手取り15万円ダンスの日記_2019/03/18

149833。数字の羅列を凝視する。銀行の口座を記帳したら15万くらいだったけど、一番振り込まれた額に近いのはこれだ。


人材の会社で働いていたくせに、自分の支給された金額がどれかも分からない。ただ、15万でないことだけを、見つめてさえいれば変わるんじゃないかと真剣に念じる。15万。何度も見ても15万円だった。


9:56。週5で10時から19時まで踊り狂っているダンスロアにぎりぎりで到着。
本屋さんだけどごはんもつくる。今月からビジネスとデザイン、絵本、社会の棚担当になって、任せてもらえることがどんどん増えていく。

たのしい。仕事の報酬は仕事。それは本当にありがたい。立ち仕事だから疲れるけれど、毎日くるくる踊りまくってしまう。

それなのに、手取り15万とは。気づかなかった。手取り15万であんなににかにか全力で踊っていたなんて。


わたしが踊っているダンスフロアでは、シフトBOOKとCAFEに分かれている。今日のお昼どきはいつもと変わらずCAFEのシフトになっていた。



12:20。いつも一方的に話しかけてしまう大学生の男の子にはちみつレモンの仕込みをお願いする。

レモンの切り方に苦戦する様子を横目に「最初うまく切れないとずっとうまくいかないんだよね、それ」「でもさ、人生がレモンじゃなくてよかったって思うんだよねえ」とフォローになってないコメントをした。

すると、「いや、でもレモンかもしれないですよ」と控えめな反論が返ってくる。

「そうかなあ。でもわたし、新卒で就活しないと就職できないと思ってたけど、結局卒業してしばらくしてから就職できたし、レモンじゃないなって気がするんだよね」

あまり自分の話をしたくないなと思いつつ、一番説得力のありそうな身の上のカードを切ったら、「それは違いますよ。ひらいさんは新卒でも新卒じゃなくても就職できるような人だったんですよ」と一蹴される。

そうかあ。何だか的を得ている気がして、そうかあ、としか返せなかった。


まあ、それにしても、前にどんな仕事していようと今手取り15万だもんな。何なら住民税は引かれてないから15万どころじゃない。

レモンをスライスする行為は意外と示唆に富んでいる。



15:08。最近は朝パンを買って半分食べて、残りをお昼に食べている。ひとくち何十円だろ、とぼんやり頭に小銭を浮かべながらもそもそと噛みしめる。

手取りが15万だからではなくて、メロンパンフェスの準備で純粋にごはんを食べる時間がないからだったけれど、そういえば落ち着いてからもあんまり食べていない。

先々週から体調に異変があることに目を瞑り続けていたら、本当におかしくなっていた。

病院に行こうかと思ったけど、手取り15万であることを思い出して諦める。体の調子が悪いのなんていつもだもんな。今のわたしに傷付く資格はない。


17:45。昨日の夜、おかあさんに電話したときの会話を思い出す。めちゃめちゃに呆れられた。

とりあえずお昼に40円のビスコ食べてるよ〜〜と陽気な声で大丈夫アピールすると、食費を削って何とかするなんて!とこれまためちゃめちゃに呆れられた。火に油を注ぐとはこのことだ。油をなみなみに注いでしまった。

本当にそう。食費削って何とかしようなんてだめだ。わたし、これでも食に関する仕事やっているわけだし。食べるのだいすきだし。

おかあさんが言うことは、いつも正しい。

絶対にショートが似合う、も。絶対にパステルカラーより濃い色の服が似合う、も。体冷えるから冷たいものばっかり食べちゃだめ、も。


とりあえず時給が上がるか聞いてみるね〜〜で話はひと段落した。


仕事、裁量が異常にでかくてアルバイトの身のわたしがすることではないのでは、と薄々感じていても、たのしいから時給を上げてほしいなんて一ミリも考えてなかった。

毎日今日もダンスだ〜〜としか。

でもやっぱり、手取り15万のダンスだと思うと結構まずい。


他のスタッフのひとが「時給上げてほしいな〜」と言っていた時ですら一秒たりとも興味がなかったのに、今日の朝開口一番に「店長、時給上がる可能性ありますか!」と聞いた。

