鳥文斎栄之展で感じたことなど
本日から始まりました、千葉市美術館の鳥文斎栄之展に行ってきました。
もう断言しちゃいますが、今年一番最初に一番いい展覧会に行けたなと思います。
こんなに自分の知らない浮世絵の世界があるのかと思わされた一日でした。
それもそのはずで、多くの作品はボストンやロンドンからの里帰りとなっているからです(あとはコレクターが寄贈した慶應義塾や太田記念美術館など)。
写楽や歌麿に比べて鳥文斎栄之が知名度がない理由はそれもけっこう大きいです。
初日にしては、あと土曜日にしては意外すぎるほど閑散としていました。
平日だともっとゆっくり見られるのではないでしょうか。
千葉は遠い、とお考えの方も是非お越しください‼︎
待ち望んだ、この日を…(昨日は眠れず。夢にもチバシビを見ました)。
神奈川から横須賀線で一本。本千葉駅までは一時間超でした。
まずはミュージアムショップでグッズ購入。アレ、順序が逆?
展覧会図録は鳥文斎栄之をイメージしたシンプルながら清楚デザイン。ミュージアムのカフェでゆっくり見ます。
いきなり展覧会から入ってしまうのが苦手な私。できれば図録を購入して予習してから行きたいのです。
知識を先に詰め込んでから、作品と対峙する。つまらない作品鑑賞態度かもしれませんが、自分のスタイルだったりします。
昼食をいただいてからいよいよ7・8階の会場へ。
あまりネタバレになりすぎないよう、ここからは中核ではなく、周辺部分をマニアックにかいつまんでいきましょう。
会場では4箇所撮影がOKでした。
上の写真は鳥文斎栄之が私淑した鳥居清長お得意の隅田川を描いたランドスケープ。
明確な消失点がある訳ではないので遠近法を用いているとはいいがたいですが、橋や川向こうの描写には合理性があるように見えます。
栄之はわりに遠近感を駆使した版画に妙味があり、浮絵ほどにはやりすぎないマイルドさに好感が持てます。
ちなみにトップ画像の猫ちゃん。栄之の弟子・栄昌の作品で、こちらも撮影可能です
栄之版画の特徴としてよく語られる「紅嫌い」。
ググってもそれらしい画像が見つからず、よく分からなかったのです。
でも会場に来て一発で分かりました。
本当にほぼモノトーンでした。
白黒の世界ってなんか地味ではないか、と思われるかもしれません。
それが栄之の手にかかると高貴で雅な世界になるのが不思議です。
会場には春画絵巻もありましたが、それがエロいっ!
Get it onしているんじゃなくて、情をまじわせているところまでなのですが、ああ…マジボレしてるなって感じがすごい出てます。
桃山時代の浮世絵開祖・岩佐又兵衛も交情のエロティシズムは心得ており、栄之と相通づるものを感じます。
ちなみに絵巻のロールされた部分、本番(着衣)が透けちゃってます。
栄之の肉筆画では思いがけぬ発見も。
彼は江戸の風俗にとっても関心があったのです。
市井って言ってもほぼ吉原なのですが、その日常をささっとした筆致で描いて見せています。
その生き生きとした様は、同時代を生きた浮世絵師・鍬形蕙斎の絵画を彷彿とさせます。
蕙斎もまた浮世絵師から津山藩御用絵師に取り立てられる数奇な一生を送った人。栄之同様広い視野を持っていました。
栄之は実は弟子たちの方が画風としては面白いのでは、と思います。
中でも栄里と栄昌、この二人は師匠の画風を継承しつつ、さらに可憐で多様なモチーフの女性たちを描きました。
上の絵は朝風呂(私も好きです…小声)から上がったばかりの遊郭の女性を描いた栄昌の作品。
エロチックさ、奔放な感じ、明るさ、愛らしさ、色々な要素が重複した素晴らしい作品です。
是非今度は細田派(鳥文斎栄之を祖とする一派)特集も組んでほしい!
後期の展示になっていますが、美男子も見られます。
鷹匠は実際はこんなに秀麗なはずはないのですが、鷹と美少年の組み合わせは尊い!と思う庶民の妄想が拡大して描かれるようになったそうです。
大津絵にもやはり「振袖」姿のイケメン鷹匠が描かれます。
大津絵版だと左側は帯刀している上に鷹を乗せるので、ポージングは限られます。
それと比べると、栄之の弟子・栄深の鷹匠は大首絵となっていて、さらに一富士ニ鷹三なすびの隠し絵もあって非常に面白みを感じますね。
国内ではなかった現象が海外の反応として最後に紹介されていました。
栄之作品は遊郭を描いたものが多い上に、刷りも豪華なので西洋人からは相当な人気でした。
文学者ゴンクールは栄之を著書で褒め称え、日本大好きすぎる医者ビゲローは栄之作品を多く収集しました。
彼らは売り立て目録というものを作るのですが(上の写真を参照)、そこには写真や作品情報などが記されており、100年以上前にも関わらず見事な「図録」となっています。
今回出品されなかったもの、現在行方不明のものも含まれているはず。
栄之マニアの外人たち、恐るべしっ!
最後に展覧会図録について。
ページ番号は219まで振られ、お値段は約2800円でした。
私の本棚の浮世絵コーナーにはけっこう千葉市美術館の図録があります。
精度が高いからです。あとはマニアックだから。
「初期浮世絵」展なんて、一部のマニア以外ついて来られそうになかったのでは、と思います。
チバシビの図録はシックなデザインが多いですが、今回は白と藤色をベースにした、さっぱりとしたもの。
夢に出てきた図録とは違ってた笑。
いかがでしたでしょうか。
鳥文斎栄之展、行ってがっかりはまずしないでしょう。
私は来週もう一回行きます。神奈川から…。
というのも、土曜日にこの展覧会を企画された染谷美穂先生の講演があるからです。
関係者の方にお伺いしたところ、展覧会前日に行われた内覧会には過去最高の人数が来場されたとのこと。
つまり関係者からは相当熱い目線を寄せられている訳です。
整理券は激戦必須ですが、果たして手に入るでしょうか?!
もし講演が拝聴できたらノートにもう一度まとめます。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
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