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<2023年に読んだ本から> PART2 児童書部門その1

2023年に読んだ児童書(絵本をのぞく)で、印象深かった10冊のうち前半の5冊です。ほとんどnoteの記事にしていない本です。                      

一般書部門は こちら


1 ラベルのない缶詰をめぐる冒険  アレックス・シアラー 

ファーガルが 趣味で集めていた「ラベルのない缶詰」から 金のピアスが出てきたのが事件の発端。そこから事態は 思いもよらぬ方向にすすむ。

予想していなかった「気味の悪さ」に ページをめくる手がとまらなかった一冊。

気味が悪いのだけど、「え? え? この後どうなるの?」と読むのはやめられず。 
青空のむこう骨董通りの幽霊省もそうだったけど、やっぱりA.シアラーはお話づくりがうまいなあ。金原瑞人さんの翻訳もテンポがよくて、すっかりお話の中に引き込まれた。  <2月>


2 徳治郎とボク 花形みつる

4歳から小6まで、祖父・徳治郎とボクの物語。

一人暮らしのおじいちゃんはとにかく頑固。だいたいのものが気に入らない。耳も遠くて、都合の悪いことは聞こえない。一日のルーティーンも決まっていて、だれがなんと言っても変えない。娘であるお母さんやおばさんたちの忠告や親切も すべておせっかい。

でもボクは、おじいちゃんの「ちっせぇとき」の話を聞くのが 大好きだった。

ほんとに、この徳治郎さんの 頑固ぶりったら最上級。もし徳治郎さんが 自分の家族だったら、こんなに困ることはない。
特に、お医者さんや看護師さん、ヘルパーの人にまで どなりまくるのは、家族として 申し訳なくて申し訳なくて 小さくなってしまうだろう。

だけど、こうしてお話の中の登場人物としてなら、徳治郎さんは魅力いっぱい。

ふだん無口な徳治郎さんだけど、孫のボクには「ちっせぇとき」のことをたくさん話す。

ガキ大将だったこと。
クワノミや ヤマブドウをとったこと。(時には人の家の野菜までとる。)
「とうちゃん」と呼んでいた一番上のお兄さんが 釣りに連れて行ってくれたこと。
石合戦をしたこと。

とっても おじいちゃんになついていたボクだが、成長するにつれ 他に楽しいことが出てきて 足が遠のく。
その間に おじいちゃんは年をとり、できないことが増えていき、そしてとうとう・・。

最期まで 頑固ぶりを発揮して逝ったおじいちゃん。でもおじいちゃんと過ごした時間は、ボクの心の中に 目には見えない大切な宝物をのこしたと思う。


3 人魚の夏 嘉成晴香

小5の知里は、海で人魚に出会った。そして、その人魚に「自分の子と友だちになってほしい」と言われる。
しばらくして知里のクラスに転校してきた 海野 夏。この子が人魚の子どもだった。
夏は自己紹介で性別を明かさなかった。

不思議な雰囲気の話。そしてその不思議さは私にとって心地のよいものだった。

実は、本当にこの世界で暮らしている人魚がいるのじゃないかな との思いが 一瞬心によぎる。
人魚の歌が、天候に影響を与えるというのは、恐ろしさ3割、わくわく感7割。

絵を担当されている まめふくさんは、「波うちぎわのシアン」で知った方なのだが、独特な世界観がとってもいい。


4 夏の庭―The Friends  湯本香樹実

「人が死ぬ瞬間を見てみたい」という好奇心から、ぼくたち3人は、町外れに住むおじいさんを観察することにした。おじいさんに見つかって怒鳴られるが・・。

気がつけば、おじいさんに一番感情移入してしまっていた。

ひとりぼっちの暮らし。訪ねてくる人もなく、たぶんほとんど声を出すこともない日々。
家も荒れ放題。荒れ放題ということは、気持ちもすっきりするものではないし、何事もおっくうで、無気力の日々だろう。
なんだか、身につまされてしまった。

それが、突然あらわれた子どもたちによって、おじいさんの止まっていた時計が動き出す。生活に張りが出てくる。

子どもたちの手伝いも得て掃除をし、少しずつおじいさんの周りがきれいになっていくところが好き。

身の回りがきれいかそうじゃないかということは、心身に大きな影響を与えるもの・・・と書いて、我が家を見回す。ああ、もっと片づけなきゃ。


もしかすると 歳をとるのは 楽しいことなのかもしれない。歳をとればとるほど、思い出は増えるのだから。

この一文も覚えておきたい。   <読書会その26>

5 草の背中 吉田 道子

咲は祖母のことを「こよみさん」と呼ぶ。咲にとって、こよみさんは緊張する相手でもあり、心ひかれる相手でもあった。

そんなこよみさんが、教えてくれた こよみさん11歳の時の「さもしい話」とは・・。

「けなげ」「せつない」「さりげない」
こよみさんは、孫の咲に いろいろな「ことば」を教えている。魔法のように その場にぴったり合わせて使うこよみさんの「ことば」で 咲の心はしんとおちつく。

こんな風に覚えた「ことば」は、その子を形作る心の奥底の大事な核となるのではないかなあ。


「今が肝心!その今を 季節の中で感じて生きていくこと。これが大切なんだ。その人のもとをつくる。そのためには手仕事が一番」

これは、読書と日々の手仕事で暮らしていた こよみさんのことば。
こよみさんは、畑で野菜を作り、梅干しやらっきょう漬けを作り、ドクダミで虫刺され薬まで作っている。

「季節の中で 今を感じて生きていく」
覚えておきたい言葉だ。


こよみさんは「あっさり、さっぱり、きっぱり」生きていた。

亡くなったとき、いろいろな人にこう言われた こよみさん。

私とほとんど年は変わらないのに なんて素敵なんだろう。「だらだら、じたばた、ぐずぐず」暮らしている私には とてもかっこよく思える。

そんなすてきなこよみさんだが、11歳の時に「さもしい話」があったという。それは、いろいろな思いがあったから故の行動だったかもしれないが、一言でいって「ひどい!」。相手をものすごく傷つけてしまうと思えるできごと。

ただ、そのできごとも・・・。


お話の中に 「はたちよしこ」さんの「草」という詩が引用されている。
風にはげしくゆれ、倒れても立ち上がろうとする草の姿を「草の背中」という言葉を使って表している詩だ。

風にゆれている草を見ても、私なら気にも とめない。せいぜい「ああ、今日は風が強いなあ」で終わる。でも、そこに目をとめ、言葉に、詩に表すことのできる作家さんを心から尊敬してしまう。

その「草の背中」は、こよみさんから咲への大事なメッセージとなる。

わたしは、11歳のわたしに言いたいのです
人生は長い、と。
とりかえしのつく時間はいつでもあると。
その気になりさえすれば。
草の背中のようになりさえすれば。

 

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読んでいただき ありがとうございました。