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短編:練習03

わたしは全身を聳たせけしてかかとを床につけず歩いた。息を殺しどんな気配も先に見つけなくてはならない。扉のノブに手をかけると木で出来た枠がぎっと軋んだ。息を乱しはしなかったが胸の音が落ち着くまで少し待つ。意識して息を吐くとうすく開いた扉の隙間からつま先を差し入れ部屋に侵入した。動悸が激しい。音もなく限界まで膨らんでは萎む血管を耳の奥で感じた。あまり時間をかけてもいられない。遠くで車の走っていく音を聞いた。私は鼻だけで浅く息をしながら眠る母のそばに近づく。ふと母の肌のにおいがした。息をとめ枕の下へ人差し指と中指の二本を差し込み指先に鍵を挟む。そっと抜き出し震えごと握るような気持ちで手の中へおさめた。

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