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心の中の瀬戸内海

私がこれまで旅をした中で、1番好きになった場所は瀬戸内海の島々だった。

きっかけは18歳の春。ちょうど高校卒業の年に、瀬戸内で4年に一度開催される「瀬戸内国際芸術祭」が開催されていた。高校で仲良くしていた友人と2人での卒業旅行の行き先として、直島・豊島・女木島をフェリーで回ることを決め、気候の良い5月初旬にバスで香川県へ向かった。この旅をしてからというもの、私の心の中に瀬戸内の海と島が今でも存在しているような気分がする。そのくらい、たった一回の瀬戸内海の旅が私の中に残したものは大きかった。


1日目は、高松から直島へ。フェリーから海を覗いてみると、波模様が綺麗だった。瀬戸内海の海は穏やかで、青がとても鮮やかに出ることを知った。

直島に近づくと、有名な草間彌生の赤かぼちゃが見えてきた。高松を拠点に三つの島を回った中で、特にシンパシーを感じたのがこの直島だった。

直島は周囲16kmの小さな島ながら、ベネッセミュージアムや李禹煥美術館など、さまざまなスポットが点在している。島を回る中で特に印象深かったのが、「地中美術館」。ここには安藤忠雄が地中に設計した建築の中に、現代アーティストの二人の作品、そしてクロード・モネの作品が恒久展示されている。

柔らかい光に照らされる入口を進むと、トクサが一面に生える空間があった。安藤忠雄の建築でいつも驚かされるのが、コンクリート造のソリッドな空間と周囲の自然が、何の違和感もなく調和していること。コンクリートは言うまでもなく、自然と光の扱いが上手い。通路が長くつくられているため、ひとつひとつの作品の余韻に浸りながら館内を歩くことができる。

そしてこの美術館の主役は、なんといってもモネの「睡蓮」五作。大理石の白く小さなタイルで埋め尽くされた床、漆喰で真っ白に塗られた壁、天井から降り注ぐ自然光。純白の空間の中にモネの睡蓮が佇んでいる光景を見た時は、思わず息を呑んだ。


今まで何度かモネの睡蓮を見てきたけれど、睡蓮は本当に人を惹きつける魅力がある。遠くから見ればモネが睡蓮の池に見た色彩の深みを感じられ、近くに寄ればその深みは無数の色が重なり合ってできていることがわかる。見飽きることがない。

地中美術館の睡蓮は、日本にある睡蓮の中で最も規模が大きい。絵の前に立つと、その存在感に文字通り圧倒される。モネが捉えた自然光の絵画が自然光のみで照らされていて、見え方は時間や季節によって刻々と変化する。細部まで考え抜かれたモネ室の見せ方は、この上なく睡蓮の魅力を引き出していた。

他にもジェームズ・タレルの光そのものをアートにした展示や、ウォルター・デ・マリアの空間を大きく使った空間もとてもよかった。地中美術館に展示されている三人のアーティストの作品に共通しているのは、自然に任せるという姿勢。自然の神秘を感じさせられる作品群だった。

2日目は、豊島へ。
豊島美術館やカフェ、さまざまなインスタレーションやアートを巡り、棚田の下に海が広がる美しい風景を堪能した。建築や人工物さえ自然と呼応していて、「豊か」という言葉がぴったりの島だ。


瀬戸内国際芸術祭には自然を題材にした作品が多く、島を回っていると都会で生活しているだけでは感じることのない自然への親しみと敬意が自然に湧いてくる。島や作品を通して豊かな自然に向き合う中で、自分の存在を強く感じさせられるのだ。人が美しいと感じる感覚は、突き詰めていくと自然の摂理に従っているのではないかと思った。

3日目に訪れた女木島では、島の入口で自転車を借りて、春の生命力が溢れる島を海を見下ろしながら一周した。最高の旅の締めくくりだったな。


2年たった今もふとこの旅を思い出して、あの場所で今も存在する海や流れている時間について思いを馳せてみたりする。地中美術館で自然光に照らされるモネの睡蓮、豊島の海と自然とアスファルトのコントラスト、女木島で自転車を漕ぎながら感じた海風…思い出すだけでじわじわと心が温かくなる。

この世界はとても広いのだから、何も生まれた土地が自分に馴染むとは限らない。むしろ心のふるさとが増えていくことで人生は豊かになるのではないかな。旅の本質は旅をしたあとに残るものにあるのだという気がした。

最後に瀬戸内海で感じた空気によく合う音楽を載せておきます。音楽は時に言葉より多くを語るものだから。ちなみ来年には「瀬戸内国際芸術祭気2025」が開催されます。皆様ぜひに。


余韻に浸りながら作ったリール動画↓


載せ切れなかった場所と写真↓

地中美術館(直島)
ヴァレーギャラリー(直島)
umie(高松)
リサイクルショップ複製遺跡(女木島)

女木島の海
直島の海
フェリーの中からの海
旅の後 私の部屋の一角


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