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【超ショートショート】(46)☆Kicks Tour 1998☆~幻のbar〈Kicks〉~

京都の木屋町通り、
細い高瀬川沿いを北へ上ると、
一緒に歩いていた同僚が、
突然ある脇道の辺りで、
姿を消した。

翌日、会社で、
きのうの出来事を話すと、
「先に居なくなったのはそっちですよ!」
しばらく同僚は、僕を探して歩いていたら、
ある洋館のbarに入ったという。

(僕)
「そのbarの名前は何とあった?」

(同僚)
「えぇ~と、〈Kicks〉?
そう!〈Kicks〉です!」

僕が東京から転勤してきた頃、
上司に〈Kicks〉のbarの話を聞かされた。

(上司)
「木屋町にある〈Kicks〉ってbarに入れた男は、
やっと一人前の男としては認められるくらい、
あのbarを見つけるのが大変なんだぞ!」

上司は、
何度もそのbarに行ったことがあると自慢。

他にも、
同僚や取引先の男性はみんな、
そのbarに行ったことがあると自慢する。

僕は悔しくなり、
何度も仕事終わりに木屋町へ。
だが、そのbarを見つけることができない。
交番でも近所のお店にも道を尋ねてみたが、
一応に誰も知らないと話す。

いつの間にか、仕事の忙しさに追われて、
bar探しは一時中断。


季節は進み、気づけばクリスマスの頃。
5年の付き合いとなる彼女がいる。
彼女は東京で、仕事をしている。

(彼女)
「クリスマス頃に、京都に行ってもいい?」

12月23日の祝日、
彼女が手土産をたくさん持ってやって来た。

(僕)
「荷物、多いね?何日泊まるの?」

(彼女)
「うん・・・・・」

僕の自宅に荷物を置いて、
京都観光したいという彼女と一緒に、
清水寺から八坂神社、四条河原町まで、
歩いてみた。

とても彼女ははしゃいでいて、
僕は嬉しかった。

翌日、
彼女が部屋に居ない。
メールをしてみると、
~~~~~
ごめんね。
今日、東京に帰ります。
私、東京に、
好きな人が出来たの。
今、その人と付き合っていて、
来年結婚するの。
お腹に赤ちゃんもいるのよ。

京都に持ってきた荷物は、
私の部屋に置いてあったあなたの荷物よ。
持って来れなかったものは、
また後で送ります。

本当にごめんなさい。
あなたもいい人見つけてね。
~~~~~

彼女が持ってきた荷物の袋を見つめながら、
椅子の角で、足の小指をぶつける。
ハラハラと、一枚の紙がぶつけた足に落ちる。

~~~~~
先に帰ります。
コンビニで買ってきた朝ごはん、
ちゃんと食べてね。

何だか痩せてしまっているけど、
仕事忙しいの?
あまり無理しないでください。

また連絡します。
~~~~~

メールの彼女と置き手紙の彼女と、
どっちが本当の彼女なのか?

(僕の心の声)
「クリスマスに別れるなんて、
ドラマだけだと思ったが、
これが現実なんだな。
僕の何がいけなかったのか?
誰か教えてくれ!(涙)」


翌年、
仕事始め早々に、トラブル。
僕が責任者じゃないのに、
社外の人間に責任を擦り付けられ、
減俸3ヶ月。


他にも、
小さな良くない事が毎日のようにあった頃、
取引先から直帰する時、
偶然、あの木屋町を通った。

夜の暗がり、冬の寒さと、
食べ物屋さんからの温かい蒸気が、
通りを靄(もや)っとさせている。

僕が、
あの時同僚が消えた脇道の前に来ると、
ゴルゴ13のような風貌の大柄な男が、
真っ黒いサングラスをして、
不適な笑みを浮かべ、僕を呼び止める。

(ゴルゴ13のような大柄な男)
「あの~お客さん。」

男が脇道へ僕を案内する。

「この先は、お一人で。」

一瞬視界が奪われ、何も見えなくなった。
眩しさがあるとおそれるように、
少しずつ瞳を開けて見る。

靄が晴れていく中に、
古びた洋館がオレンジの灯りに照らされ現れる。

(僕)
「〈Kicks〉って書いてあるぞ!」

店の中をのぞくと、
数人の男の客とカウンターにマスターがいる。

マスターが窓の外の僕に気づいて、
店に入るように手招き。

(マスター)
「いらっしゃい。お客さん初めてだね。」

(僕)
「はい。」

(マスター)
「ご注文は?」

とりあえず、水割りと頼んで、
店の中を隅々まで観察。

(マスター)
「何か?気になることでも?」

(僕)
「あっ!いいえ。
このような本格的なbarに来るのが、
一人では初めてなので、
どんなふうに過ごせばいいのか、
他のお客さんを観察してしまいました。(冷汗)」

