見出し画像

<2023年に読んだ本から>PART4 児童書部門その2

2023年に読んだ児童書(絵本をのぞく)で、印象深かった10冊のうち後半の5冊です。
このうち1冊は、noteの記事にしています。

児童書部門その1は こちら


6 神隠しの教室    山本悦子

とつぜん、小学校から人が消えた。残っているのは、小学生が5人だけ。

地震が起きて、みんな避難したの?
実は、私たちはもう死んでるの?
だれかが私たちを、だましているの?

いったい何が起きているのか?

実はこの5人、それぞれ苦しさを抱えていたのだった。

いつもの学校と同じなのに いつもの学校ではない。
突然、5人の子どもたちが 迷いこんだ 不思議なもう一つの学校。

いったいどうしたら、5人が元の世界に帰れるのか、はらはらしながら読んだ。

5年生が二人、1年生、4年生、6年生がそれぞれ一人ずつの計5人が、食料を見つけたり、自分たちが今置かれている状況の法則を見つけ出したりして、何とか生きのびていく。実に力強い子どもたちだ。

ただ、この5人が抱えている苦しさには胸がいたくなる。
いじめ、暴力、ネグレクト・・、命さえも脅かされそうな状況で、必死に生きている。

養護教諭の早苗先生。5人の居場所に思い当たるふしがあり、助けるために奔走する。この役割を担うことになったのは、自身の忘れられない経験があったから。

帰る方法がわかって、「よしこれで帰れる、解決だ」と思ったけど、すんなりいかず、ますます はらはら。

今度こそ、元の世界に戻れそうになったとき、一人が言う。
「(元の世界に戻ったら)私が変わって、周りも変える」
そして、
「私たち5人で自分の世界を変えていこう。5人で強くなろう。5人で守り合おう」
と誓い合う5人。

前向きでとても立派だと思う。きっと変わっていくと思う。
でも、こんどこそ、ちゃんと大人に守られて 穏やかに暮らしてほしいとも思った。

7 あららの畑  村中李衣

横浜から山口県へ転校した小4のえり。仲良しのエミと離ればなれになってしまいます。
でも、二人はひんぱんに手紙のやりとりをして、お互いの近況を知らせあいます。
二人の気がかりは不登校になってしまった幼なじみのけんちゃんのこと。
とうとうエミは行動を起こします。
全編、二人の手紙でつづる物語。

自然の様子や畑仕事のことがたくさん描かれているお話は大好き。

えりの手紙には、初めての体験や発見がいっぱいつづられている。

ももの毛虫にやられて顔がぷわっとはれたこと。
台風の時のクモは、テキトーに巣をつくると発見したこと。
栗がイノシシにやられたこと。
フキノトウみそを作るのはえらい大変なこと。

五感全部を使って、自然を感じている えり。ものすごく貴重で大事な体験をしている。

一方、横浜のエミ。この子がすごいのは、えりから聞いた畑や自然のことを、いろいろ調べ、自分の考えを伝えること。

「えりがさされた毛虫は、きっと『カレハガ』で大きくなるためモリモリ食べる」とか、えりが畑に広がってこまっていたシロツメクサは、「根っこのつぶつぶは、空気中の上チッ素をすいとって、土の中にためこむらしい」とか、教えてくれている。

新しいことを知ったとき、何故だろうと すぐ調べるエミは 研究者にむいてるかも。

そして気がかりは、幼なじみのけんちゃんのこと。もう、ずっと部屋に引きこもっている。

ただ、手紙で心配しているということを書くだけでなく、エミは行動を起こす。大人にはできない小学生らしいやり方で、けんちゃんに働きかける。

解決したわけではないが、何かが変わるかもしれないと希望の見える終わり方。

全編、手紙だけで進むが、二人の心の移り変わりや成長の様子がよくわかるお話だ。

えりのおじいちゃんの この言葉、そしてそれに対するえりの感想が味わい深い。

「雑草はふまれるとな、しばらくはじいっと様子見をして、ここはどうもだめじゃと思うたら、それからじわあっと根をのばして、べつの場所に生えかわるんじゃ」

ねえ、すごくない? ふまれたり きずつけられたりしたら、おんなじ場所でがんばらなくっていいんだって。
しばらく様子見をして、場所をかえて生きてもいいんだって。


8  月にトンジル 佐藤まどか

6年生の、大樹ダイキシュン万千マチと ぼく・トールは、幼稚園時代からの幼なじみで仲良しの4人組。強くてこわれない鉄の四角形だから「鉄四テツヨン」。
ところが、ムードメーカーのダイキが遠くに引っ越してしまった。
トールはテツヨンの友情は変わらないと思っていたが・・

親が転勤族だったので、小学校では3回転校している。
6年生のとき、クラスメイトが「保育所からずっと同じクラスだね」と、話しているのを聞いて、「私には そんな昔からの友達は いないなあ」とうらやましさを覚えた。
(そもそも、私は幼稚園も保育所も行っていなかった。私の育った田舎には、どちらもなかったのだ。)

このお話の4人組、「鉄の四角形(テツヨン)」と名付けるほど、小さいころからずっと仲良くしてきたなんて、とてもうらやましい。

でも、この「テツヨン」も、一人の転校から、ばらばらになっていく。

大人になってしまえば、
「小さい時、どんなに仲が良くても、大きくなるにつれ、興味がちがってきて、話が合わなくなるというのは、よくある話。むしろそれが『成長』だ」
などと思えるけど、渦中の6年生トールにはなかなか受け入れがたいもの。

