昼休憩に食べようと思って、二つに割って持ってきた。分厚い外皮は家で剥いて、白いワタとスジがほとんど残ったままラップでくるんだのだった。食堂で開いて、一房ずつ薄皮を剥いて食べる。甘くていい香りがして、口の中には少しだけ苦い水が広がった。

昼の食堂は混んでいた。その席を埋めるのはほとんどがこの百貨店に勤める販売員たちで、服もメイクも見た目には華やかだったが、食事ときたら人気なのは最低300円で食べられるうどんとそばのコーナーで、いつも行列ができていた。

向かいで定食を食べ終わった先輩が「下の休憩所に行こう」と誘ってきたので、わたしは食べかけの八朔を、剥いた皮のクズごともう一度ラップでくるんで先輩を追いかけた。スタスタと前のめりで階段を降りる先輩の左手の、細いブレスレットが揺れた。

地下二階の休憩所は空いていたが、分煙されておらずなんとなく白く濁っていた。長テーブルの向かい側に座った先輩は、バッグからタバコとライターを取り出して火をつけると、スーとゆっくり吸った。胸元のダサいブルーのリボンはわたしもお揃いだが、今日はいつもに増して冴えない感じがした。

「あんたのモチベーションが上がらないのはなんでだろうね。」

さっきクズごとラップにくるんできた八朔をバッグから取り出すのに目をウロウロさせながら、わたしはやっと返事をした。

「んー。いや別に。そうですか？」

返事を聞いた先輩はタバコをスーーーと吸うと唇を窄めて、吐いた煙が目の前の人間に当たらないように下に向けてフーと吐いた。白い煙が先輩のスカートに当たり左右に広がって落ちた。

「わたし、下の子への配慮が足りないって、営業から注意されたわ。」

スーっと吸ってまた下に向けて吐いて、タバコの先を灰皿にトン、とした。タバコを持つ右手の肘を、左腕が悩ましげに支えている。

「そうなんですか？」

わたしは丸めたラップをそっと開いて、クズと実と一緒になった中から一房取り出した。薄皮を剥くと、中にありったけの水分をとじこめてはち切れそうな艶やかな実が出現した。

「誰だろうねぇ、営業にあたしの悪口言ったの。」

黄色い塊を口に入れた。苦い水が広がった。
先輩は灰皿にタバコをグイと押し付けて火を消し、もうきっとぬるくなっているミルクコーヒーを一口飲んだ。

残った八朔の房を割ると、真ん中のワタのところに１センチほどのイモ虫を見つけた。動かないから死んでいるに違いなかった。わたしはそのイモ虫を、バレないようにこっそり指で潰した。