(マスター)
「いつも通りでいいんですよ!
そんな緊張しても、酒が可哀想ですよ(笑)」

マスターの姿に、声も、
まるで、ルパン三世の次元大介にそっくりだった。

(マスター)
「お客さん、今、俺を次元大介だと思ったでしょう?
よく間違えられるんですがね、俺は本物の人間。
次元大介は2次元のアニメの作り物の人間。(笑)」

(僕)
「はぁ。(困)
あの、今僕の心の声を読んだんですか?」

(マスター)
「まぁね!(笑)」

マスターは、それ以上詳しい話はしなかった。
マスターは霊能者なのか超能力者なのか。

僕が、このbarの噂を聞いて探していたことや、
なぜ今日barに来れたのか?
そんな質問を、水割り3口の酔いに任せて、
マスターに尋ねてみた。

(マスター)
「男は、時々、世捨て人のように、
仕事に没頭しなきゃ行けないときがある。
でもそんな時に限って、たくさんのもとを無くすんだよ。
お前さんも、最近トラブル続きだろう?
だから、このbarに来れたんだよ!」

(僕)
「なぜ、トラブル続きだと、
ここに来れるんですか?」

(マスター)
「男には、
男にしかない本能ってヤツがあるだろう?
どうしようもなく
乱暴な気持ちになるときがあるだろう?
だが、
世の中で男の乱暴な本能が押さえきれなくなると、
お前さんの人生そのものがなくなっちまう。
女にも嫌われるけどな(笑)。」

(僕)
「僕には乱暴な所はありませんよ。
よく母に殴られていましたから(笑)」

(マスター)
「それが男の本能だよ。
男は乱暴な本能を隠すために、
子供の頃から、女からからかわれて育つんだ。
自分が女より力があるのを知っているから、
まず女の正体を一見すると被害者のような立場で、
見抜いて行くんだよ。」

(僕)
「女の正体?」

(マスター)
「お前さん、
まだそんな事もわからないのかい?
女の正体とは、ヒステリックってことだ。
最近彼女と別れたばかりだろう?」

(僕)
「はい。」

(マスター)
「あれもヒステリックが原因だ。
女は、いつも寂しがり屋で、
いちいち「私の事好き?」って確認しなきゃ、
急に冷たくなって怒ってくる。(苦笑)」

(僕)
「マスターの経験談?」

(マスター)
「あぁ、そうだよ!
前のカミさんがそうだったんだ!
毎日好きって言えって、キスしろ、
バグしろ、週に・・・ってよ。
俺だって仕事してるのに、
そんなに毎日、
夜元気な男がいるかよってさ。(苦笑)」

(僕)
「マスターって見かけより、
虚弱体質なんですか?(笑)」

(マスター)
「あっちはな!(笑)。
俺、日本男児だから、
基本、いざといときにしか・・・・・(恥)
お前さんも変な事聞くんだな!
お前さんも俺と同じなクセにな。(笑)」

(僕)
「何が?」

(マスター)
「わからないか?彼女はそれを待っていたんだよ。
何度も電話があったのに、
会いたいって言われていたのに、
お前さんは仕事で会えない、忙しいって、
逃げてしまっていた。
だから他の男に寝とられるんだよ!」


マスターと僕は、
最近のトラブルの反省点を確認するように、
冗談混じりに、でも真剣に、
男として話し合った。

(マスター)
「これでトラブルの解決策が見えたな!
じゃあ、このウォッカを一気に飲み干せ!」

(僕)
「僕、強いお酒は飲めません。
明日も仕事がありますし。」

(マスター)
「いいから飲んでみろ!
明日の仕事にも支障はでないよ。
それウォッカだけど、酔わないウォッカだから。
いいから、早く飲め!
もう少しで閉店なんだからさ。」

マスターの少し怒った表情にビビり、
ウォッカを一気に飲み干した。
身体を熱い炎がお腹へと走っていく。
急にゲップをしたくなり、
「ゲッホッ」とした瞬間、
僕は毎日のように電話してくる彼女と、
会話中の、別れる5ヶ月前に戻っていた。

僕は、
マスターとの話の反省点を試すように、
どんな忙しくても、
彼女のわがままな要望でも、
もちろん夜の元気も、一生懸命に元気な振りをして、
とにかく彼女のヒステリックを押さえることに、
毎日成功する。

