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自然光と人工光がつくる時間とシーンは、1日として同じはない。これを実感させてくれる北海道東川の家。いつもの住空間が光を視点に捉えると、非日常な特別な場所になる。ここは、全方向から見て光が家全体をシンプルに包み込み、外と内とが一体化したような感覚を覚える空間だった。

必要最低限の灯りがつくる贅沢さ

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玄関は、一つの光が決定づける。デザインがシンプルなほど光の使い方が明暗を分けると言っても良い。何を幾つ点けるか、どんな形のものを点けるかなどあるかもしれないが、先ずは一つで良いと思っている。しかも、できるだけ強くない光を。玄関の一つの光が次への空間へとクレッシェンドしていく。この家の構成は、全体がL字型で玄関から真っ直ぐ続く廊下側と、その右側のダイニングとリビング側がある。

廊下側

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廊下側は、バスルーム、2つの寝室、ゲストルームと続く。LDは、マーブルトップのアイランドキッチン、無垢のダイニングテーブルが繋がるようにレイアウトされ、その先には薪ストーブがある。そして、このL字型空間の片側全て透明ガラスの開口部で、まさに「光と住む家」を体感させてくれるのだ。

開口を臨む室内

天井の高さは、梁下で2.5m。日本家屋の平均的な高さだ。この空間で、最も注目すべきは、室内に居ながら外をダイレクトに体感できること。もし、ダイニングテーブルの上に、ペンダントライトがあったら外と内の一体感は得られない。全面ガラスの開口に、空間に現れる立体物は「映り込み」となり限られた空間を圧迫するからだ。そこにあるメインの光は、レールさえも天井に埋め込んだ極小のシステムスポットライトと透過しないランプシェードのフロアライトのみ。

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カスタムメイドのキッチンの両サイドに小型のダウンライト。フードライトも点くのだが、光が白すぎるので点けなくても良い。第三の自然光とも言うべき薪ストーブの炎が、全体的に光としてアクセントになっている。ダイナミックに広がるダイニングとリビングにして最小限に配されたライティングプラン。この環境が贅沢な光体験をつくってくれる。

日の出から夕暮れ、日没の自然光と人工光の光の競演

日の出2

ダイニングテーブルから外を臨むところに座る。早朝、日の出を真正面に見ることが出来、太陽光が空間にゆっくりと差し込む。陽を浴びて一日がスタートする心地よさは、淹れたコーヒーの味さえ格別にしてくれる。日が昇っていき、午前中には眩しさが強く時にリネンのカーテンを引いたりする。白いカーテンが太陽光を受け、障子を通したように光を柔らかくしてくれる。訪れたとき、外は雪景色。真っ白な雪が太陽を反射してさらに眩しいのだが、不快はなく自然とともに過ごす時間として供される。

キャンドル

昼食をとり午後のティータイムを過ごしていくと、真冬の北国の夕暮れは15時半を過ぎると室内の明るさで伝わってくる。自然光の移ろいが室内の明るさを示し時計とシンクロする。ここから、外と内の光の競演が始まる。日が沈み、周りの風景が青味がかるわずか30分ほどのブルーモーメント。これは空気の湿度、気温など季節によって変わる。室内はキャンドルが灯され、薪ストーブに火が焼べられる。

ストーブ

夕暮れから日没までゆっくりと自覚することなく、1秒1秒暗さが増していく。薪ストーブの炎、キャンドルと外とのコントラストが見ていて飽きない。

樹木ライトアップBM

ブルーモーメントと樹2

ストーブと樹

完全に日が落ちた辺りから、外のシンボルツリーがライトアップされ一つの灯りのように室内に入ってくる。天井のシステムスポットライトを3割くらい調光で落としシーンをつくる。ストーブ横のフロアライトも段階の調光を使い、一つ明るさを落とす。室内の明るさのバランスをとったことによってシンボルツリーのライトアップが際立ち、心地よく楽しむことができる。

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室内5

ダイニング、アイランドキッチンには過不足ない明るさがあり、それ以外の場所に無駄な光がない。マーブルトップの反射や、ダイニングテーブルの反射で優しく空間に明るさが届く。時間とともに陰影が育っていく。21時を過ぎる頃には、樹木のライトアップと街灯の灯り以外漆黒の闇。外と内とが一体となり家全体の光が外に漏れていく。

家そのものがライトボックス

ライトボックス2low

さて、外からこの家全体はどう見えているのだろう。どうしても外から見てみたいと思い、防寒万全にして飛び出してみた。

街路灯1G

東川の街路灯のピッチは、東京に比べて広くとられているように思う。ここには、過度な防犯と言う理由の必要以上の光が無いのだ。家々の中から洩れてくる温かな光が点在しているだけ。家全体が照明となり、雪原に静かな光のグラデーションを描いている。驚いたのは、夜空に星がたくさん見れたこと。東川は、光と住む町かもしれない。寒さも忘れ、しばらくライトボックスとなった家を眺めていた。きっと、春、夏、秋もその季節だけの光風景があるだろう。一日として同じ瞬間のない光と景色が、飽きることのない状況をつくるのだ。

夕焼けそのもの

夕焼け1

滞在中、快晴に恵まれる。帰る日の夕方、雲ひとつない空に大きな夕焼けを見た。空が赤く染まり、雪原の白さが夕焼けを反射し室内に差し込む。キャンドルの炎と重なりドキっとする。ほんの僅かな瞬間の出来事が感動をつくる。

夕暮れとキャンドル

自然光は偉大だ。共存し空間を演出するべき照明というものは決して主張してはいけない。自然を体感するための重要な脇役。自然光を観察することで、本当に必要な照明は何なのかが実感して初めてわかる。東川の光と住む家は、一番大切にするべき光の感覚を教えてくれる貴重な場所だった。




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