マガジンのカバー画像

#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

114
理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
運営しているクリエイター

#クズエモ

嘘を塗り重ねて

「いつ好きになったか覚えてない」 最初の嘘 本当はね、ちゃんと覚えてる。 そんなこと話したら笑われるかなって。こっちだけとっくに本気だなんて知ったら重たいんじゃないかなって。だから言わなかった。 友だちには戻れないし、恋人にはなれないし、セフレにすらしてもらえない。だから最後まで、愛想を尽かされるまで、ちゃんと都合よくいようって決めたの。 「あちぃ」って寝言を言いながらタオルケットを蹴るくせに、くっついてくる。「汗つくからやめてよ」って嫌がってみせたけど、

恋の証人。

これは本当に起こったことかもしれないし、そうじゃないかもしれません。 「俺、宏美とも寝てるよ」 男が口にしたのは、わたしの憧れの女性の名前だった。 ちょっとだけ虚をつかれて、眠気がとんだ。 深夜3時までだらだらと抱きあって、わたしたちはまだ裸でベッドに寝そべっていた。さっきまで繋いでいたその手が、あの優しい女性の体にも触れていたなんて。 バイト先のバーで、わたしが働き始めるよりもずぅっと昔に働いていた男とその女性、宏美さんは、いまでもそのバーにそれぞれ飲みにきていた。

ダンスを終わらせて

それなりに生きている。 入社して4年。給料も残業時間も人間関係も納得できない時はあるけど、我慢できないほどじゃない。体調が悪くてもミスをした次の日だって、ちゃんと仕事に行く。 人生をかけて成し遂げたいステキな夢や胸を張って誇れる好きなことはないけど、それでいい。 今の生活に無理なくとれる時間と今までにできた努力の量をかけ算して、人生の落とし所はこのへんかと考えられるくらいには、大人になった。 学生の頃から付き合っている彼氏がいる。将来のことを考えているとは言うけど、具

【小説】 終わりの電車の向こうがわ

オレンジ色の静かな光が、中身が半分になった梅酒のグラスについた水滴に反射する。 わざと腕時計の時刻に気づかないように、彼のブルーのネクタイと浮き上がった喉仏に視線をあわせた。 ふたりきりの個室の外、数十分前までは人の気配が絶えなかった居酒屋が、だんだんと静かになっていく。夜が更け、終電が近い。あたしは、まだ知らないフリをしている。 「だからさ、もっとやらなきゃって思うんだよね」 ビール4杯飲んで変わらない顔色の彼は、先程から熱っぽく、立ち上がったばかりのプロジェクトに

わたしがあなたのペットだった頃。

「君は年が離れているから、恋人って感じがしないね。セフレってほどドライでもないし。なんだろうね」 ストーブの灯りで橙色に染まったその人の肌に触れながら、すこしだけ考えて「それならペットでいいですよ」と答えた。 男は肩まである自分の髪を邪魔くさそうに束ねて、いいねそれと笑った。 恋人ではない男のベッドで寝るなんてはじめてだった。 意外と平気。わたし、なんにも傷ついてない。 ベッドで過ごした数十分は、過去の恋人たちとしてきたのと変わらない、ただのセックスだった。 窓の外は雪

自分が半分なくなった

大学進学で、東京でのひとり暮らしを始めた。 2年生になるころにはバイト先の子と付き合ったり、バイト先のお客さんと付き合ったり、初めて会った子と寝たり、連絡先を知らない子と寝たり、名前を知らない子と寝るくらい、わかりやすく東京に流されていた。 夏休みも後半になった9月、帰省すると嘘をついて恋人とは違う女の人と暮らした。 14歳から19歳まで付き合った、元カノ。 彼女は地元で進学して、遠距離になって、お互いもっとたくさんのことを経験した方がいいんじゃないかみたいな理由で、