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【超ショートショート】(71)☆はるかな国から☆~笑って、平気に生きよう~

早朝、再生ボタンを押す。

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おごらず、人と比べず、

面白がって、平気に生きればいい
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2018年9月30日
樹木希林さんの告別式で、
娘 内田也哉子さんが読み上げた、
樹木希林さんの言葉。


実は、きのう夕食を食べ損ねた。
本来ならやらなくてもよいことを、
自分の使命感に燃え、
毎日歩いて来た道がある。

その道に、
きのうはコンビニがなかったんだろう。
歩き終えたのは日付が変わる頃。

それに、
そもそも食事をする気力がなかった。

数時間の睡眠をしながら、
ふと目を開き、再生ボタンを押した。

樹木希林さんは、
最期の時まで、
9月1日の子供たちを心配していた。

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「死なないでね 命がもったいないから
お願いだから」
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死期が迫る9月1日の病室で、
樹木希林さんがつぶやいていた言葉。


このお話は、
子供に限らないと思う。

僕は、『ランチの女王』が好きだった。
主役の女性、麦田なつみさんが、
1人でレストランに入り、
注文したランチを一口、食べる。

ここでいつも彼女は、
満面の笑顔で、美味しさや幸せ、
そして、喜びを表現した。

あれを見たら、
1人でレストランで食事できないとは言えない。
というか、
1人でレストランで食事がしたくなった。

どこへ行くのも1人の僕は、
彼女の笑顔を、
いつもものまねしてしまう
幸せを求めていた。

例えば、
ランチを1人で食べて、
めちゃくちゃ美味しかったとき、
あの笑顔になる。
1人で平坦な道を歩いて、
こけた時も、そのこけっぷりと
人の視線に気づき、
「見られた!」恥ずかしさで、
あの笑顔になる。

1人で笑っている姿は、
遠目で見たら滑稽に映るだろう。
それも承知で、
1人で笑える勇気と幸せを彼女は残してくれた。


ある日のことだった。

「目に障るんだよ!」

と、駅のホームで立派な高級スーツの男性に、
突き落とされた。
よろけて転ぶ僕を見て、
その男性が笑って人混みに消え、
来た電車に乗り逃げた。

僕は幸いケガはかすり傷。
絆創膏ですぐに治った。

だが、今日使う仕事の資料や、
お袋からもらった、
今となれば形見の手鏡が割れてしまった。

哀しみに暮れる暇もなく、
駅員の「大丈夫ですか?」の問い掛けに、
「大丈夫です!」と答え、電車に乗った。

職場に着くと、同僚が、

「おい!大変なことが起きたぞ!
ほら、テレビ見てみろよ!」

(ニュースキャスター)
「きのう、◯◯市で、
子供がマンションから転落。
屋上と自宅の机には、
遺書とノートが遺されていました。」

容態については、この時話していないが、
後に、両親が遺影を持ち、
訴訟会見を開いていた。

彼が残した、
いじめの詳細な証拠と、
同級生の複数の証言から、
事実確認が行われ、
学校の謝罪会見が開かれた。


彼は何度も先生たちに、
「SOS」を出していたが、
聞いてもらえず、
転落する前日、
「めざわり、消えろ」
の言葉に、
何かの糸が切れてしまったようだ。


僕も彼と同じだった。
僕はマンションじゃなくて、
ホームだった。

小学生では親友だった仲間たちが、
中学に上がると、
僕をからかいだした。
それは親友から始まったんじゃなく、
他校から来たボスのようなヤツに
自分が標的にならないように、
忖度して付き合っていた。

親友も本当は可哀想だったのだ。

あの日のホーム、
たまたま僕を見つけた忖度中の親友は、
小学生の時のように、
僕に話しかけてきた。

「あのさー、ここで何してるの?」

「別に。」

「あのさー、今日ヤツが話したこと・・・」

「何だよ。」

「だから、めざわり、消えろ」

「・・・」

「あれ冗談だからさー」

「・・・」

「まともに受けとるなよ。」

「・・・」

そう話し終わると、
目的の電車に乗って去って行った。

僕は、ホームから人が少なくなるのを待った。
あと10分で来るこの路線最速の特急が、
僕の目的の電車だった。

やっと入線を知らせるアナウンス。

僕が走り出るコースを
ホームに目視で描いた。

特急が来た瞬間、

「やめろよ!」

そう話す声と肩に手を置かれ、
振り返ると親友がいた。

僕らの様子がおかしかったことと、
ホーム際にいた2人の中学生を保護するため、
駅員数名が集まってきた。

あとから、
警察、学校、両親まで駆けつけた。

僕はそのまま自宅学習となり、
新2年生となる4月の始業式、
久しぶりに両親と一緒に登校した。

僕の新しいクラスは、
2年C組。

教室に入ると、
忖度していた親友たちがいた。

教室から出ようとする僕を両親は止め、

(母親)
「今度は大丈夫よ!」

(父親)
「あぁ、大丈夫!(笑)」

僕はその言葉の意味もわからず、
両親の支えで自分の座席に座った。

始業式の予定が終わると、
担任の先生が、僕に話してくれた。

「あの他校から来たボスは、
ご両親の仕事のために昨年転校したのよ!
それから、いじめについても、
学校側は認めて、君のご両親には、
ボスと他の子達もみんな謝罪してるの。」

先生の話しは半信半疑だったが、
両親のホッとした笑顔を見て、
信じてみる気になった。

翌日、
恐怖の中、1人で登校。

クラスメイトと朝のあいさつ。

「おはよう!」

「おはよう!」

親友たちは、
名探偵コナンの少年探偵団のように
変なポーズを決めて、
僕を仲間に入れた。

〈みんなも苦しかったんだ!〉

そう心につぶやきながら、
久しぶり声を上げて笑いあえた。


(※制作日 2021.8.13(金))
※一部を除き、
この物語は、フィクションです。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲は
ASKA
『はるかな国から』
作詞作曲 ASKA
編曲 澤近泰輔
☆収録アルバム
ASKA
『NEVER END』
(1995.2.27発売)

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