思考回路が単細胞すぎる。自分自身の馬鹿みたいな素直さににやけた。


あまりにも切羽詰まった様子で話したおかげで、「そう!上げようと思ってたんだよ〜〜!9月にさ、」と返ってくる。9月。あと半年間も手取り15万ダンスは渋い。そんな渋いダンスを六本木で踊り続けられるだろうか。

会社員時代引っ越した家賃8万2千円の場所から引っ越すお金がないがために手取り15万ダンスを踊り続けながら家賃を払うしかないと泣きつくと、「ひらいさんがいなくなるのはお店の危機だ」と早急に対応してくれることになった。よかった。

こういうとき、いつも何となくで話が終わってしまうのだけど、前職のおかげでスケジュールを握る術を身につけたわたしは、お昼の休憩で改めて「さっきのご相談したことっていつごろ分かりますかね」と確認しておいた。早くて二週間後と教えてもらった。

割と先だった。ダンスダンス。


や〜〜、ダンス。それでもしちゃう。や、ダンスはしないといけないんだった。

かつてないくらい、仕事がたのしい。いつかはやめてしまうのだろうけど。メロンパンフェスが終わったら。100点の朝のヒントが見つかったら。節目はまだ、明確ではないにしても。


そんなことをぐるぐる考えていたら、ぱりんと目の前でグラスが滑り落ちる。


普段自身のものの落とし物グセがひどいのにも関わらず、まだこのお店のグラスは割ったことがなかった。それなのに、手取り15万のことを考えていたらまんまと絵に描いたような手の滑らせ方でしっかり割った。

割れたグラスは、元に戻ろうとしない。頑張れよ、と念じても届かない。世の中実はレモンだらけなのかもしれない。



19:17。帰り道、いそいそと帰るビジネスマンに追い抜かされながら、働いていてみんな偉いなあとしみじみ思う。

休職して傷病手当をもらっていたときですら、20万くらいだった。それなのに、健康体で働いて15万。

年収240万なんて見るとびっくりしない?絶対無理だよね、と話していた前々職の同期の言葉を思い出す。

あの時も、「でもこの会社に入る前までのわたしもそのくらいだったんだよなあ」と心の中で苦笑いしていた。


学生のときからずっと、常にお金はなかった。それでも絶対に、お金がないとは言わなかった。


今回ばかりは言わないと、と腹をくくった。メロンパンフェスの準備はちゃんと丁寧に妥協せずやりたいし、そういうときだからこそ誘われた誘いは断りたくない。それでも手取りは15万。


お酒飲みながら、とか。話聞きたいからお茶しよう、ランチしよう、とか。
断りたくない。手取り15万だとしても。だけど、手取り15万なのよね。と心の中でシュンとしてしまう。


わたしが断ったら、それは手取り15万だからだと許してほしい。行きたくないわけじゃない。今の時期断っている誘いの9割はお金だ。お金がないからと言うと気を遣わせてしまうと、今まで禁句にしていたのに。かっこわるいけど仕方ない。


おそらく希望的観測だけれど、手取り15万ダンスは4月くらいまでで、そのあとはもう少し軽快なダンスが踊れる見込みがあるので、それまでは。


したたかだけど、投げ銭してくださったら、そのお金でお昼40円のビスコではなくお昼にコンビニのメロンパン食べます。

投げ銭していただいた方には、将来ごはんに困ったらいつでもご馳走できるよう、早く財力をつけたい。つけます。いつもありがとうございます。


【追い投げ銭していただけるとお昼に食べられるメロンパン】
セブンのメロンパン:118円
本屋さんの近くにあるパン屋さんのメロンパン:237円


それにしても、こんなにお金がなくてしんどいはずなのに開き直っているわけでもなく楽しく過ごせてしまっているのって、もしかして #スプリングマジック なのかもしれない。



おわり















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