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【エッセイ】横顔、撮らないで


 横顔ブスつらい。
私の数あるコンプレックスの中のひとつ。横顔。
全体的にひらべったいくせに口元は出ているし、おでこと目元に落差はなく、鼻のはじまりも低いから目玉がギョロっと見える。小さいあごは少しでも引こうものならたちまち二重あごである。数えたらもっと出てきそうだが、もう自分の横顔をじっと見ていたくない。
10代の頃、何の気なしに撮った写真。初めて見た自分の真横顔に唖然とした。衝撃。正直もっと整った造形をしていると思っていた。その時は見て見ぬふりを決め込んだのだが、その後、高校の卒業アルバムで自分の横顔を見つけてしまった。それから横顔は出来ることなら人目に晒したくない立派なコンプレックスとなった。

それから時は過ぎ、胸元辺りまで伸ばしていた髪を顎のラインまで切ることにした。髪を切るということは顔を隠せるものが少なくなるということ。とても迷ったが切りたい気持ちが4か月以上続き、担当の美容師さんにも「フェイスラインが出ないショートカットで私でも大丈夫な髪型はありますか」と付箋をたくさん張り付けたショートカット特集の雑誌を持参し、相談したうえで決めた。
当時9年ほど私を担当してくれていた美容師さんは、私のロングヘアーへの執着にも近いこだわりを知っていて「びっくりしないように」と少しずつ髪を切ってくれた。
緊張した。でも同じくらい気持ちが高揚していた。心臓がバクバクするのを感じた。
予定のあごのラインまで切り終え、美容師さんが素敵に仕上げてくれた。こんなにバッサリ切ったのは美容師さんも初めてだったらしく、帰る前に写真を撮ることになった。

 少し髪が伸びてきて再び美容室の予約を取ろうとホームページを開くと、美容師さんのブログがあった。担当美容師さんのページを少し遡ると、いたのだ私が。私の横顔が。
そういえば真横じゃなかったからあまり気にしていなかったが、コンプレックスだだ洩れである。写真を許可したのは私だし、今更載っている写真を気にしてもどうしようもない。「撮らせてと言った手前、載せなきゃ」と思って載せてくれたのかもしれない。ただ、せっかく素敵にカット、セットしてくれた髪を私のブスな横顔が邪魔して見えて辛かった。

 再び美容室で髪を切ってもらう。うん、素敵な髪型だ。
おしゃれにセットまでしてもらい帰ろうとすると「今日も写真を撮らせてもらってもいいですか?」と声をかけられた。驚いた。だが、きっと私の顔うんぬんよりも素敵な髪型の記録だろうなと思って撮ってもらうことにした。
まずは真後ろ。だんだんと前に向かってくるスマートフォンのカメラ。スマートフォンが視界に入ったところで私は思わず話しかけてしまった。
「私、自分の横顔キライなんです。」
全体的にひらべったいくせに口元は出ているし、おでこと目元に落差はなく、鼻のはじまりも低いから目玉がギョロっと見える。小さいあごは少しでも引こうものならたちまち二重あごで…。

“だから出来れば写してほしくない”

そんな気持ちを隠しながら「だからこんな横顔で髪型の邪魔して申し訳ないです」と続けた。

「そんな風に思ったことないですよ!」
美容師さんの驚いた声が聞こえた。9年も担当してくれていて本当かな。社交辞令かもしれない。
「私も自分の横顔キライなんです。」
美容師さんはそう打ち明けてくれた後、自分の嫌なパーツを挙げてくれたような気がする。だが、その時のことはよく覚えていない。
驚いたのだ。私も美容師さんの横顔のことそんな風に思ったことなかった。
私の横顔と美容師さんの横顔。全く似ていない。
でもお互い横顔にコンプレックスがあって、お互いに気にしてること、気にしてなかった。

その日撮られた写真はどうなったかは分からない。
もしかしたらブログに載ったかもしれないし、美容師さんの写真フォルダから無くなっているかもしれない。でも割とどうでもいいと思える。
自分で思っている以上に、自分も誰かに興味を持っていないし、自分で思っているほど誰かに興味も持たれていないと思うくらいが生きていくうえではちょうどいいのかもしれない。
そう思うのが難しいんですけどね。

 人にどう思われてるかなんて自分がいくら気にしても、それを飛び越えていくような発想がある。と。


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