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ユーラシア横断の旅⑤ 〜ビシュケクの朝焼け編〜

雪の街を橙色の太陽が照らす。
一晩と少しで横断出来るとはキルギスタンは小さな国である。
バンに揺られていると、アイシャンの家に着いた。眠そうな顔で14歳の方の娘さんが出迎えてくれる。すでにアイシャンは娘達に自分の事を話していた様だが、彼女は恥ずかしそうにしていた。
アイシャンの家は郊外の大きなアパートの一室で、リビングと寝室、キッチンの2DKの部屋である。玄関は二重扉になっており、寒い地方特有のアパートだ。エレベーターも無いのに6階建の最上階で、大量の土産を運ぶ羽目になった。
2日ぶりのシャワーを浴びるとすぐに呼ばれ、タクシーを呼んであるから出かけると言われる。流石に休みたいのだが。
長女の方も起きてきて、寝ボケながら無言で握手をしてきた。もう10時近いぞ君。

すでに待っていたタクシーに乗り込んで何処に行くかと思ったらビシュケクの観光名所の写真を撮れと言われ、オペラハウス、マナス王(この地域の神話)の像、勝利広場、アニマルショーの会場なんかを回った。

その後ビシュケクの市場、オシュマーケットでアイシャンの買い物に付き合う。雪の残る市場は滑りそうで怖い。ウイグルのマーケットとも違う何処か静かで寂しげな市場だ。道の真ん中にアコーディオン奏者が居たりするところもまた、哀愁を感じる。

アイシャンの買い物は胡桃やドライフルーツなどの乾物だ。仕入先は中国なのだろう。見た目も味もウイグルのそれとほぼ変わらない。同じ物でも場所が違えば価格も違い、モノ自体も違うものに見える。不思議なものである。
市場の入り口ではバイトの若者がsimカードを売っていた。この国ではsimカードが安く、詳しくは見ていないが自分はsimロックのため使えない。惜しい事をしたものだ。アイシャンに安いから携帯と一緒に買えば?と言われるがカフェでも入ればWi-Fi使えるしな。

家に帰ると長女の方が復活していたので娘さん達とご飯を食べに行く。日本食がいいか、それとも韓国?と聞かれるのでどうせだからキルギス料理が食べたいと答えた。
車の中で長女が携帯で自分が弾いたヴァイオリンを聞かせてくれる。上手いものである。そういえば動画撮るんだっけ。
長女の方はカニシュ、下の子はチカだ。多分チカではないが聞き取れなかったのでチカと呼ぼう。カニシュは日本が好きらしく、「私の名前はカニシュです」と両手を広げ日本語で挨拶してくれた。うむ、丸顔で多少ぽっちゃりしているが美人だ。

キルギス料理は基本は肉だ。肉がメインで、あとはおまけと言っても良い。肉というのも殆どが羊である。ミンチ以外は骨付きで食べづらい。ただスープなどの味は何処かロシア的で、米料理は東アジアのような味。旧ソ連とノマド(遊牧民)とシルクロードの味が混ざっている。そしてチャイ(イスラーム)。


イスラームと言ってもここらはウズベク、イランの様に信仰深いわけでもなく、コーランが聞こえる事もない。街を歩くとモスクもあれば教会もある。何処でもビールが買えるし、ウォッカは祝い事に欠かせない。線香の香りも、コーランの音色も遠い。彼ら、基本は遊牧民なのだ。

そのレストランで食べた料理も味付けして焼いた羊肉と、フライドポテト。脂っこい…。カニシュがぽっちゃりしている理由が分かったぞ…。
キルギスのレストランでは注文を頼む前にナンが置かれる。このナン、不思議な事にパンに近い。後から考えてみるとウイグルのナンはもっと硬くて食べずらく、香辛料が振りかけてあったが、キルギスのナンはそのまま食べても柔らかくて美味しい。バターの香りがして、ゴマの風味もある。

昼食を食べ終え、カニシュ達と別れる。
次は何処へ行くかと思えば次は民家で、何か仕事の関係で来たようだ。といっても知り合いの様で、自分にもお茶を出された。日本人だと言うとよく来たよく来たという風で大抵歓迎される。チャイと自家製の蜂蜜、ジャムにクラッカー。この家は養蜂をしているそうだ。
ジャムやらを見ているとどこかロシアの感じもあって旧ソ連の関係かなと考える。

その家の小さな娘さんが日本が大好きだそうで目を輝かせて自分を見てくる。将来は日本に行きたいそうだ。そんな目で俺を見るな。
how are you?を日本語で何て言うの?と聞かれ、「お元気ですか」かなと答えると何度も復唱していた。かわいいものだ。

用事は済んだらしく、また別の民家へ。
そちらではパーティの用意があった。テーブルにはすでにお菓子やドライフルーツ、ピクルスやナン、バターなどが並んでいる。何のパーティかと聞くと月一でやっているパーティだそうだ。パーティのメンバーはアイシャンの親戚筋や友人。どうやら女性のためのパーティらしい。アイシャンは思いっきり上座に座っていた。今回は一月なのでニューイヤーパーティとのこと。


料理はその家のお嫁さんが用意してくれているようで、席に着くと中身の無い揚げパン、ボルソックが山盛り積まれる。これが美味い。そのまま食べても美味しいが、ジャムやバターを付けても美味い。バターは牛乳の味が残っていてそれまた美味い。
家の奥さんが今回のボスらしく、ひたすらチャイを勧めてくるので何杯も飲む。お茶を飲んでいると今度は羊のスープが出された。お菓子だけかと思いきや意外とがっつり食べるのね。さっき食べたばかりなのだが。というかアイシャン昼飯少なめだったのはこれを知ってたな。言えよ。


お次はお嫁さんが鍋ごと持ってきたボゾだ。ボゾってのはこのあたりで飲まれる発酵飲料で、その辺の店にもペットボトルで売っている。甘酒のような…うーん美味しくはないな。飲めなくはないが。エビオス錠を煮詰めたような味だ。アイシャンがしきりにナショナルドリンクと言っている。それはわかるけど。
今度は山盛りの蒸餃子である。もう腹パンパンだ。餃子の中身を見ると羊肉と人参などの野菜。ボゾの入ったグラスを持って一年の挨拶をした後乾杯し、ボゾを一口。グラスが減っていればどんどん注がれる。乾杯前の口上は一人一回必ずするらしく、結局5回は乾杯をした。ボゾは3杯飲んだ。
ありがたいことにアイシャンがそろそろ帰る感じを出したのでこれ幸いと帰る準備を始める。食べ切れなかった分は袋に入れて持ち帰るようで、持ち帰った蒸餃子は翌日カニシュが温めてくれたので家で食べた。
会費があるらしく一人3000ソム(6000円くらい)と高い。みかじめか?

タクシーをまた呼んで家に帰る。腹も辛い。出かけていたカニシュを途中で拾ってようやく帰宅である。
部屋に入って一休みするとカニシュになんか食べる?と聞かれるがもう入らないと返す。今日は疲れた。

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