、月ごと、時間帯ごと、路線ごとなどで交通事故件数をまとめていますが、高齢者が関わるということで注目されるのが、交通事故での死者の年齢別・状態別数です。それによると、
65〜69歳 自動車運転中 6件(全体19件中:31.58%)
80歳以上 歩行横断中 6件(全体11件中:54.55%)
と他の年齢層に比較して突出して高くなっています。
これらのことから次のことが読み取れます。
交通事故や死亡事故は全体として減少傾向にある。
交通事故や死亡事故に高齢者が関わる割合が増えている。
特にも死亡事故に高齢者が占める割合が高まっている。
記事で報じた「高齢者関わる事故倍増」については、前年同期の比較でいえばそのとおりですが、2024年全体がどうなるかは、1年経過してみないと増えた・減ったは何とも言えません。これまでの数字を見ると高齢者も減少または横ばいであり、増えている事実はありません。ただ、交通事故全体に占める高齢者が関わる事故の割合が高くなっていることから「高齢者の事故が増えている」という認識に至ったものと思います。
いずれにせよ交通安全には十分注意したいものです。
いかがだったでしょうか。
記事は、事実を的確に数字で載せていますが、その数字が何と比較しているのか、どんな流れで推移しているのかといった視点でみるとより立体的に物事が見えてくると思います。
今後も気になった記事をちょこっと深掘りしてみたいと思います。
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