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イノベーションの出島組織はなぜうまくいかないのか:ハーバードビジネスレビュー "The Missing Link Between Strategy and Innovation"

上記見出しの記事が3月18日にハーバードビジネスレビューに掲載されました。

筆者はコロンビアビジネススクールのDavid L. Rogersです。

私が現在学んでいるサービスデザインと直接関係するテーマではありませんが記事を見た瞬間、個人的に知的好奇心のアンテナがくすぐられたので短めですが、思いのままに筆を進めてみます。
(今ロンドンのフラットの近所のカフェでこれを書いています)


昨今、大企業内に本業の部門とは別の部門としてオープンイノベーション組織や○○ラボなどを設置し、権限移譲する形で"出島"的にイノベーションチームを作ることが流行っていました。

新規事業の意思決定プロセスに、稟議や根回しを必要とする大企業の意思決定プロセスは合わないためです。

しかし記事の中では、そういった出島組織は結果的に"クリエイティブなアイディア"を量産するだけで、企業価値の向上などに資する成果に繋がらなかったと振り返っており、むしろ、本業の戦略的優先度が高い課題や機会に着目すべきと指摘しています。

記事内では具体例として、Walmartのオンライン顧客体験へのシフト(Walmart+, Pickup Today, Walmart InHome)に関する試行錯誤を挙げています。

ビジネスモデルはサブスクリプションやBOPIS(店舗受け取り)、オンラインデリバリーなどパイロットを繰り返しているものの、コアとなる食料品というカテゴリーや強みであるサプライチェーンの堅牢性はずらさずに、競争優位資源として活用しています。

記事の中でもデータや顧客基盤、サプライチェーンなどの強みは定義・見極めた上で最大限レバレッジすべき、と説かれています。


ここからは私の拙い見解も含みますが、大企業の事業たるには少なくとも数十億~数百億円規模の事業にする必要があるため、一から新しいことをやっていたら息が持たない、ということだと考えます。

アイディエーションからPoCのサイクルを回し、PMFに至るまで一定期間を要しますし、そこから数億円規模にするだけでも何年かかるか分からない。その間に担当者が変わる可能性すらある。新規事業プロジェクトでは、担当者の熱狂的なリーダーシップが社内を動かし、事業の命運を握ります。その担当者がコロコロと変わり、引継いだ担当者が事業をスケールさせるのは至難の業です。

つまり、スタートアップで良しとされているプロセスと、大企業に向いている新規事業のプロセスは根本的に異なる、ということです。

当たり前の話かもしれませんが、同じ土俵で語られる事が多いので改めて言及しました。

新規事業で一番華やかに映るアイディエーションのプロセスですら、大企業ではM&Aなどで代替しうると言えます。



最後に、あえてここでサービスデザインの実践の中で私が個人的に感じてきたジレンマを挟みますが、サービスデザインに係るプロジェクトも往々にしてこの"規模の罠"に陥りがちだと(自戒も込めて)感じます。

一見、システム全体のステークホルダーを分析して、ホリスティックなアプローチをしているように見えても、最終的にアウトプットされるアイディアを見ると"クリエイティブだがスケーラビリティがイメージしづらい"仮説になってしまう傾向があると思います。

これは、ユーザーセントリックになればなるほど、ユーザーのよりニッチな欲求に焦点をあててしまうことも要因の一つと考えます。マーケットとしてニッチな領域を狙うのは問題ありませんが、ニーズまでニッチになってしまうとスケールしづらくなってしまいます。

さらに、サービスデザインの世界においてクライアントやパートナー企業の戦略的優先度や強みを分析したりするアクティビティやフレームワークは現状私の知る限りほぼありません。ユーザー視点を重視するデザインの世界において、企業内部の経営資源に競争優位の源泉を見出す、いわゆるバーニーのリソースベースドビュー的な考え方はどうしても対極に位置づけられやすいからです。

ただし、どちらが良いというわけではなく自社の競争優位の源泉のレバレッジと、サービスデザイン的なマーケットインの視点とのバランスが現実世界では大事になってきます。





以上になります。


記事内では戦略とイノベーションを繋ぎ込む5つの方法が紹介されています。

  1. 異なるレベルで戦略を織り込むこと

  2. 戦略を全従業員に浸透させること

  3. 戦略に沿ったプロジェクトのみ扱うこと

  4. 速やかに仮説検証すること

  5. 短期間でPMFしそうな数少ない案件だけスケールアップさせること


言うは易しの世界ですが、ふと立ち止まってこれらの点について考えるだけでも気づきがあるかもしれません。



一旦、カフェの閉店時間なので執筆はここまでとします。

また気になる記事や面白い論考を見つけたら、このような少しラフな形でシェアさせていただきます。


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