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坂本龍一と山下達郎

今年、故人となったYMOや世界的な音楽家としても有名な坂本龍一氏と山下達郎氏(以下、敬称略)の若い頃の親交は有名な話で、山下達郎の初期の作品群に坂本龍一がピアノやキーボードとして多く参加しているのが確認できます。

今年出版された坂本龍一の自伝「音楽は自由にする」でも山下達郎との出会いや意気投合した様子が語られています。

そんなふうに人脈が広がってきたころ、山下達郎くんに出会いました。たしか荻窪ロフトで初めて会って、音楽関係の共通の友人もいて、親しくなりました。

山下くんの音楽は、ぼくが日比谷の野音などで聴いていたロックやブルースとはぜんぜん違うもので、とても驚きました。言ってみれば、ものすごく洗練されていて複雑なんです。ハーモニーも、リズムの組み合わせも、アレンジも。とくにハーモニーという面では、ぼくの音楽のルーツになっているドビュッシーやラヴェルなんかのフランス音楽とも通じるところがある。

こっちは一応音大に、実際にはほとんど行ってないですけど、まあとにかく行って、何年もかけて勉強したのに、ロックやらポップスやらをやっているやつが、どこでこんな高度なハーモニーを覚えたんだ、どういうことだ、と思いました

それはもちろん独学で、耳と記憶で習得したわけです。山下くんの場合はアメリカン・ポップスから、音楽理論的なものの大半を吸収していたんだと思います。そして、そうやって身についたものが、理論的にも非常に正確なんですよ。彼がもし違う道を選んで、仮に現代音楽をやったりしていたら、かなり面白い作曲家になっていたんじゃないかと思います。

もちろん、複雑なハーモニーのことを突っ込んで話せる相手なんてお互いそういませんでしたから、2人はすぐに意気投合しました。山下くんのレコーディングに参加するようになってしばらくして、はっぴいえんどのヴォーカリストで、山下くんの師匠ともいうべき、大瀧詠一さんに紹介されました。

「音楽は自由にする」 坂本龍一 新潮文庫(2023年)

2022年のミュージック・マガジンの「特集 山下達郎」にも坂本龍一は特に思い入れのある曲として「Ride on Time」を挙げて、以下のようなコメントを寄稿しています。

時間があり余るほどあった20代、達郎と大貫(妙子)さんとよく麻雀をした。三日三晩ということもあった。3人じゃつまらない時は近くに住んでいた伊藤銀次を呼び出した。そしてお腹がすくと駅ビルに行って安い定食を食べた。

そのうち達郎バンドのキーボードを弾くようになり、日比谷公園の野音で演奏した際にサディスティック・ミカ・バンドに挨拶した。そこで初めて高橋幸宏に会った。こんなファッショナブルなドラマーがいるんだ、と驚いてしまった。

達郎はその頃から一貫して音楽は変わらないね。

ミュージック・マガジン 2022年7月号

大学時代の友人のような付き合いから音楽的な関係に発展していった様子がうかがえる逸話ですね。

ちなみにシュガーベイブで一緒に音楽をしていた大貫妙子さんも次のようなコメントを寄せています。

…彼が昔、私に言った言葉を今でもはっきり覚えています。「僕はさ、スタイルで音楽を作る人間だけど、君はアイデンティティで作る人だからさ」と。その言葉こそ今を私を支える宝です。

同上

山下達郎は2023年の7月16日、23日のラジオ、サンデーソングブックで坂本龍一の追悼特集をしていますが、とりわけそのプレイのタイム感が素晴らしいと褒めています。

https://yamashitatatsuro.com/blog-entry-20230723-sundaysongbook.html

ところで山下達郎はサブスクリプションを許諾していないので今でもその音楽を聴くにはCDかレコードを購入する必要があります。アルバムが多いので山下達郎の音楽を聴くには2012年に出ているベストを聞くのが手っ取り早いでしょう。

このアルバムの中だけでも坂本龍一が参加している楽曲の一部が聞けます。以下、曲名と参加楽器です。

  • パレード:Acoustic Piano & Vibe

  • SOLID SLIDER:Electric Piano

  • PAPER DOLL:Keyboards

  • 潮騒(THE WHISPERING SEA):KORG PS-3100 Synthesizer

  • 2000トンの雨(2003 NEW VOCAL REMIX):Acoustic Piano

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