グレートアイデアズ

ペンギンブックスといえば、ペーパーバックの象徴であり、また、デザイナーにとっては燦然と輝くヤン・チヒョルトの存在でも記憶されている。世界的に名を馳せる版元である。

先日青山ブックセンター六本木に立ち寄った折り、驚くべきコレクションに出くわし、言葉を失った。

全面改装していた六本木店にも驚いたが、なにより、エントランス付近に陣取っているデザイン書の存在感に圧倒されつつ驚嘆し、その島を周回していて発見したのは、ペンギンブックスの『グレートアイデアズ』と名打たれたシリーズである。その驚くべき装幀に目を見張った。

『グレートアイデアズ』が何十冊も陳列されているその棚、上段には、雑誌『IDEA』のエミグレ特集。そこには、『グレートアイデアズ』の記事が掲載されていた。うまいなあ、青山ブックセンター、さすがの演出である。ブックショップ・エディトリアルという視点に立てば、この書店のセンスはどう考えても抜きんでている。

『グレートアイデアズ』は2004年に刊行された古今東西の哲学的名著を復刻するシリーズで、タイポグラフィに焦点を絞ったシンプルで力強い装幀が評判を呼んでいるとのことだ。2004年に刊行開始されておきながら、2006年になってようやくその存在を知るなんていう恥ずかしいくらいの情報遅延状態を自ら演じてしまったことにも、我ながらショックを隠せなかった。

しかしである。2年後に知ったとはいえ、その素晴らしいペーパーバックシリーズを手に取れたことは、やはり幸運だと私は思った。白地にブラックとレッド、あるいは、ブラックとブルーのみで印刷され、効果的にエンボスが加えられ、しかも、文字の饗宴がタイポグラフィーの歴史へのオマージュとも憧憬ともなっており、グラフィックデザイナーを嫉妬させずにはおかない鮮やかさでデザインされている。

文字の可能性、文字の生命力、そしてその過去から未来へと続くタイポグラフィーの奥深さに触れることの出来る貴重な書物体験。

ペンギンブックスの『グレートアイデアズ』シリーズは、そんなエネルギーを静かに発していた。

Nori
2006.06.27
www.hiratagraphics.com