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ユーラシア横断の旅⑥ 〜キルギスの仏教徒編①〜

ビシュケク郊外の山中で修行しているロシア人仏教徒が居るらしい。
興味ある?とアイシャンに聞かれて生返事をしていたらその夜には寺に放り出されていた。

その日はアイシャンの仕事に付き合わされ、国の施設やらなんやらを回って夕方になった。養蜂の家の息子(同い年)が居たから昨日の話の続きだろうな。
ロシア人のアレだけど明日じゃ駄目か、と念押ししていたのにも関わらず、夕方の家でパーティの残り物を食べているとすぐに向かうぞ!と背中を蹴られ、夜の7時に山へ向かう。
何故かカニシュも付いてきて、寺に興味があるのかなと思ったが、ただ付いてきただけだった。車中で小栗旬がどれだけかっこいいかを携帯に入っている写真と共に力説される。たまに山田孝之が出てきて、これは山田孝之。とテンションが下がってるのが面白かった。
ビシュケクを出て一時間ほど車を走らせると、もう都市の様相は消え、街灯も遠い田舎になる。どうやらアイシャンも詳しい場所を知らないようで、雪深い山道でクラクションを鳴らし続けて寺を探した。迷惑な。散々回っていると袈裟を着た坊さんが現れた。日本人顏である。"こんなところに日本人"でこの光景見たぞと思いながら「今晩は」と声をかけると日本人に非ず、カザフ人だった。カザフ人は日本人と本当によく似ている。トルコで出会ったカザフ人も日本人そっくりだった。
アイシャン達と別れ、そのカザフ人、名前はデニスと寺に向かった。デニスに寺について聞くと日蓮だと言う。NICHIREN?…あぁ日蓮宗か!とまず驚いた。小さな建物で、お寺には見えない。玄関をくぐると懐かしいお香の香り。


建物内には他の僧が何人か居て、出迎えてくれた。みんなを紹介してくれたのはウクライナ人のセルゲイ。15年キルギスに住んでいて、ここには奥さんと1歳の小さな息子がいる。セルゲイとデニスが仏壇まで案内してくれた。立派な仏壇だ。ここはキルギスだよな。流石に日本人なので手を合わせると、セルゲイとデニスは立ち上がって手を合わせ、しゃがんで頭を床につける拝礼をした。そうか日蓮だからか。


建物は三棟あり、仏壇と寝室がある棟がメイン棟、その隣にサウナ棟。その向こうに調理場と食事場がある棟がある。食事棟に行くとすでに大勢集まっていた。

今の面子はロシア人のアレクセイとヴィタリ、シベリア出身のウットゴル、カザフ人のデニス、ウクライナのセルゲイ、セルゲイの奥さんは中国人で、他にも中国人が2人。住職は?とセルゲイに聞くとピンと来ていない様子。住職は居ないらしい。セルゲイの奥さんにご飯とおかずを貰い、チャイももらう。知っている精進料理と違うが。
セルゲイに施設の案内をしてもらい、その日は仏壇の部屋でセルゲイの隣で眠った。

鈴の音で目が覚めた。朝の念仏の時間だ。

朝7時に法衣に着替え、一時間の念仏と、法華経を1ページ音読、座禅を数分行う。念仏は手持ちの太鼓と、大きな和太鼓でリズムを刻み、南無妙法蓮華経と唱え続ける。南無妙法蓮華経は日本語読みである。
というのもこのお寺、先生として来ているのが日本人僧侶らしく、そもそもここは日本山妙法寺そのものなのだ。
念仏が一通り終わって一時間ほど経つと朝ご飯。女性が食事担当で、ご飯が出来るとジブリアニメの様にカンカンと音がする。日本の修行僧の様に自分で作らない上、肉は使わないが普通の中華やキルギススープである。それに雑談しながら食べている。精進料理とは言えないな。とはいえその土地のものではあるし誰も残していない。食べる前には南無妙法蓮華経。最初はおやと感じたが、その後まぁこれもアリかなという気分になった。何も悟りを開くための修行寺ではないのだ。自分も有難く食べていることだし。

セルゲイは5日後に家族でネパールに行くそうだ。スピリチュアルな旅だと彼は言う。セルゲイはよく見るとタトゥーも彫っており写真的には撮りがいが有りそうだったが、2日目の朝、街に行ったきり帰っていない。そのままネパールへ行くのであろう。


街へ戻るセルゲイ一家と一緒にアレクセイも行くというので見送りついでに付いて行くことにした。彼の用事というのは仏教を勉強している女性に貸していた教本を回収するくらいで、基本的には街を行脚するのがメイン。日本でもたまに街中で鈴を鳴らしている僧を見るが、彼もそれだ。南無妙法蓮華を唱えながら街を歩く。市民に割と煽られてるのは仏教の知名度の所為なのか。今は辛い修行である。


一時間ほど歩くとへとへとだ。無意味に三脚も持って来たし。バス停に着いたら山までのバスに直ぐに乗り込んだ。本当にどこを目指すわけでもなかったみたいだ。結局アレクセイにバス代を奢ってもらった。
夕食は大体17時くらい。食事は朝夕の二回である。その後18時半に夕方の念仏がある。念仏の流れはいつも変わらない。アレクセイが気を使って英語版の法華経を渡してくれるが、英語だろうが増してロシア語だろうがイマイチ分からない。当方手塚治虫の知識しか持ち合わせが無い。

結局セルゲイは戻ってこなかったので今日は仏壇の部屋で一人で眠った。朝6時半に起きる割にみんな以外と遅くまで起きているので心配になるが、自分は11時には寝ることにしよう。

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