攻守どちらを

生まれ育った町には海があり
海を眺めるとどこか落ち着く
海のない土地に住んだときは
そこには美しい山々があった
でも海を眺めているときには
あの山々とは違う感傷に浸る

海には壁などないと見せつけられた
わたしは育った町を出たことがなく
どこまでも続いているであろう海を
見ていながらどこにも行けなかった
海はわたしを癒して慰めてくれた
海に出れば果てない世界が広がる
いとも簡単に行けるところにさえ
越えられない波打ち際ただ佇んだ

山々はいわば壁のようなものだった
わたしは初めてそれまでの町を離れ
そう簡単にはつながれないところで
ひとりで生きていくのだと決意して
山々はわたしを守ってくれていた
山を越えれば途端に開けてしまう
簡単につながれてしまう過去から
縛りつけてきたあらゆるものから

でもたぶん

海はどこまでもつながっているけれど
漕ぎ出していくには勇気と力が必要で
無知で無力だったわたしにそれだけの
大ごとは成し遂げられなかっただろう

山々自体がわたしが置いてきた過去に
わたしが愛したひとの思い出の場所で
つまりはどちらにしろわたしはずっと
過去に縛られていたということなのだ

もしもわたしがまたどこか遠くへ
ここでもあそこでもないどこかへ
旅立つことを決めるとき選ぶのは

守ってくれた山々か
漕ぎ出していく海か