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[小説]ギフト〜怒り〜

 帰り道、校門のところで豊中に会った。

「お前どうしたのそれ」

両手に500mlのペットボトルが大量に入ったビニール袋を持ち、汗だくで坂下のコンビニから戻って来たところのようだった。一瞬、豊中の表情が強張ったように見えた。

「あぁ、もうすぐ練習終わるから、みんなの分の飲み物買い出しに行ったんだ」

豊中は笑顔で、少し両手の荷物を持ち上げて言った。

「うげ、バスケ部全員分?しんどいなそれ」

片方の荷物を持とうと手を出すと、

「だーい丈夫だよ。もうすぐそこだし」

豊中はおれが手を出した方の荷物を後ろに引いた。おれは、そうか?と言って差し出した手を引っ込め、大変だな、と苦笑いして豊中と別れた。


 坂を途中まで降りたところで忘れ物に気がついた。練習着一式を丸々忘れて来たのだ。くっそめんどくせぇと思いながら、でも洗濯しなきゃいけないし、と重い足取りで学校に戻ることにした。道路沿いに桜の木が青々と生い茂っているのが幸いだ。直射日光じゃないだけありがたい。でも練習後の体でもう一度坂を上らなければいけないのは精神的にもキツかった。

 再び校門をくぐり、部室に向かっていく。思いの外早くミニゲームは終わっていたようで、部室の中からあいつらの声がする。また顔を見なきゃいけないのかとちょっとため息をつき、ドアノブを回した。おれが入って来たことなどお構いなしで話は続く。

「あいつまた今日飲み物買いに行かされてたみたいだぜ」

「また?」

まだ名前も覚えてない他クラスのやつが練習着を脱ぎながら話している。

「今度オレもお願いしようかな、買って来てって」

そう言いながら下品な笑い方をした。誰のことを話しているかわからなかったが、胸糞悪りぃと思った。おれは特に話題に混ざることもなく、部室内のベンチに置いたままにした練習着一式を取る。さっさと帰りたかった。

「あいつ片親だしな」

「あ〜母親?だけ?なんだっけ?」

「フーゾクで働いてるってウワサあるらしぜ!」

「なんか友達の兄貴がヨルマチで見たって!」

荷物を取って部室を出ようとするとあいつがおれに話しかけて来た。

「なぁ、お前豊中と仲いいんだろ?この話本当か聞いてない?」

考えもしなかった質問におれは一瞬で血の気が引いた。

 は?こいつらが話してるの豊中のことなのか?豊中、あの飲み物のあれ、パシられてたのか?ってか何だ片親だとかフーゾクだとか。何言ってんだこいつら。

「なぁ、なんか聞いてないのかよ」

あいつがおれの顔を覗き込んできた。完全に目が興味本位だった。ただ面白そうと思った話に花を咲かせていただけ。そこには善悪とかなんかなくて、あいつらにとって楽しいか楽しくないかしかなかった。

 驚きのあまり思考停止して何も答えないおれに、あいつは捨て台詞のように言った。

「あ、確かお前も片親だよな?」

どういう意味合いを持ってその質問をおれにしたのかはわからない。そう言われた瞬間、おれは体が震えるのと同時に心臓が強く早くなって、足下がフワフワするような感覚になった。自分でも意識していなかったが、おれはあいつを殴っていた。思いっきり。しかもそれで床に倒れ込んだあいつに馬乗りになってさらに殴った。周りが、特に祥太が慌てて止めに入ったが、おれの勢いは止まらなかった。祥太にあいつから無理やり引き剥がされ、最後に足であいつの膝上ぐらいを蹴って終わった。あいつは終始受け身で、両手で顔をガードするのに精一杯だった。本能的に丸めた体はあいつをより小さく見せた。

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