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小児科医と認知症から医療を考える

はじめに

 今回は個人的体験から感じた一つの医療的な選択のあり方についてお話させていただきます。医療の専門家目線の内容というよりは、非専門領域への患者目線での体験で否定的なご意見もあろうかとは思いますが一意見として共有しておきます。

小児科医と認知症

 小児科医にとって認知症は医師として遭遇する確率の著しく低い症候です。僕自身は正直に言って細かな分類や一般的な経過も教科書レベルですら怪しいところです。
 Wantedly でも少し触れましたが僕の経験からくるスタンスは"できることを全部やる"なので”医療的にできるけどやらない"ことをあまり選択しなくて良い小児循環器科を選びました。今回はそのスタンスと対局にある医療のあり方を祖母の認知症を通じて感じたところについてお話します。

祖母の認知症

 祖母が認知症となり、約7年間に及ぶ施設での生活を経て先日逝去致しました。享年87才でちょうど今の日本人女性の平均寿命と同じくらいでした。
 原因は頻度の高い血管性やアルツハイマー型ではなくおそらく前頭側頭型だったのだと思います。おそらくと言うのは主治医から直接聞いているわけではないことと、一緒に生活している両親の決断を優先してもらうため私自身が医師であることや私の意見を待ったりすることで判断がぶれるのを避けたかったため両親からの話を聞くだけと言うスタンスを取っていたからです。認知症で施設に預けることには賛否あるかとは思いますが、このタイプの認知症は行動変容を起こし人間関係を破壊してしまうこともあるため私としては預かっていただいてとても助かった、と感じています。長い間お世話いただいたスタッフの皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

本当に悲しいこととは何か

 祖母の死を聞いた時、私自身は実は思ったほど悲しくはありませんでした。その理由は祖母が認知症であったことにあると感じています。認知症症状が進むにつれ、祖母は私の両親以外のことはほとんどわからなくなってしまい、見舞いに行ったときでもずっと窓の外を眺めており全く反応が見られなくなっていました。(認識できていないのか認識できていても感情や行動に表出できないのか医学的な議論はさておき)

 祖母の中から孫の存在が消えてしまった。

僕自身が感じた最大の悲しみは既にここで発生していたのです。
私見ですがその人間がなんたるかどんな死生観か、これはそれまで出会ってきた人々や体験の中で醸成され脳に記録されていく。そこがすっぽり失われてしまったと言う事実は祖母の祖母らしさが失われてしまったと感じていました。そのため認知症というものは"人間"を考えるととても悲しいものであると思う一方で、残された私たちから見ると心臓が止まったその瞬間の悲しさは軽減されていたと思います。

医療行為は必ず是なのか

祖母の以前からの意向もあり私の両親は胃瘻や人工呼吸器などの医療行為を一貫してしないという方針を取ってきました。度々食欲が低下することはありましたが、大腿骨頸部骨折をした後もピンピンしていたような祖母なので生命力は著しく(全く医学的ではないですが...)その度にしばらくすると食べ始めていました。
胃瘻は僕自身は状況によってはアリだとは思いますが、無理やり栄養を入れられてただ生きているという状況が果たして幸福なのかとも今回に関しては思っていたので、諸々の合併症のリスクも考えるとこれで良かったのだろうと思っています。

様々なガイドラインが策定されていますが、いかなる病状にも疾患としての治療やケアのstandardは有りつつもここの状況を勘案して行間を補填し医学的なbestでなく医療的なbetterを目指していくのが医師の腕の見せ所と考えています。

最近の研究では大規模なRCTでものちに有効性が否定される場合もあることが示されており(ref:eLIFE eLife 2019;8:e45183)、そもそものstandardとされている治療自体も結局のところconditioningされた研究の中では効果があるがreal worldでは効果が得られないこともあるため、僕としては一義的に定義される絶対唯一の解は医療には有り得ずnot harmであれば患者自身や患者家族が納得できる形であれば許容されるのではないかと思います。

終わりに

 あまり流行ってなさそうですが人生会議ってかなり大事なことなんだと思います。

 ちなみに私の終末期の希望は全く奥さんに同意してもらえていないので目下人生会議再審請求中という雑談を交えたところで今回のnoteは終わりにします。




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ありがとうございます!
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森 浩輝

小児科専門医・指導医、小児循環器専門医。興味のあることをまとめてゆきます。内容からして多動性がバレバレですがめげない。
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