そして、
問題のクリスマス。
彼女はたくさんの荷物を持って京都駅に到着。
自宅に荷物を置いて、京都観光へ。

前は、夜、話して寝てしまったが、
元気を出して誘ってみた。

翌日、
疲れ果てて起きる僕、
彼女は・・・・・シャワー中。

嬉しくなって、瞬きした次の瞬間、
仕事のトラブルの頃に場面転換。

上司を交えて、
今回のトラブルの責任者は誰かと、
犯人探し会議が始まる。

前は、社外の人間が、
開口一番に「僕が責任者」と名指し。
同僚たちは、彼に逆らうことができずに、
助けてくれなかった。

今回は、
また社外の人間が同じ事を話したが、
なぜか、同僚たちが、証拠を揃えていて、
今回のトラブルの原因は社外の人間ですと主張。
なぜそんな事をしたのかを問い詰めると、
僕の存在が面白くないからという理由だった。
昔、コンペがあり、その時に、僕に負けたことを、
恨んでいたらしいのだ。
同僚たちは、連日、社外の人間の彼から、
接待やらお土産やらもらって、
買収されかけていたと、
上司に相談して、ある種スパイのように、
証拠を集めに努めてくれていた。

僕は、同僚たちにお礼を言おうとした瞬間、
マスターが目の前に登場。

(マスター)
「やっとお帰りか?
いつもより長い旅だったな、お前さん。」

(僕)
「旅?」

(マスター)
「そうだ!旅だ。現実の世界じゃない。
だから、家に帰っても彼女はいないし、
仕事のトラブルもそのまんまだ!」

(僕)
「じゅあ今のは何ですか?」

(マスター)
「今のかい?そうだな~
お前さんの飲んだウォッカにでも聞いてくれ!(笑)」


詳しい話しは教えてくれなかった。
朝が近づく午後3時、
マスターが閉店と、店から僕を追い出した。


それから、1ヶ月後、
あの〈Kicks〉のbarのある木屋町に、
仕事で来た。

カフェで待ち合わせの取引先の人が、
2時間遅れると連絡があり、
暇つぶしに、あのbarを探してみることにした。
木屋町の脇道を入ると、
とても古びた洋館があった。
看板はどこにもなかった。

近くの小料理屋の女将さんに、
〈Kicks〉のbarについて訊いてみた。

(女将さん)
「あっ!あの古びた洋館ね。
もう30年程あのままよ!」

(僕)
「でも、1ヶ月前、あのbarで飲んでいます。」

(女将さん)
「変ね!もうbarはずっと前に閉店しているのよ。
ルパン三世の次元大介似のマスターでね。
私も1度だけ話したことがあるんだけど、
とても紳士的な人でハンサムだったのよ!
でも、とてもシャイでね!
瞳も合わせてくれなかったわ。(笑)」

(僕)
「マスターは結婚していたみたいなんですが」

(女将さん)
「えぇ。そうよ。でもね、
奥さんが出産のために田舎に帰って、
それから戻らなくなったって聞いてるわ。」

(僕)
「今、マスターは?」

(女将さん)
「奥さんが居なくなってから、
亡くなったって聞いてるわ。
でも、店で倒れたって119番されたのに、
マスターの身体が見つかっていないのよ!
だから、今もどこかで生きてるかもね。
ウワサによると、マスターって、
どこかの国の秘密諜報部員って話よ!
まるで本当の次元大介みたいでしょう?(笑)」


(制作日 2021.7.19(月))
※この物語は、フィクションです。

今日は、
1998年の今日、7月19日に、
横浜アリーナで最終日を迎えた
ASKAコンサートツアー『Kicks』。

このツアータイトル『Kicks』と、
アルバム「Kicks」の男らしい雰囲気を参考に、
男の人の世界を書いてみたつもりです。

男の人にも、
女の人には理解できない大変な事って、
本当はたくさんあるですよね?

女の人って、
男の人の優しさだと思って、
平気で男の人を傷つける事を
言っているのではないかって、
子供の頃から考えるようになりました。

私が謝ることではないですが、
なんかいつも男の人を困らせて、
ごめんなさい。
悪気はないんだと思います。
ただ寂しいだけだと思う。
お話に出てくる別れた彼女のように。
でも、
男の人も寂しい時ってありますよね?
そんな時は、男同士で飲むのが、話すのが、
一番リラックスできるのかな?

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にしたコンサートツアーは
『ASKA CONCERT TOUR 1998 Kicks』
参考にしたアルバムは、
ASKA
『Kicks』
(1998.3.25発売)

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