ヒモロギ

「死せる魂の会」CEO。妖怪とかが好きです。

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マガジン

  • 怪力乱神事典

    妖怪・UMA・宇宙人等の情報を主観的にせつめいする事典です。

  • 雑訳・今昔物語集

    『今昔物語集』をきわめて雑に訳出します。

最近の記事

巻二十三第廿四 相撲人大井光遠の妹、強力の語

 甲斐国に大井光遠という相撲取りがいました。短躯ながら立派な体格をしたダイナマイト・キッドみたいなパワーファイターで、それでいて「すばやさ」と「きようさ」のパラメータも高いという理想的なステータスの持ち主でした。しかも彼には美しい容姿の妹までいて(二十代後半だけど)、ラノベ系万能キャラ的な側面も持ちあわせていたのです。やれやれだぜ。  光遠の妹は離れの屋敷に住んでいたのだけれど、ある時、逃走中の犯罪者がその妹ハウスに逃げ込んで妹に刀をつきつけ人質に取りたてこもるという、鄙に

    • 巻第二十 第十一 竜王、天狗の為に取られたる語

       ワンス・アポン・ア・タイム・イン・讃岐国。そこにはかつて空海先生が造営した万能池というやたらでっかい池があり、池というよりもはや海レベルのでかさでした。池には大小の魚が多く棲み、そしてまた驚くべきことに、キング・オブ・モンスターズとして名高き竜の棲家ともなっていたのです。  ある時、池の竜が「めっちゃホリディなので、日光浴でもしようかな」みたいなノリで人気のない堤のほとりに絶賛大上陸し、そして小さな蛇の姿に化けてとぐろを巻きうたた寝をしていました。ちょうどその時、近江国比

      • 沼御前

         福島県の沼沢沼に巣食う大蛇の妖怪。昼は美しい女の姿だが、夜になると大蛇の正体をあらわすのだと言う。  世はまさに大鎌倉時代。当時の会津を仕切っていたのは佐原義連という豪胆な武将でした。彼は神奈川の族あがりで、かつての全国抗争(源平合戦)では源氏の特攻隊長を務めた伝説の男です。どんくらいのレベルの伝説かというと、一ノ谷の合戦の「鵯越の逆落し」では、べつに頼まれてもいないのに急勾配の断崖を先頭切って敵陣へ特攻(ぶっこ)んでいき、敵軍どころか源氏方大将の義経をも驚かせ、義経の顔

        • 一目坊

           最上山中に根城をかまえる単眼の妖怪。  みんな大好き『老媼茶話』にはこんな話が載っているよ。  辻源四郎という侍が病を得て塔の沢の温泉で湯治をしていた時のこと。お風呂で博学な老僧と仲良くなり、諸国の珍しい話など聞きながら楽しく過ごしておりました。その老僧が寺に帰る前夜、源四郎にこんなことを言いました。 「寺は宿の近くにございますので、よければ遊びにいらしてくだされ。目の前の谷川沿いに登りつめ、杉林を数キロも歩けば『一目寺』というファンクな名前の寺がございます。そこに拙僧ら

        巻二十三第廿四 相撲人大井光遠の妹、強力の語

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          21本
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          2本

        記事

          舌長姥

           敵1体を身ぶるいさせて1ターン行動不能にし、さらに守備力を激減させる「ひゃくれつなめ」を使う長い舌の妖怪。こいつに舐められた男は肉という肉をねぶられ、最終的には骨だけになってしまうという。ハードコアだね! ひゅー! 『老媼茶話』にはこんな話が載っているよ。  二人の旅人が諏訪千本の松原付近の街道から大きく道を外れ、道に迷ってしまいました。きっと彼らはガーディアンメダルねらいのingressエージェントで、人里離れたポータルを探しているうちに山奥に分け入ってしまったのでしょ

          塩の長司

           加賀の小塩の浦というところに谷口ジローが作画したような風体の長者が住んでいて、「塩の長司」と呼ばれておりました。  この長司先生、昔の日本人には珍しく肉食を愛する孤独のグルメで、死んだ馬の肉から自家製塩漬け・自家製味噌漬けを作っては食べていたそうです。  しかしある晩の夕餉。膳には大好物の馬肉が並んでいませんでした。  もぐもぐ。  早く馬肉こないかなあ。  白めしといった馬の肉だろうが。  みたいなことを独りごちながら孤独に白めしを食べていたのだけれども、いつまでたって

          塩の長司

          座敷わらし

           青森、岩手、秋田などに伝わる子どもの姿の妖怪で、棲みついた家をスピードワゴン級に速攻大繁栄させるという業界随一のお役立ちスキルを有しています。その代わり、座敷わらしが去った家は急転直下の没落コースをたどるのだとも言います。  座敷わらしに会える宿として、金田一温泉郷の旅館「緑風荘」がつとに有名ですね。原敬や本田宗一郎、松下幸之助などといった錚々たるレジェンドの運気を大いに向上させたということで旅館は有名になり、経営者はさぞホクホクだろうと思っていたら、2009年に座敷わら

          座敷わらし

          再開のおしらせ

           もうすっかり妖怪について極めたような気がしてしばらく妖怪事典の更新を放置し、余裕の面持ちで『妖怪ウォッチ2』などに興じていたのですが、これがなんでかラスボスに勝てない。うおー、僕ともあろうものが、こんなジャリンコ向けの妖怪ゲーをクリアできないのはなぜだ! なぜなんだ!  ……あっ、もしや俺は慢心していたのではないだろうか。つまり俺は、妖怪のことをすべて知った気になっていたが、それは大きな心得違いというもので、本当は妖怪のことをまだまだぜんぜん知らなかったんだ! だから妖怪

