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将棋との出会い


初めて将棋に触れたのは、小学校1年生か2年生の秋だったと思う。

もう20年も前なんだな。


どうも、ひらおです。

将棋のプロを志して奨励会に入り、

その後いろいろあって麻雀プロになった者です。

詳しくはこちら↓をどうぞ。

今回は将棋との出会いについて
書いていきたいと思う。


約20年前ーー。

俺は誕生日プレゼントとして、
親から将棋セットをもらった。

別に、それを欲しがったわけではない。

本当はマリオサンシャインが欲しかった。


今こんなにお安いのね。

しかしながら、当時の平尾家では
テレビゲームというものに相当なマイナスイメージを持たれており、

スマブラをやっていると親は相当嫌そうな顔をしていた。

お手伝いやら習い事で夜になってしまい、
それからゲームをしようとすると

「こんな遅い時間にゲームするなんて非常識」

と言われ、

仕方なく早起きしてゲームしたらめちゃくちゃ怒られた。

なんでや。

また、

「ゲームをやったら、その2倍の時間本を読みなさい」

というどう考えても無理な教育がなされていたり、

「外出先でゲームの話をするのは禁止」
「『死ぬ』などの汚い言葉禁止」
「お小遣いをどんなに貯めてもゲーム買うの禁止」

とかいう謎ルールが設定されていたりした。

「図書券あげるね」とか
「どの本がほしい?」

と聞かれることはあっても、

「好きなゲームは何?」

と聞かれることはついぞない幼少期だった。 


さて。

皆さんであれば、この状況で、

「誕生日プレゼントに何がほしい?」

と聞かれてなんと答えますか。



俺の答えは
「Nothing」
だった。
別に英語で言ってないけど。

小学校低学年ではあっても、
俺は結構心が敏感なタイプだった。

家の中で、欲しいものを伝えたり、
やってほしいことを言ったりすることは、
それなりにハードルが高いことだった。

「特に欲しいものないよ」

その答えの意味するところは、

「(快く許される中で)特に欲しいものないよ」

ということであったが、
存外その答えは親に響いたらしい。

「誕生日に何もなしじゃかわいそうだ」

ということで、
父が買ってきたのが将棋セットだった。

それが、将棋との出会い。

その後については、
プロを目指すくらいだから、

すぐに将棋の面白さに目覚め…という展開を思い浮かべる人が多いかもしれない。

でも、俺はそうじゃなかった。

将棋は、当時俺が知る中で最もつまらないゲームだった。

理由は単純で、勝てないからだ。


それまで俺は、親戚や家族間で行われていたあらゆるゲームで、
それなりに才能を発揮して勝ちまくっていた。

ダイヤモンドゲーム、オセロ、トランプの七並べ。

運で決まるように思われる人生ゲームやババ抜きにだって戦略や最適解はある。

実力がつくと、今度はある程度勝敗をコントロールできるようになる。

だから基本は勝ちに行くのだけど、
時には妹や弟に勝たせ、俺が2位になるようにしたりしていた。

そうすることで、家庭内の空気も調節していた。
うまくいったら、それは俺の中で「勝ち」に分類していた。

勝つことが好きだった。

でも、将棋は勝てなかった。

駒の動かし方は父に教わったのだが、
どう動かしても俺の王様が取られてしまう。
父はそれなりに将棋の指せる人だった。

将棋を嗜む人はおわかりいただけるかと思うが、
将棋は格上からの「最初の1勝」が果てしなく遠いのだ。

一度だけ、父がべろんべろんに酔っているときに将棋を指すことがあり、

俺の王手に父が全く気付かずに、
そのまま王様を取り上げて勝ちになった。


これだ!!


最初に見つけた必勝法はまさかの盤外戦術だった。

以来、俺は時々グデグデ状態の父と勝負するようになったが、

基本勝てない上に、
酔った父と接するのは普通にストレスであるということに気付き、
ほどなくしてやめてしまった。

ちなみに、同じ頃(小2時点)
藤井聡太さんの年表を見てみると、

全国大会で準優勝している。
えらい違いである。

そのまま将棋とは無縁の生活を送っていた小3のある日。

俺は図書館で一冊の本を見つけた。

『将棋の必殺ワザ』という本である。


マリオサンシャインより高くて草

この本の内容を正直に言わせてもらうと、

将棋の基礎的なスキルが
とても大げさに書かれている本である。

「これで必勝!」
「最強はキミだ」!

とか、

「サヨナラホームラン」
「女の子にモテモテ」

とか、そんな感じである。

(全く読み直さず印象だけで書いているので、
実際の内容とは大いに異なります。
とても良い本でした。)

当然それだけで勝てるわけないのだが、

最強になったと無事勘違いした俺は
シラフの父に戦いを挑んだ。

儚く散った。

おかしい。詐欺じゃないか。
俺は最強のはずなのに。

でも、父はこう言った。
「なんか強くなったなぁ」

翌日、また戦いを挑んだ。

負けた。
しかしどんどん接戦になっていく。

そしてまた翌日。 

遂に俺は勝った。

運ではなく、譲られたのでもなく、
実力で勝ち取ったと思える勝利だった。

快感だった。
スマブラの勝利よりも、ちょっとだけ。


もちろん、この時点では、
どこにでもいる
「将棋を知ってる小学生」
に過ぎなかった。

そんな俺が奨励会を目指すようになるまでには、
またいろいろとエピソードがあるのだが、
それはまたいつか書きたいと思う。



最後に。

俺はプロ棋士にはなれなかったけれど、

将棋という単純で複雑なただひとつのゲームのおかげで、

随分と人生を豊かにしてもらっている。

たまに、将棋の話をすると、

「将棋ってぇー、頭が良くないとできないじゃないですかぁー。
私なんか全然でぇー」

などと言う人がいるが。

そんなことはない。
将棋は誰だってできる。

駒の動かし方をいきなり全部覚えなくてもいい。
王様の倒し方をひとつかふたつ覚えて、
ひたすら狙ってみると良い。

一度でも狙いが成功して勝てたら、
病みつきになること間違いなしである。

人生のお供に、ぜひ。

おしまい

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