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【超ショートショート】(263)~桜の新婚旅行~☆ASKA『はじまりはいつも雨』 ☆

1人の少女が立っている。
手に黄色い風船を持って。

「どうしたの?この風船は?」
「あそこに居るピエロさんにもらったの」
「お嬢ちゃん1人なの?」
「ううん、違うよ!お父さんと一緒」
「じゃあお父さんはどこに居るの?」
「あれ?トイレに行くからここで待っててって
言ったかな?」
「でも、ここで待っててって言ったの?」
「うん!(笑)」

それから少女は、
ピエロさんからもらった黄色い風船を持ちながら、
お昼1時から2時間、お父さんの帰りを待った。

「ねぇねぇ」
「何?」
「お父さん、戻ってきたの?」
「まだだよ!」
「一緒に探しに行こうか?」
「ううん、大丈夫!」
「何が大丈夫?」
「お父さん、ちゃんと私の所に戻ってくるから」
「でも、もうここに・・・」
「大丈夫!お父さんと約束したもん!
遅くても夕方には戻って来るって」
「あっそう」

それから、夕方まで2時間、
少女は疲れも見せず待ち続けた。

「ねぇ、お嬢ちゃん!もう夕方だよ!」
「お兄さん、あそこに居るお父さん、見えないの?」
「へぇ?」

少女が指さす夕日に染まる広場を見た。
特にお父さんらしき人は確認できなかった。

「どの人?」
「うん?あそこのスーツの人」
「スーツ?遊園地に?」
「お仕事の帰りだからだよ!」
「あっそうなんだ」

少女の言うスーツの男性は、
広場にも他の場所にも、
少女から見える所には一人も居なかった。

「お父さん!遅かったね!」
「・・・・・」
「あのね、このお兄さん、ずっとね」
「・・・・・」
「うん、とってもいいお兄さんだよね!」
「・・・・・」
「お兄さん!お父さんが
娘を見てくれてありがとうって言ってるよ」
「あっ!こちらこそ、なんかスミマセン」
「・・・・・」
「このお兄さんはお父さんは見えないんだね!って、
お父さんが笑ってるよ!お兄さん」
「あっ!はい!見えません。はい~スミマセン」
「ハッハッハ(笑)お兄さん怖がらないでって
お父さんが心配してるよ(笑)」

それから、2時間後の夜7時。
少女のお母さんが少女を迎えに来た。

「今日、お父さん来たの?」
「来たよ!お父さん、
あのお兄さんが可笑しかったねって
ずっと笑ってたよ」
「お父さん、元気そうだった?」
「うん!でもお母さんがもうすぐ風邪ひくから
移されないように、近付くなよ!って(笑)」
「まぁ!なんて人!本当相変わらずひどい人!(笑)」
「お母さん?」
「何?」
「お父さんがね!」
「うん」
「もし、気になる人が居るなら、
俺に遠慮は無用だって言えって言ってたよ!
無用って何?」
「無用はね(涙)」
「お母さん?!」
「・・・(涙)」

遊園地の閉園後、スタッフのお兄さんが、
少女が立っていた場所を掃除していると、
広場にぼんやり人影が見えた。

「夕方は失礼しました」
「あっ!へっ?」
「娘の父親です」
「あっ!はい!へっ?生きてるんですか?」
「いいえ!死んでいます」
「ですよねっ!」
「ですよ(笑)」

そしてお兄さんは、
しばらくお父さんとお話をした。
この時、お父さんが、
今度の待ち合わせの時には、
娘に会いに来れないことを
お兄さんに話した。

「僕が会いに来れない代わりに、
娘と一緒に見ると約束していた、
桜を見に連れていってあげてください」
「どちらの桜ですか?」
「はい!私たち夫婦の出身地の京都にある
平野神社の桜です!」
「はじめて聞く神社ですね?」
「京都では桜で有名な神社です!」
「わかりました!連れて行ってきますね」
「はい!お願いします。母親には、
娘から説明させますので心配なさらずに」
「はい!わかりました」
「ただぁ~」
「ただ?」
「旅費っ?」
「旅費がどうしました?」
「その~旅費がですね?」
「はい!」
「できれば!」
「できれば?」
「自己負担でお願いできないかなって(苦笑)」
「自己負担?」
「はい~」
「あっ!私の旅費位なら自分で出しますよ!
一度京都に行ってみたかったですから」
「いや~あの~」
「うんっ?ま・さ・か?」
「はい!そのまさかです!(笑)」
「んな都合よくいくわけ無いですよ!
何で僕が娘さんの旅費を出すんですか?」
「あっ!スミマセン!どうせ子供料金ですから
ひょっとしたらあなたがいい人なら
おごってくれるかなって思ったんですが」
「そんなうまい話はありません!」
「でもですね!」
「何ですか?」
「娘は将来あなたと結婚したいと言っています」
「子供の話を信じるんですか?」
「今私がどこにいるか、わかっていますか?」
「天国?あの世?」
「そうです!変なあの世です!?ではなく、
ふつうのあの世です!」
「それがどうしたんですか?ふつうにあの世に居るのは
当たり前じゃないですか!死んでるんだから」
「それだけじゃないんですよ!ここは」
「えっ!?」
「あの世には時間も空間もない。
だからなのかあなたの未来が見えちゃうんですね」
「僕の未来?」
「はい!ほらね?私の娘と一緒に居るあなたが
僕には見えるんですよ!」
「・・・」
「娘のことお願いしますね」
「はい・・・」
「今、はい!って言いましたね?」
「はい!」
「これで旅費のおごりも決まりですね!」
「・・・もう、わかりましたよ!
今回だけですよ!」
「ふふふ、今回がスタートです!
ずっと娘を頼みます!(笑)」
「もう~何だか重いですね!」
「だって、砂かけばばあがあなたの背中に」
「もう、オバケネタ止めてください!」
「ハッハッハ(笑)」
「ハッハッハじゃああらへん!(怒)」