          再開のおしらせ

          火車

           仏教でいうところの「火車」というのは轟火をまとった荷車で、これに乗せられて罪人は地獄へと運ばれていくんだそうです。いっぽう妖怪の「火車」といえば獣のような風体の妖怪で、一般には化猫がその正体と言われています。  さて、悪行妖怪「火車」は一体いかなる悪事をはたらくものか、みなさんはご存知であろうか。君はわりと陰気で幸うすそうな顔をしているから、よそ様の葬式に参列する機会もそこそこ多かろうと思います。そんな君がいつものように誰かの葬式に参列したとするでしょ。君はおろし立ての

          溝出(みぞいだし)

           ある貧乏人が亡くなった時のこと。残された身内もとうぜん貧乏人なわけで、葬式をあげる金もないという貧困スパイラル。貧すれば鈍すとはよく言ったもので、せめて簡素な墓でも建ててやればよいものを、貧乏遺族どもは故人の死体をつづらにつめこんで無課金のフリースペース(道ばた)に投棄してしまいます。今も昔も、えてして貧乏人は無課金が無課金たるゆえを考えようとしない。いやはや、じつに浅はかなものです。  後日。打ち捨てられたつづらが突如ガタガタと鳴動したかと思うと、とつぜん白骨がつづらを

          溝出(みぞいだし)

          寒戸の婆

           柳田国男先生の名著『遠野物語』に収録されている話。  ある時、松崎村の寒戸という土地に住む女の子が梨の木の下に草履を脱ぎ捨てたまま行方をくらましてしまいました。近隣住民は鉦鼓を叩いて大騒ぎ。隣家の婆なんかもメイちゃーん、なんつったりして必死で探し回ったもののとうとう見つからず、あの子は神隠しに遭ったに相違ないわい、ということになったのでした。  そして三十年後。原書には「親戚知音の人々その家に集りてありしところへ……」とあるので、きっとみんなでホームパーティーでもしてい

          寒戸の婆

          肉吸い

           熊野山中に現れる妖怪。  姿かたちはハイティーンの女子。やたら美人なんだそうです。その美人が、人気のない夕間暮れの山中で「ホーホー」と笑いながら道ゆく男に近づいてくる。そんな女、どう考えても怪しいですよね。しかし男子はかわいい女子の前だと思考が停止する生物なので「ウェーイ、チスチス、ウィーッス」などとカタコトで気さくに挨拶を交わしてしまうのですが、これがよくない。まじでよくない。  先方も更に調子に乗って「あっそーだー、あたし実はー、火ー貸してほしーんですけどー」な

          タラスク

           二千年前までフランスのローヌ河沿いの森に棲んでいた怪物で、上半身はヤマネコ、下半身は魚、カメの甲羅に六本の脚、ドラゴンの体を持ち、毒息を吐き、燃えるうんこを脱糞し、いつも静かに笑っている。そんな怪物です。とにかくわやくちゃな造形なんです。  ジェノヴァ大司教の著した殉教者列伝『黄金伝説』やWikipediaには次のような伝説が伝わっておるよ。  ネルリュク(黒い森)付近に現れる怪物タラスクはそのヤンチャぶりがつとに有名で、子どもを食い殺す、女はおかす、毒息を吐く、燃える

          タラスク

          コサメ小女郎

           和歌山県日高郡龍神村のオエガウラ淵に棲んでいた妖怪。その正体は年経たビワマスだかヤマメだかだそうで、こいつがまた悪いやつなんだ。何をするかというと、淵の近くを非モテ男子が通りかかると美少女に化けて水の中へと誘惑する。非モテ男子は女子の誘惑に耐性がないもんだから「えっ? どこ? あそこの淵? あそこの淵に落としちゃったの? スク水を? え、拾ったらお礼に? 着替えてくれんの? この場で? えっ? いくらで? えっ? ただで? えっ? えっ?」みたいなかんじで、うかうかと騙され

          コサメ小女郎

          鰻男

           岩手に伝わる妖怪伝説。  雫石村にやたら可愛い女子がおりまして。その女子のもとに、いつの頃からか若い男が忍んで会いに来るようになりました。娘が男の氏素性を尋ねても男は一切返事をしなかったのだけど、彼女にとってはそれがむしろミステリアスな男の魅力として好意的に解釈され、娘はますます男に惹かれてゆきます。そしてある晩、燃え上がるような二人の恋は、ついに彼らを肉欲という名の惑溺の淵へと深く沈めるに至ったのでありました。  夜更けに娘の親父が寝る前におしっこをしようと外に出たとこ

          長壁姫(おさかべひめ)

           姫路城の天守閣に棲みつく妖怪。お城の一隅を占有する家賃代わりに、年に一度城主と面会して城の運命を教えていたそうです。  その正体は妖狐の類と言われていて、猪苗代城の妖怪姫「亀姫」は長壁姫の妹であるという設定もあります。全国の各お城にきゃわいい妖怪姫が住んでいるなんて、最近の萌え系ソシャゲとかにありそうな設定ですよね。人類はまるで進歩していない。  むかしお城のみんなで「妖怪のいる最上階までおしっこ漏らさずに行けるか」という趣意の肝試しをすることになり、齢十八歳の森田図書が

          長壁姫(おさかべひめ)