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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。 25

 そこまで言うと、大津はビールに変えて、冷酒を注文した。
「今、君に言えることはここまでだ。もちろん言えないこともあることは、理解しておいてほしい・・・・・・・、君も思うところはいろいろとあるだろうけど、今俺が君に対してできることは、このくらいかな・・・・ほかに何か聞きたいことや、言いたいことがある?」
 
 有美は、そこまで聞くと、大津らしい回答だなと思った。端的に出来ることと、できないことを分けて、できることからやっていく。
 ここしばらく、大津と一緒に仕事を一緒にして、彼の仕事のやり方がいてよくわかった。
「ありがとうございました、部長のお考えが聞けて、すっきりしました、どことなく中途半端に今のセクションにいるような気がして、不安だったものですから・・・・・」
 そう返事をすると、大津の方へ顔を向けて、小さく頭を下げた。
「これで、もういいかな?」
大津が、有美の方に顔を向けてそう言うと、
有美は、大津にわかるように小さくうなずくと、再度礼を言った。
「じゃあ、仕事の話は、これで終わりだ・・・・、おなか減ってるんだろう? 好きなものどんどん食べな。」
 明るい声で、有美にそういうと、冷酒をお代わりした。


しばらくして、大津が言った通り、有美は正式に彼の部署へと異動した。
 定期の異動ではなかったけど、他にも異動する人がいたので、その中に混ざってしまい、目立つものではなかった。
 その日、辞令が出た日、一応有美は、依田のデスクまでいき、挨拶をすると、依田は、視線も合わせることなく、ああと一言だけ言ったきりだった。
 最後まで、依田には、何か忸怩たる思いがあるのか、そんな感じだった。
 その足で、上に上がり、今度はたまたまデスクにいた、大津へ挨拶すると、
 「がんばれよ。」
 と笑顔で有美に、優しい視線を投げかけてくれた。
 デスクも、今使っているものをそのまま使うことになったので、環境自体は全く変わらない不思議な異動だった。
 ただ、仕事の内容が、完全に大津の管理するプロダクトに入り、今まで引きずっていた依田の管轄の仕事とは、完全に分離された。唯一、今朝交付された新しいパスワードだけが、「異動」したということを実感させたくれた。
 ただ、有美も直接大津の下に入るわけではなく、今日からは、南村という課長の所属になった。


 

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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

今後の展開を少し迷いながら、進めています。

皆さんに喜んでいただけるように、面白い物語にしていきます。

次回もお楽しみに!

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