一週間後、
京都の桜ヶ丘公園満開を迎えた頃、
お兄さんは少女のお父さんとの約束を果たして、
少女と京都へ向かった。

平野神社に着くと、
神社の桜がそれぞれに満開を迎え、
訪れる人々を楽しませていた。

少女は、
神社の入口のお茶屋さんに入ると、
桜入りのお茶とお菓子を頼んだ。

「お兄さんは?」
「じゃあ僕にも同じものを」

お菓子とお茶を飲みながら、
少女が話す。

「お兄さん?」
「何?」
「お兄さん、私のこと好きなの?」
「何で?」
「いや、お父さんがお兄さんがねって(笑)」
「うん」
「お兄さんがね、
どうしても私と京都で桜見たいって
言うからねってお父さんが話すの(笑)」
「えっ!?お父さん来てるの?」
「うん!(笑)お兄さんの隣に座ってるよ!(笑)」
「へっ?!」
「お兄さん、お父さんに騙されたね(笑)」
「へっ?!」
「だって京都に来たかったのは、
私じゃなくてお父さんだから(笑)」
「へっ?!(怒)」
「お父さんね、お父さんのお母さんに
会いたかったんだって」
「どうして?」
「お父さんがおばあちゃんよりも先に天国に行ったから
謝りたいって」
「あっ、そうだったんだ」
「うん、なんかお兄さんごめんね」
「いやいや、君が謝らなくても大丈夫だよ!
それにしても、お父さんも可哀想だったんだね」
「うん・・・」

ふたりがお茶を飲み終える頃、
一人のご婦人が少女の名前を呼んだ!

「おばあちゃん!」
「おやおや、こんなに大きくなって(笑)」
「うん!」
「元気だったかい?」
「うん!」
「お父さんのことごめんね!寂しい思いさせちゃって」
「ううん!おばあちゃんも同じでしょう?
寂しくないの?」
「そりゃあ、大事な一人息子だったからね、
居なくなっておばあちゃんも寂しいよ」
「それから、この方はどなたかな?」
「このお兄さんは、
私の将来の旦那さん!」
「えっ!?旦那さん!ハッハッハ(笑)」
「本当だよ!お父さんがそう話したんだから」
「じゃあ、◯◯ちゃんは、
このお兄さんのこともう好きなのかな?」
「うん!好きよ!」
「じゃあ、あなたは?お兄さん」
「わっ私は・・・好き?になるかもしれません」
「ハッハッハ(笑)正直ですね」
「あっ!えっ!なんかスミマセン!」
「いいんですよ!また息子があなたに無理を
言ったんだと思います」
「そうですね(苦笑)」
「ハッハッハ(笑)息子は昔から、
自分に似た人を見つけるのが得意で。
私たち家族が自分(息子)が居なくても寂しがらないように
分身を用意するみたいですね、
今から思えば・・・(涙)」
「はい」
「だから、
あなたはとっても息子に気に入られたのでしょうね(笑)」
「あっ!はい」
「息子の言う将来はさておき、
◯◯ちゃんのお友達では居てあげてくださいな?」
「はい!わかりました」
「ありがとうね」
「お兄さん、ありがとー」


平野神社は桜の咲いている夜、
ライトアップが行われる。
お兄さんと少女は、
おばあちゃんが用意した着物を着て、
まだ見た目には、
兄と妹のふたりの後ろ姿だが、
ふたりの心は
もう20年後の大人なふたりだった。

「お兄さん?」
「何?」
「新婚旅行は京都でもいい?」
「あ~、また桜季節に来ようね」
「うん!」
「それまで、ちゃんと勉強して、
きれいな女の人になるんだぞ!」
「おばあちゃんみたいに?」
「あ~、そうだな(笑)」
「うん(笑)」

(制作日 2022.3.14(月))
※この物語はフィクションです。

今日は、
1991年3月6日発売 シングル
ASKA『はじまりはいつも雨』を
参考(ヒント)またはテーマソングとして、
まだ恋がはじまる前のお話を書いてみました。

この物語で一番言いたかったのは、
「平野神社」の「桜」です。
金閣寺や北野天満宮の近くにあり、
嵐電と言われる電車の駅
北野白梅町駅にも近い場所にあります。
また、京都で学生さんの駅伝が放送される、
コースでもあり、中継映像にも映るかもしれません。

まもなく桜季節ですね!
今年はどんな桜に会えるのでしょうか?(笑)




(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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今日参考にした曲
ASKA
『はじまりはいつも雨』
作詞作曲 ASKA 編曲 澤近泰輔
(1991.3.6発売 シングル)

YouTube
【ASKA Official Channel】
『はじまりはいつも雨』'91年ver. MV
https://m.youtube.com/watch?v=74IKR0WeKXY
『はじまりはいつも雨』'97年ver.MV
https://m.youtube.com/watch?v=Rtewdssxnzc
『はじまりはいつも雨』'2020年ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=z8klMB6tE-o






 

 

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