トールは、なんとか、元の仲良し4人組に戻そうと努力をするが、結局「テツヨン」は解散となってしまう。

「たとえ途中で道が分かれて、会わなくなったとしても、昔、仲良くした人たちとは、何十年か後に再会したとき、きっと笑って楽しい時間を過ごせるよ。」と、トールに言ってあげたい。まあ、6年生にこれを言っても実感がわかないと思うが。


悲しく悔しい思いの中、トールはいろいろなことに、気づく。

「テツヨンだってさ、きっと四角形じゃなくても、鉄じゃなくてもいいんだよ。それぞれの点が遠くても、いつもつながっていなくても、テツヨンなんて名前じゃなくてもさ。(中略)たまにつながればいいじゃん?そうすれば、きっと、ある意味フメツなのかもしれないよ」

「それぞれの点が遠くても、いつもつながっていなくても」「たまにつながればいい」というのには、大きくうなずいてしまう私だった。


9 みけねえちゃんにいうてみな ぼくはおにいちゃん 村上しいこ

お母ちゃんの友達が 病気になった。その子どものあすかくんと しばらく一緒に暮らすことになった ともくん。
あすかくんは、一つ下なので、ともくんは、おにいちゃんになることに。
「ぼく、いいおにいちゃんになれるかしんぱい」と、どきどきのともくん。
みけねえちゃんといっしょに練習をはじめます。
「みけねえちゃん」シリーズの4冊目

自分や身近な人の健康が 心配な お年頃の私。
登場人物が「病気」という状況には、どうしても 心がざわざわしてしまう。

手術することになったあすかくんのお母さん。入院中、友達に子どもを預けるのだから、たぶん 母一人子一人で、他に頼る人もいないのだろう。自分の病気のこともだけど、もし 自分に何かあったらあすかくんは どうなるだろうと、不安でおしつぶされそうだろう。

あすかくんだって、小学1年生なりにお母さんの病気のことが わかっている。その上、突然、知らない人の家にあずけられどれだけ心細いことだろうか。

一方、ともくん。小学2年生で、あすかくんの一つ上。
あすかくんが来る前、
「えー、せっしゃは、おにいちゃんでござる」などと、みけねえちゃんと一緒に「おにいちゃんの練習」をするところが微笑ましい。

あすかくんが、同級生にカードを取られたとき、ともくんは、あすかくんの教室に、取りかえしに行く。自分より大きい一年生にも先生にも負けずに、言わなきゃならないことを言う。

その晩、おそらくお家に担任の先生から連絡がいったのだろう。

お母ちゃんが言う。
「ともくん、あすかくんのきょうしつに らんにゅうしたんだって」
「そんな いいわけは おかあちゃんには つうようしません」


そして、お母ちゃんはともくんに、
「だっこの けい」をして 
「ともにいちゃん ありがとう」

素敵なお母さんだ。

10 ナルニア国ものがたりシリーズ  C.S.ルイス

田舎の屋敷にあった衣装ダンス。そこは、白い魔女が支配する真冬のナルニア国への入り口。4人の兄弟たちは、ナルニア国の創始者・ライオンのアスランとともに、魔女からナルニアを取り戻します。
7巻からなるシリーズ。

20年程前、確かに読んだ。面白くて全7巻あっという間に読んだ。ああ、それなのに、それなのに、全く内容を覚えていなかったお話。
「もう一度読みたい本」としてピックアップしていたのだが、やっと、ほんとにやっと読むことができた。

やっぱり面白い。さすが、全世界で長年愛されているだけのことはある。

まず、テンポがとてもよかった。原書は1950年、日本では1966年の出版だから、もっとゆっくりした展開かと思っていたら、そうではなかった。
お話が始まって、あっという間にタンスを通り抜けてナルニアだったのにはびっくり。

全7巻で、ひとつの壮大な物語となっていて読み応えがあった。
6巻の「魔術師のおい」は、ナルニアの始まりの物語で、そこで、あの洋服ダンスや街灯のなぞが解き明かされ、なるほどとうなずけた。

1巻目の「ライオンと魔女」で、魔法がとけてだんだん春になって場面がある。

流れ走る水の音でした。目にこそ見えませんでしたが、まわりじゅうで、サラサラ、ゴボゴボ、あわ立ち、たぎり、遠くのほうからはごうごうと うなって、たくさんの流れが流れだしていました。

「ライオンと魔女」岩波少年文庫より

と、まず、流れる水の音に気がつく。
そして、雪の間に緑が見えてきて、青空もあらわれ、花が咲いているという描写。

「そうよそうよ、春の最初ってこんな感じよ」

毎年2~3月、春を心待ちにしている私の気持ちにしっかりささった場面だった。

自分の持っている1987年発売の岩波少年文庫で読んだのだが、失敗したなあと感じている。字が小さくて、還暦過ぎの私には辛かったのだ。
後ほど、同じ岩波のカラー版で読んだら、読みやすい、読みやすい。最初からこちらで読めば良かった。できれば全部このカラー版で読み直したいなあと思っているところである。  <読書会その19>


児童書部門その1は こちら
一般書部門は こちら
絵本部門その1は こちら


読んでいただき ありがとうございました。